2022年3月7日(月)、コープ自然派しこく徳島センターは環境ジャーナリスト・佐藤由美さんを迎えてオンライン学習会を開催。
第1回学習会(2月28日開催)のCOP26現地取材報告に続いて、第2回は再生可能エネルギーの具体的な取り組みについてお話を聴きました。
気候変動が起こした災害
イベント・アトリビューションとは、気候変動が異常気象の発生にどの程度影響しているか科学的に評価する技術です。この技術によると、西日本豪雨(2018年夏発生)は気候変動がなければ起こり得ませんでした。日本では災害を地震や火山の噴火のように防ぎようがないものと受け止めがちですが、世界では気候変動が引き起こした災害という意味で「気候災害」と呼びます。
昨年はオーストラリアや米カリフォルニア州以外の地中海沿岸の国々でも大規模森林火災が発生しました。ヒマラヤ山脈にあるネパール、ブータン、ヒンズークシ山脈にあるアフガニスタンやパキスタン、また、アンデス山脈、アルプス山脈などにある山岳国家では、氷河が溶けて氷河湖が形成されるようになり(1960年以降)、氷河湖決壊洪水が多発。村が丸ごと流されるなどの災害が起きています。氷河は淡水の貯蔵庫の役割をもち、気温上昇2℃未満で氷河の半分、1.5℃未満で3分の1が消失することが予想され、水源が枯渇すれば下流域8ヵ国16億5000人の飲料水や農業・工業用水が不足し、海水面が1.5m上昇するとのこと。また、南太平洋、カリブ海の島国はサンゴ礁の上に薄い表土が形成してできているため、海面上昇で飲料水が塩害化され、作物が育たない、健康被害が生じる、住める場所が少なくなるなどの影響を受けます。シリアはかつて「肥沃な三日月地帯」と呼ばれる豊かな地域にあり、食料自給率130%の農業大国でしたが、2007年から2010年に起きた大干ばつで不毛の地になりました。農民たちが農地と家畜を捨て首都ダマスカスに大量に流入しますが、政府が対応しきれず反政府運動から内戦が続き、多くのシリア国民が「気候難民」になりました。難民としてヨーロッパへ逃げる途中、地中海で船が沈み多数の人が亡くなり、ヨーロッパでは移民排斥運動が起きるなど政情不安が続いています。また、アフリカ南部では干ばつで4500万人が水不足に苦しみ、水や食糧を求めて争いが勃発。気候変動は平和を脅かす原因となり、このまま気候変動が進めば2050年までに2億人以上が故郷を追われ気候難民になると、世界銀行が発表しています(2021年)。
気候災害が起こす被害
日本でも激甚災害が多発し、台風や豪雨、線状降水帯によるおびただしい量の災害ゴミが発生しています。西日本豪雨のゴミ量200万tは徳島市から出るゴミの20年分にあたり、処理には約2年間を要します。また、日本列島を縦断し甚大な被害をもたらした台風19号(2019年)で2000本以上の電柱が倒壊し、93万5000世帯が停電。エアコンが使えず、熱中症などの災害関連死が出ました。停電を未然に防ぐため、送電線近くの倒れそうな木を切り倒す予防伐採が各地で行われ、千葉県いすみ市では予防伐採に3000万円を投入しています。
日本は干潟が埋め立てられ、アサリが生育できる環境が減少しているうえ、アサリをエサとする巨大なナルトビエイが温暖化の影響で越冬できるようになり、食害が拡大しています。また、豪雨によって大量の雨水が海に流れ込むと、アサリが生息する汽水域(淡水と海水が混在する場所)の塩分濃度が低下してアサリが大量死するなど、気候変動は熊本県産アサリ産地偽装問題にも関係していると考えられます。農産物の生育への影響や、牛の乳量の減少、漁業の流木被害などによる食料価格の高騰、水害による建物・家財の損害に支払われる火災保険金、災害復旧・インフラ債権など社会コストの高騰は気候変動によるものです。しかしこれらの「隠されたコスト」は化石燃料費用に反映されていません。
気候変動による健康被害
気温上昇により屋外で作業を行う労働者の健康被害が増え、生産性が低下していると国連が発表しています。石炭火力発電から大気中に排出される水銀が大気、雨、大地、川、海を汚染し、妊婦や幼児は魚介類に含まれる水銀量に注意するようWHOや厚生労働省が警告。防災気象情報の精度向上から災害による死者数は減少していますが、熱中症の死者数は増加しています。大気汚染による健康被害からの年間死者数700万人、損失額580兆円にのぼり、WHO(世界保健機関)は健康非常事態宣言し、各国政府に気候変動対策を求めています。国内メガバンク3社(みずほ・三菱UFJ・三井住友)は、気候変動の主因である石炭火力発電への融資額の世界トップ3を独占。COP26でのグテーレス国連事務総長の演説「私たちは自分で自分の墓を掘っている」があらわすように、気候災害の世界最大の被害国の1つである日本はその原因を自らつくり出しているのです。
再エネ100%を目ざす
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、最新の科学データに基づいた報告書を1990年から定期的に発表しています。第6次評価報告書(2021年8月〜2022年9月にかけて順次発表)では、気候変動の原因は人間活動による化石燃料(石炭・石油・天然ガス)の大量消費であると断定しました。
日本は再生可能エネルギー(太陽光、太陽熱、風力、小水力、バイオマス、地熱)が豊富で、現在の使用電力量の2倍を再生可能エネルギーだけでまかなえると環境省は発表しています。北国では貯蔵しておいた雪を利用して、食品の冷蔵、冷房、データセンターの冷却などのシステムが実用化されています。
石油の約20%がプラスチックや化学繊維などに使用されているように、脱炭素社会は、エネルギーだけでなく、マテリアル、食糧生産のための農薬・化学肥料も石油依存をやめることが求められています。農山村は食料や薪炭などのエネルギーに加え、草・竹・木など再生可能なマテリアルの生産地でしたが、高度経済成長期に海外から輸入した化石燃料の消費地になりました。日本は化石燃料の輸入に年間約17兆円も費やしています。化石燃料を購入する費用を国外に流出させずに国内や地域で回し、農山村で地域資源を活用した食料・マテリアル・エネルギー生産をすれば、新しい産業と雇用をうみ、地域が豊かになります。
日本は2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロ(森林などによる吸収量を差し引いて)を目標にしています。その後、100%再生可能エネルギー・排出量ゼロを目ざさなければなりません。「地球を再生する道は果てしなく続きます。1.5℃目標を守らなければ、2050年には自分の子や孫が水と食料を求めて争わなければならない世界になるでしょう」と、佐藤さんはEUの交渉官の言葉を紹介しました。
生協として何ができるか
コープ自然派おおさかは、「テラエナジーでんき」という僧侶が起業した電力会社に物流センターなどの電気を切り替えました(関西電力比で二酸化炭素40%削減)。生活クラブ生協北海道を母体とする「北海道グリーンファンド」は日本初のグリーン電力料金制度(電気料金の5%を上乗せした再エネのための基金)を創設し、全国で18基の市民風車を建設しています。生活クラブ生協は秋田県にほか市に風車を建設。新電力会社・「生活クラブエナジー」を設立し、再生可能エネルギーの発電所を全国に61ヵ所(2020年)を所有。ならコープは匿名組合出資による出力82kWの東吉野村「つくばね発電所」を2017年に運転開始し、クラウドファンディングによる資金調達で下北山村「小又川発電所」を改修、「ならコープでんき」を設立し組合員に販売しています。
家庭の省エネと脱炭素化
家庭から排出される二酸化炭素は、電力(45%)とガソリン(25%)で約70%を占めます。太陽光パネルは固定価格買取制度によって10年で投資額が回収できるようになったことから設置が進み、量産されて大幅に値下がりしました。2014年以降、電気は電力会社から買うより自宅でつくる方が安くなりました。徳島県の場合、1kWhの電気を使うごとに27円が四国電力本店のある香川県に流出しますが、太陽光パネルを設置すると売電収入17円が徳島県に入ってきます(2022年設置の場合)。
電気自動車の製造(ガソリン車より部品が少ない)から走行、廃棄するまでに排出される二酸化炭素は、ガソリン車より81%少なくなります。燃費が15㎞/ℓのガソリン車と電費が6.5㎞/kWhの電気自動車が年間1万km走行するとし、現在のガソリン価格と電気料金で試算した場合、ガソリン車の維持費は年間11万3220円、電気自動車(買電)が4万1526円、電気自動車(自家発電)が2万6146円です。太陽光パネル(断熱効果もある)を設置し、電気自動車に乗り、夜間は再生エネルギー100%の電力会社を選べば、家庭の二酸化炭素排出量が70%削減できます。さらに、ソーラーカーの実用化(2025年頃から)や住宅の断熱改修など、脱炭素化への投資はエネルギー支出の大幅な削減につながります。
再エネ資源は誰のもの?
再生可能エネルギーであれば誰が開発してもよいという訳ではありません。例えば、東京の大企業が風力発電を建設する場合、売電収入のほとんどが東京に流出します。これらの問題を回避するために「コミュニティパワー3原則」”1.地域の利害関係者がプロジェクトの大半もしくはすべてを所有している 2.プロジェクトの意思決定はコミュニティに基礎をおく組織によって行われる 3.社会的・経済的便益の多数もしくはすべては地域に分配される“ に基づいて開発することが重要です。
山形県庄内町は40年前から自治体で風力発電に挑み、再エネ政策を切り開きました。熊本県小国町岳の湯集落は地熱発電による年間8億円の売電収入で、1軒あたり月15万円の収入があります。岩手県葛巻町江刈川集落は水車小屋で名産のそばを製粉して提供することでコミュニティビジネスが成功し、年間1億円の利益のほとんどを地域に還元しています。
「1日あたり石油3億5000万ドル、天然ガス2億ドルといわれる収入がロシア軍によるウクライナ侵攻の戦費に使われています。シリアでは気候変動による大干ばつが内戦の原因になりました。また、ウクライナの原発がロシアに占拠されたように、原発をもつことが安全保障上のリスクになります。私たちは化石燃料と原発がない未来を築いていかなければなりません」と佐藤さんは締めくくりました。
Table Vol.467(2022年7月)より
一部修正・加筆