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くらしと社会

もっと知ろう!内部被ばくの話

※イメージ

2022年10月24日(月)、コープ自然派兵庫(ビジョン環境 このゆびとまれ!主催)は、「みんなのデータサイト」運営委員・大沼淳一さんに内部被ばくについて聴きました。
さまざまなデータに基づくお話の一部を紹介します。

福島原発事故により汚染

 大沼さんは、福島原発事故後、内部被ばくの危険性などについて各地で講演活動を行っています。また、全国の市民放射能測定所を結ぶネットワーク「みんなのデータサイト」運営に参加し、「東日本土壌ベクレルプロジェクト」などで活動しています。

 世界で起きているマグニチュード6以上の大地震のうち約20%が日本に集中し、その日本に原発が次々と建設されました。「世界でもっとも危険な日本の原発立地。なぜ私たちは気づかなかったのか、または気がつかないふりをしてきたのか」と大沼さん。そして、2011年3月11日、未曽有の大地震によって福島第一原発事故が起きました。

 当日は幸いにも北西風が吹いたため、約80%の放射能は海側に流れました。しかし、15日と21~22日には陸域を汚染し、放射能の雲(プルーム)が流れた福島、宮城、栃木、茨城、千葉、東京などの水道水は放射性ヨウ素131や放射性セシウムで汚染されました。また、福島などでは食品の放射能測定が遅れ、少なくとも3月22日まで汚染された野菜が流通していました。3月23日にようやく葉物野菜と結球野菜が出荷制限されましたが、どれだけ汚染したものが食べられたかわかっていない状況です。

みんなのデータサイト

 2011年7月、愛知県内の4つの産直グループが集まって市民測定所(通称Cラボ)を開設、測定器の購入代金500万円のうち100万円を高木仁三郎市民科学基金から助成を受けました。2012年、全国の34測定所がそれぞれ公開していた食品データを統合し、各種検索ができるよう「みんなのデータサイト」を立ち上げました。

 福島原発事故後、国や地方自治体は福島原発80㎞圏内で一度だけ行った調査を除けば、土壌中の放射能濃度を直接測ろうとせず、地上300mの上空から空間線量率を測定して、地上の放射能濃度を推定計算するという極めて不正確な方法を選びました。そこで、「みんなのデータサイト」では2014年から東日本17都県の土壌に含まれる放射性物質を測定する「東日本土壌ベクレル測定プロジェクト」を開始し、3年半で約4000人のボランティアが公園、小学校の校庭、保育園の園庭の土など3400カ所以上のサンプルを採取しました。その結果、帰還困難区域で立ち入りできなかった双葉町や大熊町のサンプルはありませんが、100年後の2111年になってもまだ人が住むべきではない地点が多数あることがわかりました。

 2018年11月、これまでの測定結果を地図化したものにさまざまな解説を加え、グラフや表なども収録した「図説・17都県 放射能測定マップ+読み解き集」を発行。2019年9月には英語版ダイジェストを発行、さらに、2020年4月、30ページ以上の増補と改訂を行った「増補版」を発行しました。

内部被ばくのリスク要因

 ベラルーシとロシアの非常事態省が作成したアトラス(汚染地図帳)は州ごとに、さらに10年ごとに70年後までの汚染地図を示し、住民はいつ故郷に帰れるかを知ることができます。一例として、汚染がひどかったベラルーシ・ゴメリ州は70年後でもまだ立ち入り禁止区域が残っています。

 ウクライナ医学アカデミー放射線医学研究センターのホールボディカウンター(WBC)のデータでは、ウクライナの人々の内部被ばく線量はチェルノブイリ原発事故から10年後に再び上昇し、12年後がピークになっています。これは事故直後は汚染食品の摂取に気を付けていても時間の経過とともに注意が散漫になり、牛乳やキノコ、ベリー類、じゃがいもなどを再び摂取し始めたからだろうと考えられています。「日本でも同様にきのこや山菜を食べ始めているという話をたくさん聞きます。福島原発事故から約12年、事故からの経過時間に安心することなく注意が必要だということをチェルノブイリ原発事故から学ぶ必要があります」と大沼さんは言います。

 山菜や野生キノコは町村単位、動物(ジビエ)は県単位で規制していますが、規制は緩く、出荷フリーになっているところも多く、通販や自家採取で食べている人も多くいます。福島原発事故による月間放射性降下物量は大気圏内核実験時代と比べて桁外れに多く、福島における月間放射性降下物量は依然として高止まりしています。野生キノコの放射能測定結果から青森県など緯度の高い地域では60年以上も前の大気圏内核実験由来の汚染が今も残り、福島原発事故由来の内部被ばくのリスクを重ねることになります。
 福島原発事故直後、国立がん研究センター・嘉山理事長らは緊急記者会見を開き、放射性物質汚染の健康影響について、「チェルノブイリ原発事故や広島・長崎原爆生存者の追跡調査などのエビデンスから、原子炉付近で作業を行っている人を除けばほとんど問題ない」との見解を発表。年間100mSv以下なら発がんリスクはないと公言する「専門家」もいます。

 そんななか、東京大学大学院・小佐古教授は、「年間20mSv近く被ばくをする人は約8万4000人の原子力発電所の放射線業務従事者でも極めて少なく、この数値を乳児、幼児、小学生に求めることは学問上の見地からのみならず、私のヒューマニズムからしても受け入れがたいものです」と記者会見して政府参与を辞任しました。公衆の被ばく限度は年間1mSvだったのが、事故後、年間20mSvまで引き上げられたままで今日に至っています。ICRP(国際放射線防護委員会)のLNTモデルによれば、年間1mSvは毎年10万人に5人のがん死、20mSvだとリスクは20倍になって100人のがん死となります。

多発する小児甲状腺がん

 福島原発事故後、ヨウ素剤はほとんど配られませんでした。放射性ヨウ素は肺や消化管から取り込まれ、吸収量の10~30%が甲状腺に蓄積して甲状腺がんを発生させます。放射性ヨウ素が取り込まれる24
時間前から直前までにヨウ素剤を飲めば93%阻止できますが、2時間後では80%、8時間以降で40%、24
時間後では7%しか阻止できません。

 福島県は県民健康調査の結果として274人の小児甲状腺がんを発表。この調査からもれていた40数人が他の調査から判明し、合計300人を超える子どもたちが小児甲状腺がんを発症してしまいました。小児甲状腺がんは10万人に数人しか発症しない病気です。しかし、政府や原発推進の専門家たちは過剰診断の結果で「福島原発事故のせいではない」と主張し続けています。

ぜひ、乳歯の提供を!

 ストロンチウム90はベータ線しか出さないため測定がとても難しく、骨に沈着して骨髄細胞を叩き続けます。半減期は29年でほぼ一生ものです。ヒトの骨を測定することはできませんが、乳歯を測定できます。大沼さんたちは内部被ばく状況を知るために乳歯を保存してストロンチウム90を測ろうと、2015年、「乳歯保存ネットワーク・非営利未来型株式会社はは」を設立、抜けた乳歯の提供を呼びかけています。少なくとも3000人くらいの乳歯を集めたいとスタートし、現在、約600人分が集まっています。「無料で測定し、データをお知らせしますので、どんどん送ってください」と大沼さんは呼びかけました。

50年前からずっと原発に反対してきたという大沼淳一さん。原発避難者損害賠償訴訟岐阜・愛知を支援し、避難元汚染状況調査データを意見書として裁判所に提出しています。

Vol.479(2023年1月)より
一部修正

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