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巻頭インタビュー

有機の米づくりで農と地域の未来をつくる

BLOF(ブロフ/生態系調和型農業)理論による有機米の栽培技術を確立した西田聖さん。JA職員の立場で有機米栽培に取り組み、全国に有機米の栽培技術を広げています。「農協の異端児」とも呼ばれ、「有機米の学校」の校長も務める西田さんの取り組みについて聞きました。

BLOF の有機米づくりは安全・安心な農作物を持続可能に生産していくための最短ルートだと確信しています。
西田 聖| NISHIDA Sei
JA 東とくしま参与、一般社団法人日本有機農業普及協会BLOF インストラクター、NPO 法人とくしま有機農業サポートセンター校長

自然の法則に則った有機米づくり

有機米づくりをはじめたきっかけは?
 実は、最初から有機農業に確信を持って始めたわけではないんです。15年ほど前、コープ自然派の声掛けで小松島市やJA東とくしまなどが一緒に立ち上げた「生物多様性農業推進協議会」の活動を通じて、小祝正明さんが提唱する「BLOF理論(生態系調和型農業理論)」という有機栽培技術と出会いました。

 当時、農業に農薬や化学肥料を使うのは当たり前だったので、BLOF理論の講座に参加して、「収量が増加して、病害虫に強く、雑草も抑えられる」と聞いても、「ほんとにできるのかな?」と半信半疑だったんです。ところが、自分で試してみると1年目から米の収量がグッと増えて、1反(約1000㎡)あたり500kg以上穫れて、食味値も60点台から75点になったんです。

米づくりを続けるために無農薬へ
 その頃、僕はJA東とくしまで営農指導をしていました。米農家の経営状態は厳しくて、農家は高齢化し、米の価格が低迷して離農する農家が後を絶たないので、米の商品価値を上げて、低コストで高収量を実現できないかと頭を悩ませていたんです。トラクターなどの農業機械は数百万円もするので、機械が壊れるともう続けられないという農家も出てきます。無農薬栽培で米に付加価値がつけば離農する人を止められるんじゃないかと、その一心でがむしゃらに勉強しましたね。

 その結果、地域の平均反収よりも約4割多い1反645kgの米が獲れて、米の食味値も100点満点中95点という高得点を得たことで、この理論に基づいて栽培すれば、農薬を使わないで高収量・高品質なお米がつくれると確信を持ちました。

BLOF理論の米づくりとは?
 「BLOF」とは「Biological Farming(生態系調和型農業)」の略語です。BLOF理論の米づくりは、まず土づくりから始まります。稲刈りの後すぐに秋処理をして、田んぼに残った稲ワラを分解させます。土壌分析をして、細胞をつくるアミノ酸肥料の発酵鶏ふんや、生命活動に必要不可欠なミネラル肥料の焼成牡蠣殻石灰など、土に不足している栄養素を足して土中で発酵させます。そうすると田植えまでにワラが分解されて、酵母菌や乳酸菌も活用して栽培すると、「白い根」の元気な稲が育つんです。一般的な栽培では根に鉄分がくっついて赤茶色になり、いわばマスクをして水を飲んでいるような状態なので、根が酸素や養分を吸う力も弱くなってしまいます。

多収量・高品質で虫にも強いのはなぜ?
 稲の持つ力を最大限に発揮できる健康な土づくりで育てると、根がしっかりと張り、勢いよく栄養成分を吸収します。植物の根の育ちは地上部の育ちと関連しているので、茎の数も、稲の穂の長さもグッと増し、収量アップにつながります。また、表面の植物繊維も丈夫に育つので、稲の害虫であるウンカやカメムシが稲を食べたくても、強い繊維で守られていると歯が立ちません。そして、植物の表面を覆うクチクラ層(ロウ質の層)も厚くなり、病原菌が入るのを防いだり、外注が好きな匂いを閉じ込めるワックスのような働きもします。

自然界の仕組みを再現できるか?
 BLOF理論はなにも特別なものではなくて、生態系のメカニズムや植物生理を科学的に理解して再現する農業技術です。小祝さんは、「人間がつくれる法則などひとつもない。すでに法則はできていて、その法則に気づいて人間が利用できるかできないかということ」だと言います。生きものの生態にあわせて無理なく豊かにしていく技術を学んで、作物が本来持っている力を引き出せば、気候の変動や病害虫にも強く、おいしくて栄養価の高い作物をたくさん安定的につくることができるということだと思います。とはいえ、最近の気象は異常なので農家はとても大変です。

生物多様性農業が地域をつくる

「特別栽培米部会」の立ち上げ
 有機栽培の技術を勉強して最初は一人でやっていたのですが、周囲の農家は僕の田んぼの様子を見ているわけです。「うちもやってみよう」という農家が徐々に増えていきました。
 
 少しでも多くの農家に有機農業に取り組んで欲しいと思いながらも、有機農業に対してネガティブなイメージを持つ農家に、いきなり有機栽培に切り替えるのではなく段階的に取り組んでもらうように働きかけていきました。「特別栽培米部会」を立ち上げて、メンバーは10年ほどで150人に増え、一時は150〜200haにまで広がりました。特別栽培米はBLOF理論に基づいて栽培し、除草剤を回だけ使う農法です。

除草剤を使いながら無農薬へ
 米づくりで一番大変なのは草取りです。昔の稲作では反の田んぼの除草に95時間ほどかかっていました。除草剤を使えがその作業は30時間ですみます。いくら有機栽培がいいと思っても高齢の農家が人手で除草するのはさすがに厳しいですから、除草剤を回だけ使いながら3年後に無農薬にする栽培方法をすすめています。

 秋処理をして土づくりをすると、春には田んぼに植物性プランクトンが大量発生して食物連鎖がスタートします。イトミミズが増殖すると、「トロトロ層」と呼ばれる細かな粒子の層が田んぼの底にできるので、除草剤を1回使うだけで効果が出ます。この層がないと何回農薬を入れても下に抜けてしまって、草が生えてしまいます。他にも、酵母菌を活性化させると、土の表層の酸素を酵母菌が消費してしまうことで発芽したての雑草の種が死滅するなど、抑草のポイントはいくつかあります。そういった秋処理から始まる一連の作業をマニュアル化しました。農家にとって続けやすい技術であることが大切だと思っています。

 数年この農法を続けると田んぼには草が生えなくなり、無理なく無農薬栽培ができるんです。この農法を試した農家は田んぼに草が1本も生えないと喜んでいます。

真っ先に排除したネオニコ
 この農法を広げようと決めた時に、真っ先に排除したのがネオニコチノイド(以下ネオニコ)系殺虫剤でした。僕は昔、虫取り少年だったんですね。虫や生きものが大好きなんです。以前はどこにでもシラサギがいて田んぼを埋めつくすほどでしたが、いつの間にかほとんどいなくなっていました。野鳥は田んぼの食物連鎖の頂点ですから、大型の鳥が消えたということは、当然エサになる生きものも減っています。この自然環境の異変は農薬が原因に違いない、なかでもネオニコが影響していると直感しました。

田んぼから自然を再生する
 JA東とくしまは徳島県の東部に位置し、コープ自然派の産直米「自然派Styleツルをよぶお米」の田んぼがある地域です。このお米は2007年から始まり、有機米も除草剤1回使用の省農薬米も栽培面積が広がってきていた10年ほど前、地域にコウノトリが飛来するようになりました。赤とんぼもよく見かけるようになって、田んぼの生きもの調査でもカエルやドジョウやゲンゴロウなど魚や水生昆虫が増えました。コウノトリだけでなくシラサギやアオサギもたくさんの虫や魚を食べます。この鳥たちがちゃんと生きていける田んぼと環境を再現するのが僕の夢というか、使命だと思っています。

生協の取り組みからネオニコフリーへ
 なぜネオニコ系農薬を使うかというと、カメムシの害から稲を守るためです。カメムシが米の汁を吸うと跡が黒くなります。この斑点米で米の等級が下がり買取価格が下がるのを防ぐために農家は予防的にネオニコを使っています。
 
 コープ自然派では斑点米は選別機で取り除けるので問題ないということで、食味値を重視したランク付けに変え、栽培方法によって買取価格を上げてくれたことでネオニコフリー栽培が広がったと思っています。農家にとって農法を変えるのは大変ですが、ネオニコを使わない米に付加価値がつけば取り組む農家が増えます。2020年から始まったネオニコを減らすお米「ビオトープ米」もネオニコフリー栽培の後押しになりました。

地域が有機農業へシフト
 2021年、農水省が発表したみどりの食料システム戦略では、2050年に有機農業面積25%という目標を掲げ、2040年ネオニコ削減を明記しました。JA東とくしまでは、すでにネオニコフリー栽培の実績があったこともあり、2022年12月、JAとして「ネオニコフリー宣言」を出しました。2023年2月にはJA本所のある小松島市は中国四国地域では初の「オーガニックビレッジ宣言」を行い、2025年には小松島市で第回「生物の多様性を育む農業国際会議」の開催が予定されています。

 有機米栽培を始めたころは、JAは農薬や化学肥料の販売で利益を得るため反対意見も多くありました。地域の鶏の残渣や鶏ふんなどを原料にした有機質肥料の売り上げが伸びたことで理解を得ていったので隔世の感があります。各地で栽培技術の講演をしていますが、最近は民間企業や行政だけでなく、全国のJAからの依頼も受けています。

主食づくりを守る

米農家が作り続けるために
 米づくりは食料安全保障の要であり、地域コミュニティや伝統文化の維持、洪水防止など多面的な機能を持っています。農家が米をつくり続けるためには、再生産できる米価にすることが課題です。そのためには付加価値を高め、買ってもらえる米をつくらなければなりません。
 
 有機栽培は慣行栽培に比べると手間や技術が必要ですし、収量が落ちるといわれていたので、取り組む農家がなかなか増えませんでした。しかし、除草剤を使いながら有機栽培に移行できるこの農法は、自然環境を回復しながら米の付加価値をつけて持続可能な米生産にしていく最短ルートだと確信しています。

生物多様性農業への支援策を
 有機稲作は一般的なコストカット稲作とは違い、手間も資材費もかかります。ウクライナ侵攻以降、資材の高騰が続いて1反7千円ほどだった資材費は1万4千円に跳ね上がって農家は悲鳴を上げています。まさに環境を再生する農法なのですが、環境直接支払い交付金の対象には鶏ふんなどの資材費は認められていません。

 また、農林水産省は気候変動対策として、温室効果のあるメタンガスの水田での発生を抑えるために、夏の田んぼの水を抜いて乾かす「中干し」を推奨し、助成金を出しています。でも、未発酵の稲ワラがメタンガスを発生させるので、完全に稲ワラを水溶性炭水化物に分解していればメタンガスは発生しません。有機農業は有機物を分解して、土の中に炭素を溜め込みます。なによりも、中干しすると田んぼの生きものが死んでしまいます。あえて生態系を断ち切るとはどういうことか、環境とはなにかと言いたいです。

日本初の「有機米の学校」
 米は日本の気候風土にあった自給し続けられる主食ですが、農家が高齢化し栽培面積も減っていて、このままでは米文化が衰退して悲惨な状況になるのではないかと危惧しています。そこで、2023年度から「とくしま有機農業サポートセンター」を有機米専門の学校にしました。BLOF理論による有機米栽培の技術を身につけた若い農家を育てて、農業機械のサポートもしながら離農する農家の田んぼも引き受けてもらって、田んぼを守っていきたいと思っています。
 
  農業を守るためには農業の現場を理解する人を増やすことも大切なので、コープ自然派しこくと連携した交流活動にも力を入れていますし、「社会福祉法人コープ自然派ともに」の農福連携事業では、福祉も有機農業もできる人材を育てるという期待を受けているので、これからますます忙しくなりそうです。

西田さんが栽培した稲は、竹のようにバリバリと割れます

とくしま有機農業サポートセンターが運営するFacebookでは動画見ることができます。

Table Vol.505(2024年9月)

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