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くらしと社会

「檻の中のライオン」で学ぶ憲法の本質

2022年6月12日(日)、コープ自然派おおさかは「檻の中のライオン」著者で、弁護士の楾大樹(はんどうたいき)さん講演会を開催、7月10日投開票の参議院選に際して改めて憲法の本質について学びました。

「安倍政権下で繰り返された憲法違反を復習すると憲法の全体像が学べます。『そんなことはやっちゃダメですよ』ということを学ぶのにちょうどいい教材のような政権でした」と楾大樹さん。

ライオンを檻に入れよう

 日本国憲法第99条に憲法は公務員が仕事をする上で守らなければならない法(ルール)であると書かれています。つまり、国民は公務員がルールに基づいて仕事をしているか監視し、憲法を守らせる立場にあります。

 国家権力を動かす公務員をライオン、憲法を檻、国民を動物たちに例えて楾さんのお話はすすみます。ライオンは強くて頼りになるため、動物たちはライオンに仕切り役をお願いします。しかし、ライオンは暴れだすと恐いので、「憲法」という檻の中で仕事をしてもらうことにしました。

 さまざまな種類の動物たちがいるように、私たち国民もそれぞれ異なる個性を持ち、人間らしく生きる権利があると憲法で定めています。これらの権利は生まれながらにして天から授かったもの「自然権」「天賦人権」と言い、思想家のジョン・ロックやジャン・ジャック・ルソーらが提唱しました。憲法第11条では「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる」と規定。第13条では「すべて国民は、個人として尊重される」と一人ひとりが自分らしく生きる権利を定めています。そして、価値観が異なる人たちが共存するために法律をつくり、法律を基に争い事を解決し、法律が守られるよう政府・国家権力が必要です。これは、個人のための国家(個人主義)であり、国家のための個人(全体主義)ではないことを意味します。

檻をつくるのは私たち

 権力は歴史的に濫用されてきました。そこで、動物たちとライオンの間で「ライオンは檻の中にいる」という約束をします。この約束を「社会契約」と言い、口約束ではなく契約書にしたものが憲法です。憲法に基づいて政治をすることで私たちの権利を守ることを「立憲主義」といいます。権力を法でしばる、権力者も法の下にあるということを「法の支配」と言います。しかし、憲法という檻をライオンがつくったのでは、ライオンにとって都合の良い檻になるでしょう。権力者自らつくった檻を「欽定憲法」と言い、かつて日本では主権者である天皇がつくった「大日本帝国憲法」が定められていました。大日本帝国憲法も立憲主義でしたが、人権を制限できる法律がつくられていました。一方、「日本国憲法」は国民がつくった「民定憲法」です。国民が憲法をつくることを「国民主権」と言います。

 国民は法律を守らなければなりませんが、憲法に反した法律を守る必要はありません。そして、憲法違反の法律に文句を言う権利があります。第98条1項「この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」と記載。憲法は制度や法律の判断基準となるため、法律より変えにくくなっています。民主主義では多数決で物事が決まりますが、多数派は何をしても良いのでしょうか?お互いの価値観を尊重し合い、すべての人が人間らしく暮らせる仕組みが民主主義です。多数派が少数派を踏みつけることは憲法違反であり、いきなり投票するのではなく、話し合いで妥協点を探ります。「『政治は人に任せておけば良い』という考え方の人が多い国は独裁国家と同じです。私たちが国政の主役だという意識を育み、自分の頭で考えて主体的に行動ができる国民を育成しなければなりません」と楾さんは話します。

勝手に戦争はできない

 第9条「平和主義」は憲法の基本原理であり、2項に「戦力は保持しない、交戦権は認めない」と規定。1954年に発足した自衛隊は日本国民の身を守るために存在し、それを超える武力を持つことは許されません。「個別的自衛権」は日本が攻められた時に日本を守るための国際法上の権利で、「集団的自衛権」は外国が攻められた時にその国を守るために戦争する権利です。しかし、2015年の「安保法案」強行採決により改憲手続きすることなく集団的自衛権が容認され、この檻は安倍政権下で壊されてしまいました。全国の弁護士会は「安保法は立憲主義に反し憲法違反です」と意見を発表。現在、防衛費を国内総生産(GDP)比2%にする議論が行われています(日本はGDP比1%以内を目安としてきた)。

 国民が安心して自由に生きる権利「自由権」があります。第21条「表現の自由」は自由に発言・議論し、政治に反映できる権利で、民主主義の前提となるものです。「私たちは政治について自由に意見を言えているでしょうか?『政治の話をすると友だちがいなくなる』といった雰囲気が日本にはあります」と楾さん。そして、私たちが権力をコントロールするためには、第21条1項「知る権利」を使い、何が起きているか知らなければなりません。日々のニュースを知る努力も民主主義を守るための国民の役割です。

檻が壊されない仕組み

 権力の濫用を防ぐため、憲法には立法権(国会)・行政権(内閣)・司法権(裁判所)に権力を分け、互いにブレーキがかけられるよう三権分立という仕組みがあります。政権与党だけの判断で簡単に変えられない憲法を「硬性憲法」と言い、憲法改正には第96条1項「総議員の3分の2以上の賛成で発議」「国民投票で過半数の賛成」が必要です。2013年、当時の安倍政権は参院選で「総議員の3分の2以上の賛成」を「過半数の賛成」に変更することを打ち出し、自民・公明両党が圧勝しました。「この時の選挙結果には驚かされました。ライオンが『檻を柔らかくして』と要求し、国民は『どちらでもいい』と反応したのです。何が問題か、何が争点になっているのかさえ知らない人が多数だったように思います。危機感を強く持ち、それが講演活動を始めるきっかけになりました」と楾さん。司法権(裁判所)による第81条「違憲審査権」は、権力(立法権・行政権)が憲法違反していないかチェックする仕組みです。日本国憲法では「付随的違憲審査制」を採用し、具体的な人権侵害事件に際して被害者が裁判所に訴え審理される中で違憲性を判断するため、判決が出るまで大変な時間がかかります。

 第12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」とあります。私たち主権者は常にライオンの動きに関心を持ち、憲法の仕組みを学び、権力が憲法違反をしたら批判し、選挙で憲法違反しないライオンを選ぶ、「不断の努力」をしなければなりません。「一人ひとり主権者としての自覚を持ち、主権者としての資質を身につける努力をしましょう」と楾さんは話しました。

Table Vol.469(2022年8月)より
一部修正・加筆

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