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巻頭インタビュー

一人ひとりが考え行動し、未来を変えよう!!(夫婦漫才コンビ おしどりマコ&ケン)

2011年からの取材をもとに次から次へと話題は展開、それに合わせてリアルな映像が映し出され、絶妙のタイミングで合いの手が入ります。コープ自然派兵庫ではおしどりマコ&ケンさんトークライブを開催、その後のインタビューと併せて紹介します。

夫婦仲良しの秘訣を聞くと「よくケンカ(議論)すること。民主主義と夫婦喧嘩は時間をかけてより良くするもの」と。ときにはICレコーダーで議論を録音することもあるそうです。
おしどりマコ&ケン| Oshidori Mako&Ken
夫婦漫才コンビ。ケンさんは大阪生まれ、マコさんは神戸生まれで鳥取大学医学部生命科学科を中退。福島原発事故後、東京電力の記者会見や省庁・地方自治体の会見・説明会、各種シンポジウム、裁判などを取材。また現地にも頻繁に足を運び、さまざまな媒体や講演会などで発信している。

原発の取材を続ける

───精力的に原発の取材を続けておられますが、そのきっかけは?
マコ 2011年に大阪から東京に仕事の拠点を移しました。そして3ヵ月後に福島原発事故が発生、周りの芸人たちは東京からどんどん脱出し、男性芸人たちは妻子を西日本に避難させて舞台が終わるとすぐに品川駅から新幹線に乗って会いに行っていました。大阪で収録しているのに東京にいるかのように見せかける一方で、「春休みお子様キャンペーン」では子どもたちを劇場に集めることに矛盾を感じました。そして、舞台では「原発」「爆発」という言葉は使ってはならないと指示され、これはどういうことかと悩みました。そこで、本当はどうなのかを知ろうと東京電力の記者会見に参加するようになりました。

ケン 最初はニコニコ動画の配信を書き起こしてたよね。

───東電の記者会見ではたくさんの記者が取材されていましたね。
マコ 当初、毎日数時間の記者会見が行われ、100人くらいの記者が参加していました。ずっと手を挙げていてもなかなか指名されない記者がいる一方ですぐに指名される記者がいて、よく指名される記者は当たり障りないことを質問し、指名されない記者の質問は鋭い内容でした。

ケン 東電に批判的な質問には記者の中から野次が飛ばされてたよね。

───そして、しだいに記者の数が減っていきます。
マコ 2014年、2015年頃から少なくなり、2019年には5人が普通、2023年になると私たちだけという時もありました。記者も東電の広報担当者も人事異動があり、私たちはまるで牢名主(笑)。そんな中で同じ情報が出されていても各メディアで報じられる内容が違うことに気がつきました。さまざまなフィルターがかけられるのですね。TV局にとってはスポンサーが本当のお客さまだということもわかりました。

被ばくの責任と対応を問う

───福島県農民連の闘いについても取材されていますね。
マコ 福島県農民連は2012年から毎年2回、自分たちの被ばくの責任と対応について政府・東電との交渉を続けています。原発事故後、福島県中通りや会津地方はカリウムを大量に撒いて農業を続けるよう指示されました。カリウムを撒けば農作物にセシウムが移行しにくくなるからです。でも、農作物のセシウムは減少しても土中にセシウムは残り、被ばくし続けることになります。そこで政府・東電との交渉が始まりました。

───2015年から避難解除が始まり、帰還する人たちもいました。
マコ 川俣町での避難解除前の説明会を取材しました。質疑応答で「自宅や農地は除染されているが、自宅から農地に通う道は除染されていないところがある。国や県はそれをどのくらい把握しているか」と質問すると「除染されていないところはありますが、そのような道を通る時はできるだけ速く歩いてください」「自宅や農地は滞在する場所ですが、道は通過するだけなので、高線量が予想される道を通る時はできるだけ息を止めて小走りで通ると追加被ばくを下げることができます」など信じられないような回答が返ってきました。
 また、「土の中にセシウムが残っていて土埃が出ると舞い上がって内部被ばくする。その危険性はどれくらいあるか」と質問すると「確かに土の中にセシウムは残っていて土埃とともに吸うことになるのでできるだけ早く鼻をかみ、うがいをすれば外に出ます」と回答。この会の最後は「放射性物質はなくなりません。セシウムと共存することを考えて工夫しながら生活してください」との説明でした。

ケン こんなひどい説明会なのに、取材したのはぼくたちだけだったよね。

マコ 土の表面を自分たちで測定すると放射線管理区域を超えることがわかり、土の表面を測定してほしいと交渉を続けていますが、国は航空機から空間線量を測定しているので問題ないと言い続けています。農家の方たちは「オレたちトンビじゃない」と怒っています。

福島県では放射性物質基準値より高くて出荷できない農産物についてのみ保障されます。
この12 年間出荷できない農産物をつくり続けている方もいて心が傷みます。

───おしどりマコ&ケン

運転期間延長の背景には

───2月28日、原発の運転期間延長が閣議決定されました。
マコ 福島原発事故後の2012年、原発の運転期間は40年とし、厳しい審査をクリアすれば1回だけ20年延長できるという法律が成立。福島原発事故の反省のもと原子力規制委員会が設立され、この法律がつくられました。運転期間の上限は福島原発事故後、もっとも大きな規制転換でした。
 ところが、昨年12月21日、市民団体である原子力資料情報室の緊急記者会見で内部リークにより原子力規制庁が運転上限を撤廃する資料をこっそりつくっていたことがわかりました。昨年8月、規制庁は運転期間も延長回数も制限なしという資料をつくっていたのです。その後、12月27日、記者を対象とした規制庁の説明会では、その資料は規制庁職員がつくったものだと説明、昨年7月から計8回、規制庁とエネルギー庁職員は水面下で会っていたことを認めました。しかし、規制庁職員は「エネ庁の報告を一方的に聞いていただけ。資料は想像力たくましい職員が勝手に書いた」と説明。面談資料を提出せよとの要求に応じて出してきた資料は運転期間延長のメリット・デメリット部分は黒ぬりでした。そして、2月13日、原子力規制委員会の臨時会議で運転期間の上限撤廃案が承認されました。そのとき、石渡委員だけが「科学的・技術的に新知見に基づくものではない」と強硬に反対しました。

ケン 石渡委員の言うことが腑に落ちましたよね。

シナリオありきの海洋放出

───この秋には放射能汚染水が海洋放出されようとしていて、コープ自然派で反対の活動を行っています。
マコ 当初「ALPS処理水小委員会」が結成され、委員の約半数が反対していたのに、政府は国際的な安全基準を大幅に下回っていると海洋放出する方針を公表しました。そして、新聞記事の見出しや報告書の結論だけでどんどん進行しました。

ケン 記事のキャッチコピーは最初から決まってたよね。

マコ 福島県魚連は反対し、多くの市民団体も反対、韓国の人たちも反対しています。韓国の反対は政治利用のように言われますが、日本にオリンピック招致が決まり「原発事故はアンダーコントロール(制御下にある)」との説明を聞いて韓国は水産物の輸入規制を引き上げました。日本政府の言うことが信じられなかったからです。

ケン 2013年には韓国と中国のメディアも東電の記者会見に参加してましたね。

ドイツでは驚くことばかり

───2014年からドイツでも取材されていますね。
マコ ドイツは2023年4月脱原発を実現しました。ドイツはフランスの原子力の電力を買っていると日本ではよく言われますが、まったく間違いです。ヨーロッパでは送電網が張り巡らされ、どの国とも電力を売買できます。そして、その状況をリアルタイムで見ることができます。ドイツは瞬間的にフランスから電力を買うときがあるかもしれませんが、フランスに電力を売っています。

───ドイツではどんな取材をされていますか。
マコ 中高・大学で原発について話してほしいとの依頼があり1日2時間ずつ3校、10日間というハードスケジュールをこなしています。遠い国の原発の話なんて興味ないかなと心配でしたが、みんな興味津々でいつも質問攻めにあっています。最初の年に一番びっくりした質問は「あなたは福島第一原発の非常用電源が止まったのは津波のせいだと思っていますか」でした。
 国会事故調査報告書と政府の事故調査報告書の英語版を読み、報告書で津波が原因だとしているのは、日本は地震が多いので地震が事故の原因だとすれば原発を動かしにくいからではないかということでした。

ケン 彼の質問にはびっくりしたよね。

マコ 2016年の質問で驚いたのは中学2年生の女子が「事故から数年経ちましたが、半減期のことを考えると汚染地域で今問題になっているのはα線ですか、β線ですか」と質問してきたことでした。

ケン いつも質問攻めなので一人一問で答えたよね。

マコ 「日本ではナチスのような政治家がいるのに追及しないのですか」などと聞かれ、15歳か16歳でなぜそんなに政治に詳しいのかと冗談で「支持政党ってある?」と聞くと、「ぼくは緑の党です」「私は社民党です」などの答えが返ってきました。そうした質問に対して、私は15歳くらいで支持政党なんてなくて、日本はだいたいそうだと言うと、「日本では選挙権を持ってから支持政党を決めるのですか、それでは遅くないですか」と言われてしまいました。
 2014年、2015年、2016年にはなぜ日本の報道は政府寄りなのかと聞かれました。日本の報道の自由度ランキングが下がり続けているときでした。そして、日本ではそれをどのように受け止めているか聞かれ、苦肉の策で「日本のTVや新聞トップはときどき総理大臣と食事するんです」と答えたところ、一人の高校生が机をたたいて「うそでしょう、プレスは記者会見でコーヒーを出されても手を付けないくらい独立しなければならないのに、日本ではメディアが政府の広報になっていることが一瞬で理解できました」と言われました。
 なぜドイツではこんなに政治に関心あるのかと一人の教師に聞くと、ドイツは第二次世界大戦の反省を踏まえているからだと。ヒトラーは選挙で選ばれナチス党が成立しました。市民が愚かだと愚かな代表を選んでしまいます。戦後、ドイツでは強い人の意見を鵜吞みにするのではなく一人ひとりが考え、行動することを学びます。そして、世の中で自分に関係ないことは何もないのだから、最後の一人になっても自分の意見を持つことを大切にしているとのことでした。

ケン みんなほんとにすごかったね。

マコ 2018年には学校だけが素晴らしいのではないこともわかりました。高校2年生たちが福島原発事故についてものすごく詳しい。当時、彼らは小学生だったはずなのになぜ?と聞くと、「ぼくは9歳だったけど、お母さんが原発事故のニュースを一緒に見なさいと座らせた。ぼくは怖くて見たくないと言ったけど、お母さんはぼくを羽交い絞めにして『これは地球上で起きた本当の出来事なのだから目をそらさず見なさい。あなたが大人なったときの判断材料としなさい』とニュースを解説してくれました」と。すると口々に「私は家族で見た」などさまざまな家庭の様子を話してくれました。ドイツの人たちは福島原発事故後、世界で最初に脱原発を宣言し、再生エネルギーに切り替えたことを誇りに思っています。
 日本の学校でも原発事故の話をさせてもらいますが、「ドイツのお話を聴いて母に支持政党はどこかと聞くと、そんなことは人に聞くものではない、他の人にも聞いてはダメと言われました」という感想文がありました。

ケン もっと自分の周りで伝えなければね。

マコ ペンを買うときに試し書きで「脱原発」と書いたり、本屋では「憲法9条」の本を上に載せるとかね(笑)。母親は私が原発の取材を始めたことを怒っていたけど、2013年に手紙が来て、「基地問題に取り組むことになり、三宮でチラシまきやマイクアピールをした」と書かれていました。何を買うか、どこに足を運ぶか、生活の中での選択から未来を変えられます。今日は「聞く」ことに足を運んでくださってありがとうございました。(取材・文 高橋もと子)

大阪地裁で行われた原発賠償関西訴訟を取材するケンさん。
コープ自然派兵庫・総代会後のトークライブは満席。

Table Vol.492(2023年8月)

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