2025年9月23日、コープ自然派しこく(こうちセンター)では、すし職人の岡田大介さんを招き、実際に魚を見たり触ったりできる体験型の講演会を開催しました。

すし職人からすし作家へ
岡田さんはすし職人です。毎日たくさんのすしを握っていますが、ある日「おすしはいのちのかたまりだ」と気がつきます。すしに使う材料は、米、海苔、魚、きゅうりやしょうが、酢や醤油に至るまで、すべて元は生きものです。生きものではないものは、水と塩くらいしかありません。すしの中にたくさんのいのちが入っていることのすごさと感動を伝えたいと、すし職人の枠を超えて、すし作家になりました。
すし作家とは
岡田さんはすし職人になってから、魚のことをもっと知りたいと釣りを始めました。海の中にも興味がわきダイビングを始めると、海藻にも関心が広がります。海藻料理の研究や料理教室を続けるなかで、日本の海では海藻が減り、魚の卵が育つ藻場が減ったことで魚が減りつつあることも知りました。生産地をまわり、さまざまなプロと知り合ううちに「すべての食材に魂が込められていると感じるようになった」という岡田さん。すしを入り口に、生きものが食べものになるまでを絵本や講演会などで伝えています。
魚がすしになるまで
海で泳いでいた魚は、漁師に獲られて市場に運ばれます。市場に魚屋が買いに来て、魚屋で料理人が魚を買って店まで運ばれます。料理人は店の厨房で魚のウロコや内臓をとり、食べやすいように捌いていきます。魚の胃袋からは、もっと小さな魚やカニなどが出てくることもあり、魚も他のいのちを食べて生きてきたことが分かります。「生きもの」だった魚が切り身になり、だんだんと「食べもの」に見えてきます。最後に酢飯にのせればすしのできあがり。食べるのは一瞬かもしれませんが、魚がすしになるまでには、多くのいのちと人の手が関わっています。
「やったことがある」が大事
料理をするのは料理人だけではありません。家で食べるごはんは家族の誰かがつくることが多いですが、つくっていない人にとっては「食べたことはあるけど、つくり方は分からない」メニューが意外と多いのではないでしょうか。岡田さんは、ごはんをつくれる人とつくれない人の違いは、「やったことがあるかどうかだけ」だと言います。「やったことがある」は、できるようになるための大きな第一歩です。
子どもたちに経験の機会を
岡田さんが魚のウロコ取りを実演すると、子どもたちは「やりたーい!」と興味津々です。ウロコ取りは、専用の道具がなくてもペットボトルのふたで代用できます。魚の種類によっては包丁でも取れるので、まるごとの魚さえ用意すれば、家庭でもすぐに経験できます。「子どもの好奇心が芽生えたときに、体験できる環境を用意できれば素晴らしいですよね」と岡田さん。

魚の捌き方を実習
第2部では、魚の捌き方の実践講習が行われ、抽選で選ばれた10組の親子が参加しました。まな板や包丁の扱い方から、3枚におろして骨や皮をとるまで、本格的なプロの技に挑戦。参加者の多くは小学校中学年くらいの子どもたちでしたが、みんな落ち着いてしっかりと捌くことができました。
やってみることの前段階は、観察することです。「自分が食べるものをよく見て、触って、感じてほしい」と岡田さん。「子どものころから、生きものと食べもののつながりを毎日の台所で経験してもらえたらうれしいです」。
Table Vol.520(2025年12月)

