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くらしと社会

資本主義と気候変動そしてパンデミック

コープ自然派兵庫は2021年度通常総代会にて気候危機への取り組みを特別決議し、さまざまな活動に取り組んでいます。2021年9月23日(木・祝)には、大ベストセラー「人新世の『資本論』」著者・斎藤幸平さん(大阪市立大学准教授)を招き、講演会「資本主義と気候変動そしてパンデミック」を開催しました。

気候危機に対して

 コロナ禍に振り回される日々ですが、それはこれから私たちが直面する危機の始まりだと言えます。これからやってくる危機的な事態とは気候変動です。気候危機は、例えば気温が1.5℃あるいは 2℃上昇することでその影響は 100年、200年、場合によっては1000年という単位で人類に影響を及ぼします。干ばつ、水害、海面上昇などは私たちの生活を劇的に変えてしまいます。しかも、それが別のパンデミックあるいは戦争、難民問題などとの複合的な危機となるかもしれません。

 このような破滅的な未来を防ぐためにアクションを起こすべきではないか、そして、今こそもっといい未来をつくるチャンスではないかと斎藤さんのお話は始まりました。

SDGsは大衆のアヘン

 「持続可能な社会をつくるために何をしていますか?」と斎藤さん。電気自動車を買おうかと考えている、エコバッグやマイボトルを持ち歩いている、国産無農薬・無添加の食品を生協などで購入する…。

 しかし、「これらはまったく意味がない、それどころか有害でさえあります。なぜなら温暖化対策をしていると思い込むことで、人類が直面している気候変動という大きな危機を前に、本当に必要とされるもっと大胆なアクションを起こさなくなってしまうから」と斎藤さん。それよりも、神戸では石炭火力発電所が稼働中でさらに新設されているので、新設を中止し、稼働中のものを即刻停止させた方が大きな変化になると話します。

 企業にとってはSDGs(持続可能な開発目標)を掲げることは会社のPRになり、消費者も環境にやさしい商品を選択することが今まで通りの生活を続ける免罪符となります。このように現実問題の深刻さから目を背けるような効果をSDGsがもつことから、SDGsは現代版「大衆のアヘン」だと斎藤さんは著書の冒頭に記しています。

大量生産・消費・廃棄

 「ハンバーガーでSDGs」というファストフードのCM、オーガニックコットン使用やリサイクルを謳うファストファッション。しかし、例えば、大量のTシャツをつくっているのは劣悪な条件で働くバングラデシュの労働者たち、そして、原料の綿花を栽培しているのはインドの貧しい農民たちです。インドでは遺伝子組み換え綿花が大幅に導入され、大量の化学肥料や農薬が現地の人たちに健康被害をもたらしています。また、土壌がやせ細り、生態系が破壊されます。そして、このようにつくられた大量のTシャツは日本やアメリカなどで低価格で販売され、すぐに大量に廃棄されます。洋服の生産点数は2000年から2015年で世界的に倍増、年間30億着~60億着つくられているということです。

 ファストファッション企業はここ20年間で成長し、持続可能ではないとの批判が高まるとリサイクルを強調、しかし、世界中からリサイクルされたものはアフリカなどに大量に送られ、ゴミとして捨てられたマイクロプラスチックは、現地の人々を苦しめています。一方、私たちはリサイクルボックスに入れることで良いことをしていると勘違いします。

経済成長と環境の両立

 環境問題の最前線である再生エネルギーや電気自動車なども同じ構図です。菅前首相が2050年までにゼロカーボン、2030年までに二酸化炭素排出46%削減を目標として掲げました。二酸化炭素削減目標は2030年までに26%だったのを46%に、場合によっては50%と数値目標が掲げられています。しかし、各国の目標が揃ったところで国連が計算すると気温1. 5℃上昇に抑えるならもっと大きな変化を起こさなければならないことがわかりました。

 菅政権下での気候変動対策は経済成長戦略として位置づけられています。今まで環境問題は経済成長の足を引っ張るもの、環境と経済が対立的にとらえられていました。では、なぜ、ここ1年くらいで日本でも企業が環境問題に取り組み始めたのでしょうか、それは環境と経済を両立させる方法があり、むしろ取り組まなければ世界からおいて行かれる雰囲気が出てきたからです。

 消費者の意識の変化もあり、電気自動車を買いたい、太陽光パネルを設置したいという人たちが増えています。アップル社は二酸化炭素を排出している工場から製品を仕入れないことを目標として掲げるようになりました。そうなると今までアップル社に部品を提供していた中小企業も取引先を失ってしまうと焦ります。他方で、もっと優れた電気自動車や太陽光パネル、風力発電装置、バッテリーなどを製造できれば世界中に新しいマーケットがあり、ビジネスチャンスとなります。そうなれば雇用が生まれ、賃金も上がって、さらに電気自動車を買うという循環が成立します。経済成長を遂げながら二酸化炭素排出を減らそうという資本主義、これがいわゆる「緑の資本主義」です。

「緑の資本主義」の矛盾

 「しかし、将来を見据えた投資としてこれで十分なのか、小手先になっていないか」と斎藤さん。リサイクル技術は使い方次第で化石燃料の使用を延命するための手段として利用できます。私たちは本来、プラスチックという化石燃料由来のものを使わないことを求めていかなければならないのに、リサイクルが大事だと妥協していくと、それは石油メジャーの延命となるだけです。

 この間、二酸化炭素排出量はまったく減らず、むしろ増え続けています。2020年には二酸化炭素排出量が7%減少しました。コロナ禍で人々が飛行機に乗らなくなり、自宅で過ごす時間が長かったからです。では、2021年はどうか。ヨーロッパやアメリカでは経済が回復し、リベンジ消費により二酸化炭素が急増するということです。

 人々は生産性が向上すると、より多く消費する傾向があります。電気自動車を2台買う人も出てくるし、大型車を買う人も増えるかもしれません。そうなると、二酸化炭素排出量は減らないし、資源の消費も減りません。また、技術が進むとリニアを走らせようということになり、より多くの太陽光パネルを設置し、そのために森林を切り開き、さまざまな資源を掘り出さなければならなくなります。

資本主義に急ブレーキを

 電気自動車はガソリン自動車の約4倍の銅を使います。銅はもはや安定供給できないので価格が上がり、電気自動車は金持ちの国にしか供給されません。結果として地球環境への負荷が高まり、求められている速度で二酸化炭素排出ゼロという道を達成できなくなります。また、リチウム電池を製造するために南米でリチウムの開発競争が進み、地下水のくみ上げによって生態系が破壊されたり、先住民の人たちが使っている水がどんどん失われています。

 「グリーンな経済成長を先進国で可能にするために、限りある資源がより一層収奪されているという問題を解決するには、過剰な消費を減らしていく選択をしていかなければならない。省エネ・再エネの力を最大限に生かすには、本当は必要ではないものを手放す必要があります。スケールダウンすることができなければ、地球環境は人類の偉大な技術をもってしても持たないでしょう」と斎藤さんは話します。

 「所得階層別・二酸化炭素排出量の割合」というデータによると、二酸化炭素を多く排出しているのは先進国の富裕層で、世界の富裕層トップ10%が二酸化炭素の半分を排出しています。他方で下から50%の人々は全体のわずか10%しか排出していないにも関わらず、気候変動の影響に最初にさらされます。「日本人の多くはトップ10%に入っていて、私たち自身が二酸化炭素を多く排出する当事者として生活様式を根本的に変えていかなければ気候危機に立ち向かうことなど不可能です。SDGsをアヘンにしないためには、無限の経済成長を求める資本主義に急ブレーキをかけ、脱成長に変えていかなければならない。SDGsとは環境問題だけではなく、資本主義の問題として抜本的に取り組まなければならない問題なのです」と斎藤さんは話します。

協同組合の再評価を

 昨年亡くなった文化人類学者のデヴィット・グレーバーは「ブルシット・ジョブ」という本を数年前に出版。ブルシット・ジョブとは、従事している本人さえ自分の仕事がなくなっても社会に何の問題もないと感じているというような仕事です。マーケティングや広告、コンサルティングなども今のような規模で必要なのでしょうか。そういう仕事が溢れていて、そのために大量のエネルギーや資源が使われています。しかもそれが大ビジネスになって、エネルギーを大量に使うというサイクルが続いています。

 ケア労働に代表されるエッセンシャルワークは賃金が低く、ブルシット・ジョブは高給なのでみんなそちらに行ってしまいます。コロナ禍でわかったのはエッセンシャルワークの大切さ。しかし、彼らの労働条件は劣悪です。そして、危機が起きるとパートの女性たちが最初に首を切られるなどしわ寄せが弱い方に行き、金持ちは危機を使って新しいビジネスを始めてますます強くなります。

 経済は人々の生活を守り、人々を幸せにするための手段でした。ところが今の先進国では経済は人々を幸せするものではなくなり、むしろ、人々を経済成長するための手段にしてしまっています。その結果、地球環境も破壊されてきています。そこで、「人々の生活を安定させ、やりがいや働きがい、地域のニーズを満たすような社会にしていくための1つの手段として協同組合のような形がヒントになるのではないか」と斎藤さん。そして、アクションを起こすためのつながりとして、経済を民主化していくその足掛かりとして、協同組合の再評価が必要ではないかと話します。

バルセロナの取り組み

 世界中で注目されているスペイン・バルセロナ市の試みが紹介されました。スペインはリーマンショック以降のEUの経済危機でもっとも打撃を受けた国の1つです。当時の失業率は25%に達し、貧困が広がり、自治体も財政が苦しく福祉や公共サービスの縮小を余儀なくされました。このような状況下、バルセロナは観光にさらに力を入れ、市民の生活を圧迫しました。また、市民向けの賃貸住宅を観光客用の「民泊」に切り替えるオーナーが続出し、多くの市民が住まいを失いました。このような酷い状況に立ちあがった若者たちが中心になって、2011年に「15M運動」と呼ばれる広場占拠運動を開始、その後、「バルサローナ・アン・クムー」という地域密着型の市民プラットホーム政党が設立されました。2015年の地方選挙では党の中心の1人、アダ・クラウが市長に就任。市民の声を市政に持ち込むシステムを整備し、新しく住宅を建築する場合は公営住宅を3割にすることを決めました。公営の太陽光発電や水道再公営化にも取り組んでいます。また、スーパーブロック設置により、車を規制することで自転車や歩行者に道路を開放し、子どもたちの遊び場や市民の憩いの場をつくりました。今後10年で21の広場をつくり、スーパーブロックを500にする計画が立てられているということです。

 パリでも社会党のアンヌ・イダルゴが市長に就任し、8月末から市内のすべての道路で時速30㎞に速度制限。多くの道路を片側一車線や歩行者専用にし、路上駐車スペースを大幅に減少。オリンピック開催に向けてイメージ刷新ということですが、日本とは真逆の取り組みと言えます。

持続可能なまちづくりへ

 今、最先端は持続可能な町のモデルをつくること。フランスではコモン(共有材)の復権(水、電力、交通、教育)、化石燃料関連の広告禁止、飛行機の国内線の制限、労働時間の削減、不平等是正のために金融資産課税、大型不動産への課税、相続税強化、そのお金で気候変動対策、教育費、医療費、介護保険を手厚くするなどに取り組んでいます。

 日本でも電力の地産地消を目ざして、市民による太陽光発電や小水力発電設置に取り組む町や学校給食の食材を地元産の有機野菜に切り替える町もあります。「市民が声を上げることが大切。実践の積み重ねによって選挙にも勝つことができます。今こそ、コモンを増やし、お金がなくても生きていける社会をつくれるよう行動することが求められるのではないでしょうか」と斎藤さんは結びました。

講師の斎藤幸平さん。会場とオンラインで開催し260名参加。全国各地からのオンライン参加者と活発な質疑応答が行われました。
コープ自然派兵庫・正橋理事長が司会・進行を務めました。

Table Vol.451(2021年10月)より
一部修正・加筆

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