コープ自然派とオレンジコープは、ともに新しい福祉を展開するために「生活協同組合連合会コープ自然派・オレンジコープ事業連合」と名称変更しました(2025年10月31日認可)。新たな福祉事業がスタートした新事業連合の理事長に選任されたのは、コープ自然派事業連合前副理事長・辰巳千嘉子さん。
辰巳理事長にコープ自然派・オレンジコープ事業連合の取り組みと新理事長としての抱負を聞きました。

辰巳 千嘉子 | TATSUMI Chikako
2005年コープ自然派奈良理事、2007年コープ自然派奈良理事長、2019年コープ自然派事業連合副理事長、2025年9月コープ自然派・オレンジコープ事業連合理事長、(一社)日本有機加工食品コンソーシアム代表理事、NPO法人 ORGANIC SMILE理事、NPO法人 自然派食育・きちんときほん理事
福祉事業のさらなる充実に向けて
コープ自然派とオレンジコープは共同事業体として福祉事業へ
辰巳 この度コープ自然派は、大阪府南部で尊厳を大切にした福祉事業を行うオレンジコープとともに、新しい福祉を展開していくことになりました。両生協が事業と運営を一体的にすすめる共同事業体です。これから両生協は対等なパートナーとして、事業連合に「宅配事業部」と「住まい・福祉事業部」の二つを設置し、食と暮らしを総合的に支える生協として地域に根ざした事業と活動をすすめていきます。
オレンジコープは大阪府南部の生協で、2000年の介護保険法施行と同時に、介護と住まいを一体化した福祉事業を始めました。そして、2003年には「社会福祉法人野のはな」を設立し、高齢者の住まい事業と障碍者の就労支援事業をセットで行っています。現在、オレンジコープの介護付き住宅、分譲マンション、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などでは約1000人の高齢者が暮らし、いつも満室だということです(関連記事①)(関連記事②)。
一方、コープ自然派事業連合は、2023年5月、「社会福祉法人コープ自然派ともに」を設立し、有機農業の栽培技術を習得する有機の学校と就労支援が一体となった新しい農福連携の実践モデルに向けた取り組みを開始しています。
オレンジコープの福祉事業については以前から大いに共感を寄せてきましたが、コープ自然派が本格的に福祉事業を展開するにあたって議論を重ね、両生協の強みを生かして連携し、福祉事業をともに広げていこうということになりました。
「尊厳」を大切にした福祉事業
辰巳 オレンジコープでは、「最期まで自分らしい生き方ができる」ケアを理念として、「自分の家に住んでいるのと同じように暮らせる住まい」を基本に住宅づくりを進めてきました。オレンジコープが福祉事業を始めるに際して決めたことは、一人ひとりの「尊厳」を大切にし、制限を設けないこと。居室や玄関のカギはかけず、出入り自由、家族や友人の訪問は制限されず、ペットとの同居も可能、お酒やタバコも本人の希望に任せます。
そのためには想定できるリスクに備えて人をたくさん配置し、設備面でも費用をかけて対応、その上でどうしても残るリスクについては自由度を下げない方法で対策を考えます。また、大切にしているのは、本人はもちろん家族とのコミュニケーション。入居後は家族への情報提供を積極的に行っています。そして、理念が揺るがないようスタッフたちはふり返りと確認を徹底しているということです。
組合員理事が理事長に選任される
辰巳 対等な立場で共同事業を行うために、人事面では副理事長と専務理事は両生協から1名ずつ選任、理事長はコープ自然派事業連合の副理事長を務めていた私が選任されました。背景には、コープ自然派の組合員活動への評価と期待があります。組合員パワーが押し上げてくださった人事というべきでしょう。それぞれの生協の名称は変わりません。
コープ自然派では、組合員が中心となって何を食べるかという選択から社会や政治について考え行動してきました。これは前身の共同購入会時代から引き継がれた「風土」ともいえるものです。有機農業推進、食品添加物の削減、遺伝子組み換え・ゲノム編集反対、ネオニコチノイド系農薬反対、脱原発などの運動は組織的に行われています。
商品政策においても組合員が商品を選択し、決定してきました。組合員による商品開発への参画や産地交流なども活発です。その成果として、コープ自然派の食品安全基準の高さは他生協からも一目置かれています。また、情報公開と組合員主権を生協の基本としていることから、カタログや機関紙、HPなどで積極的に情報発信しています。さまざまな課題での学習会や講演会、署名活動、パレード参加など組合員の活動は目を見張るものがあります。
福島原発事故後、四国・関西に避難された方たちの多くがコープ自然派を選ばれたのは、商品の放射能測定をいち早く行い、すべて公表するというコープ自然派の姿勢に信頼を寄せてくださったからだと思います。
このようなパワフルな活動をもとに、食・農・環境を守り、誰もが国産オーガニックを食べられるよう国産オーガニック推進事業に取り組み、国内では最先端を走っています。
組合員理事を経験した理事長としては、福祉事業においても組合員主権を基本とした活動に取り組みたいと考えています。現場の決定権を大切にしたワクワクするような組織づくりにも挑戦したいですね。
女性パワーをさらに生かして
辰巳 女性が理事長に選任されたことについては、ジェンダー平等に一歩近づいたので重責を感じつつもうれしく思っています。組合員の多くは女性で、職員も圧倒的に女性が多いにも関わらず、役職員はほとんど男性。女性たちのパワーがコープ自然派をつくってきたといえるのですから、経済的自立のためにも女性たちがもっと経営に参画し、役職員に女性が半数を占めるような組織づくりに取り組むことが必要です。そして、暮らしに根ざした女性たちが持つ多様な価値観や視点は、民主的な運営をめざす生協にとって不可欠な要素だといえます。
人は誰もがケアされる存在なのに、ケア労働は女性が担うものだとされ、貶められてきました。賃金は低く抑えられ、ケア労働者は常に不足しています。私たちが行う新たな福祉事業では、ケア労働の位置づけや待遇面でもフェミニズムの視点からとらえ直したいと考えています。

生協が福祉事業に取り組む意義
今、なぜ福祉事業が求められるか
辰巳 経済とは本来、人々の生活を守り、人々を幸せにするための手段でした。しかし、行き過ぎた資本主義は、人々を経済成長するための手段にしてしまっています。1990年代から押し寄せた世界的なグローバリズムは、社会構造や産業構造を激変させ、格差や貧困、各地の紛争や気候危機、自然災害の頻発を生み出しました。国内でも新自由主義の浸透により競争が激化し、農協も生協も経済事業を優先させられています。私たちは相互扶助が徹底的に解体された時代に生きているといっていいでしょう。資本主義ではもうからないものには投資されず、ケアはもうからないから質が低下していきます。
「生協の父」賀川豊彦は生協を「助け合いの組織」と位置づけました。弱者の立場に立って地域に貢献するという役割を持ち、共生・協働の思想とその実践が求められます。また、生協は情報公開を基本とし、話し合いで物事を決めていくというプロセスを大切にしています。さらに、教育の場としての期待もあります。食や農、暮らしのあり方を選択できる人を増やすことは、市民意識が全般的に低下する状況において、とても意義あることだと思います。このような生協の理念に忠実に活動するコープ自然派がめざすのは、誰もが心豊かに暮らせる地域づくりです。
高齢者問題は誰にとっても大切な問題なのに、隅っこに追いやられていることにずっと違和感を抱いていました。誰だって年を重ねるし、老いて邪魔にされる社会は若い人たちにとっても幸せな社会であるはずがありません。どのようにすれば誰もが心豊かに暮らせるかを考え続けたいですね。
サ高住を拠点としたコミュニティづくりを
辰巳 新たな福祉事業では、まず各生協ごとにサ高住を設立し、サ高住を中心としたさまざまなコミュニティづくりを行いたいと考えています。例えば、サ高住の1階にコミュニティルームやカフェなどをつくり、地域の人たちにも開放すれば情報交換の場になります。
この生きづらい社会では、障碍者、不登校、引き込もりの人たちも増えています。サ高住はそんな人たちの居場所になったり、仕事をつくり出していくこともできます。誰もが集える場があれば地域の人たちのつながりができ、課題解決の糸口になるのではないでしょうか。高齢者が子どもたちの見守りをしてもいいですね。
オレンジコープでは、高齢者住宅で提供される食事はすべて障碍者の就労支援事業でつくられていて、農場や野菜カット工場、レストラン、パン屋、乗馬クラブなどもあり、すべての場所で障碍者が働いています。さらに、障碍者が介護福祉士や調理師の資格を取得できるしくみもスタートしているということです。
組合員パワーを存分に生かそう
辰巳 一方、物価の高騰により、実質賃金は減少し、困窮世帯が増えています。そして、少子高齢化と人口減少は加速。コロナ禍では、宅配事業は大きく伸長し生協の宅配は高い評価を得ましたが、その後、若い世代を中心にネットスーパーが定着し、大手流通がネットスーパー事業に積極的に参入しています。生協にとっては厳しい時代であり、食を選ぶことに加えて、暮らし方や働き方も変えていく時期に来ています。
福祉事業を始めるにあたっては、人材確保や資金面などオレンジコープのノウハウをしっかり継承させていただきます。一方で、組織が大きくなれば、中央集権的になりがちですが、そういう組織体制は取っ払いたいというのが私の強い思いです。指示されたことをやっているだけでは人も組織も育ちません。新事業連合誕生を機に、よりチャレンジしたくなる環境を整えていきたいですね。そして、地域ごとの切実な思いや課題解決が形になれば、女性の活躍の場も増えます。そうなれば組合員も増え、地域の人たちも集まってきます。
協同組合にはさまざまな可能性があります。私たちは思いを実現し、必要とする物事を一つひとつ形にしてきました。そんな組合員パワーを存分に生かし、国産オーガニックをさらに推進しつつ、ケアを真ん中に置いた、誰もが心豊かに暮らせる地域づくりにともに取り組んでいきましょう。
(取材・文 高橋もと子)
Table Vol.521(2026年1月)

