2024年11月7日、コープ自然派兵庫(理事会)は作家のアルテイシアさんを招いて講演会を開催。ジェンダー後進国である日本に暮らす私たちへのエールに満ちた内容を紹介します。

無意識の性差別
「〝女なのに料理が下手〟〝男なのに稼ぎが少ない〟そんな劣等感を感じたり、誰かを揶揄したりしたことはありませんか?」とアルテイシアさんは問いかけます。自分でも気づかない無意識の思い込みや差別を「アンコンシャスバイアス」といいます。例えば、「料理男子」や「イクメン」という言葉には〝男は家事や育児をしないもの〟、「リケジョ」や「女医」には〝女は理系の勉強や仕事には興味がないもの〟というバイアスがあります。「この言葉は男女逆でも使うかな?」「性別に結びつける必要あるのかな?」と問い直してみると、自分の中のアンコンシャスバイアスに気づけるかもしれません。
みんなアップデートの途中
日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位。特に政治や経済の分野での順位が低く、国会議員や企業の役員など〝意思決定の場〟には女性がほとんどいません。また、女性は男性の5.5 倍も家事・育児をする時間が長く、それがキャリア格差や出生率の低下にもつながっています。
そんな性差別の強い国で育つと、それが当たり前すぎて差別が見えなくなりがちです。アルテイシアさんが大学でフェミニズムの授業をすると、女子学生から「いまの日本に性差別ってありますか?」と質問されることがあるそうです。でも、「あなたの大学の学長で女性はこれまで何人いましたか?」と尋ねると、1人もいないことに気づきます。
「日本ではジェンダー教育や人権教育がほとんどされていないので、ジェンダー感覚や人権意識の欠如も社会(政治)の責任という面が大きいです。個人を責めるのではなく、みんなで〝学び落とし〟をしていくことが大切です」とアルテイシアさんは話します。

フェミニズムを学ぶことは、人権を知ること
「フェミニズム」とは、性差別をなくそうという考え方です。「フェミニスト」は性差別に反対する人で、対義語は「セクシスト(性差別主義者)」。フェミニストは「男嫌い」や「男の敵」というようなレッテルを貼られてきましたが、フェミニストの敵は男ではなく、性差別や性暴力、そしてそれを許容したり助長したりする社会です。「女vs男」という分断を乗り越え、ジェンダーに関係なく幸せな社会を目指すのがフェミニズムです。
また、マイノリティはその属性を代表させられがちです。女性ならではの視点を求められたり、誰かひとりが失敗しただけで「やっぱり女は」と言われたり…。人を属性ではなく、ひとりの人間として見ることもフェミニズムだといえます。
傷つきを超えて
フェミニズムの大切なスローガンに、〝パーソナル・イズ・ポリティカル(個人的なことは政治的なこと)〟があります。セクハラ、残業、ワンオペ育児など、個人的なことに思える小さな違和感は、実は大きな社会構造や差別と繋がっています。女性はこれまで勉強しなくていい、出世しなくていい、がんばるなといわれて翼を折られてきました。さらに、見た目で評価される風潮の横行により、女性の摂食障害の発生率は男性の10倍です。他方で男性は、弱音を吐くな、泣くな、がんばれとお尻を蹴られ続けてきました。その結果、男性は人に弱みを見せたり悩みを話したりできない人が多く、自殺率が女性の2倍に。みんな傷ついているのです。
アルテイシアさんは「自己責任論や分断に抗って、みんなが自分らしく生きられる社会を一緒につくっていきましょう」と明るくも真剣な声で呼びかけました。
Table Vol.512(2025年4月)