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くらしと社会

香りに包まれた暮らしの危険性

「香害」に苦しむ人が増加しています。2020年9月26日(土)、コープ自然派奈良では、日本消費者連盟(洗剤部会)・平賀典子さんを迎えて、「香害」の原因や症状などについて学習会を行いました。

日本消費者連盟・洗剤部会制作のポスター。柔軟剤や合成洗剤の香りによる健康被害防止を呼び掛けています。

急増する「香害」とは

 「香害」とは、柔軟剤や消臭除菌スプレー、芳香剤、制汗剤、合成洗剤などの強い香りによる健康被害。頭痛、目や喉の痛みなどさまざまな症状が現れ、重症化すると化学物質過敏症を発症する恐れがあります。

 日本消費者連盟では2007年7月26日と8月1日の2日間、「香害110番」という電話相談を実施しました。すると電話が鳴りっぱなしになり、213件の相談が寄せられました。「シャボン玉石けん」(北九州市)が2018年5月に20〜50歳代の女性205人を対象に行ったインターネット調査では、「香害」で体調不良を起こした経験のある人は64%。また、日本消費者連盟や各地の市民団体により結成された「香害をなくす連絡会」が2019年12月末から2020年3月末までの3ヵ月間に行ったアンケート調査では、回答数9322人のうち香り付き製品で具合が悪くなったことがあるという人は約8割、7000人以上で、最も多かったのは柔軟剤86.0%で6000人以上、次が合成洗剤73.7%で5000人以上でした(複数回答)。

 柔軟剤の被害が大きくなったのは、香りが強くて持続する製品が次々と発売されるようになったからです。2008年頃にアメリカのダウニー柔軟剤が日本でも話題を呼び、この頃、汗のニオイ(体臭)を過度に気にする風潮が高まって各メーカーがこぞって香りの強い洗剤や柔軟剤を製造するようになりました。

合成香料の有害性

 合成香料は約4000種の香料原料のうち数10〜数100種類の香料を混ぜ、有機溶剤を添加してつくられる複合化学物質。国内では約300種の合成香料が製造され、石油から製造されることで安価になりました。合成ムスク(合成香料)は内分泌かく乱物質で環境中に長く残ります。クマリン(合成香料)は桜の香りのような香料で、動物にがんを発生させることで知られる物質ですが、通常使用量であればヒトに対しては問題ないとして、今も広く使われています。香料保留剤として添加されるフタル酸エステルは内分泌かく乱物質で、発がん性や生殖毒性があります。

 また、多くの柔軟剤に使われるマイクロカプセル製法はカプセルが時間差で弾けることで香りが持続します。マイクロカプセルの素材はウレタン樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、化学修飾シクロデキストリンなどで、分解しにくく環境にも悪影響を与えます。また、カプセルが壊れるごとに有害な化学物質を放出。マイクロカプセルはサイズが小さいため、気管支や肺の奥まで通過し、肺にダメージを与えます。EUではアレルギーを起こす26成分については表示義務がありますが、日本では「香料」とのみ記載されています。

 神奈川県が2011年に国内外の柔軟剤15点を洗濯時の濃度に薄めて香りを調べたところ、大半の製品の「臭気指数」は県が定める住宅地での工場排水の規制値並みだったことが判明しました。

柔軟剤はなぜ必要?

 柔軟剤は皮膚刺激が強く、細胞にくっついて菌を破壊するので肌荒れやかゆみの原因になります。また、生分解性が悪く環境にも悪影響を与え、有害なVOCを発する香料や溶媒などの化学成分が含まれます。VOCとは揮発性有機化合物で、塗料や洗剤、接着剤、洗剤、シンナーなどに含まれ、屋外ではPM2.5や「浮遊粒子状物質」「光化学オキシダント」の原因の1つとされています。

 さいたま市の「身近なものを測定してみよう」という子どもイベントでは、油性マジックより柔軟剤の方が多くのVOCを検出したという結果が出ています。

除菌スプレーへの疑問

 2月下旬、「ファブリーズW除菌アルコール成分入り」(無香料)が発売されました。これは消費者の約4割が無香料を好むという調査結果を踏まえたもの。注意書きには「新型コロナウイルスの予防を目的とした製品ではなく、またその効果は確認できておりません」と書かれていますが、品切れになるほど売れています。

 除菌成分である「第四級アンモニウム化合物」「塩化ベンザルコニウム」は皮膚炎や喘息を悪化させ、過剰な消毒は免疫力を低下させます。また週1回の消毒剤使用でCOPD(慢性閉塞性肺疾患)発症率が32%も高くなったという実験結果があります(米仏の実験)。東京都健康安全研究センターの調査(2010年)では、生まれたばかりの仔マウスにファブリーズ原液希釈して投与すると死亡率が高まるという結果が出ました。「瞬間お洗濯」「ファブリーズで洗おう」は特定適格消費者団体の提起で2019年から表示禁止になりました。

化学物質過敏症とは

 一度に多量の化学物質を取り込んだり、少量でも長期にわたって化学物質を取り込み続けることで化学物質過敏症を発症。一度、発症してしまうとわずかな化学物質で反応します。日本では2009に病名が登録されましたが、発症に至る詳細はまだはっきりとわかっていません。化学物質過敏症の原因として、以前は新築やリフォームがきっかけで発症する人が多かったのですが、近年は柔軟剤や洗剤、消臭剤の香料で発症することが多く、テレビCMが増えるのと並行して体調不良を訴える人が急増しています。 化学物質過敏症は脳に作用することが大きな問題で、主症状として自律神経障害(頭痛、倦怠感)、循環器障害(動悸、不整脈)、免疫障害(皮膚炎、喘息)、消化器障害(下痢、便秘)、眼科的障害(視力低下)、内耳障害(耳鳴り)、精神障害(うつ状態、ふるえ)、運動器官障害(関節痛、筋肉痛)など全身に及びます。現在では10%程度の人に化学物質過敏症の傾向が見られ、「化学物質過敏症支援センター」への電話相談は年間約2000件寄せられています。一方、専門外来は次々と閉鎖され、完治する薬はなく化学物質を避けるしかないというのが現状です。

 学校では持ち回りで洗う給食着の柔軟剤臭で発症し、学校や幼稚園に通えなくなる子どもたちや教師がいます。新潟県立看護大学・永吉教授らが小中学生を対象として2005年、2010年、2017年にアンケート調査を行ったところ、化学物質過敏症は年々増加し、年間平均12%の小中学生に兆候が見られました。また、化学物質は胎盤を通過する可能性が指摘されています。

自治体やメーカーの対応

 東京都小金井市ではコロナ予防のため校内を消毒していますが、小学2年生の児童が目や耳、頭が痛いと泣いて帰宅しました。そこで、保護者と話し合って安全な石けん消毒に切り替えました。香りのマナーというポスターも制作。市・区レベルでは全国で約50の自治体が香りの自粛を求めるポスターを制作し、約90の自治体がHPに香りの自粛や化学物質過敏症について掲載しています。県単位では埼玉県と岐阜県がポスターを制作。平賀さんが住む東京都大田区では区議会が柔軟仕上げ剤に含まれる香料の健康影響に関する意見書を国に提出しました。

 日本石鹸洗剤工業会は消費者8団体からの面談要請を拒否、各省庁は縦割りでなかなか対策が進まず、厚労省・経産省・環境省・文科省・消費者庁による関係省庁連絡会の設置を要求して2019年に発足しました。業界団体もようやく重い腰を上げ、まずライオンから、次いで花王も香料成分のみHPで公開。P&Gは開示していませんが、アメリカやカナダのP&Gは市民運動により2019年に開示。北米ではデトロイト市の訴訟をきっかけに無香料化が進み、カナダでも病院から始まって、オフィスや空港でも進められています。

 「まず『香害』について知ること。そして、香料など有害な化学物質を避けるには買わない・使わないこと。『香害』に遭遇したら国民生活センターなどに相談してください。宅配業者や工事、飲食店などに改善を求めることも必要です。そして、『香害』を周囲に伝え、多くの人たちで取り組む努力をしましょう」と平賀さんは話します。

日本消費者連盟・洗剤部会で活動する平賀典子さんは、豊富な資料やデータを示しながら「香害」について説明。この後、2019年に創立50周年を迎えた日本消費者連盟の活動を杉浦陽子さんが紹介しました。

Table Vol.429(2020年11月)より
一部修正・加筆

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