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くらしと社会

子ども脱被ばく裁判で明らかになったこと、そして、これから

2021年2月23日(火・祝)、コープ自然派奈良(脱原発委員会主催)は、「子ども脱被ばく裁判」共同代表・水戸喜世子さんと福島原発事故後、初めて原発の稼働にNOの判決を出した福井地裁元裁判長・樋口英明さんのお話し会を開催、お二人にそれぞれの裁判で明らかにされたことや今後について聴きました。

各地で行われる集会や学習会などで「子ども脱被ばく 裁判」について伝えてきた水戸喜世子さん。

この裁判で求めたものは

 最初は水戸喜世子さんのお話、水戸さんは、1970年代から日本の原発の危険性を訴え反対してきました。福島原発事故後は、「子ども脱被ばく裁判」共同代表など被災者の救援に尽力し、原発のない社会を目ざして活動を続けています。

 「子ども脱被ばく裁判」は福島県で子育てする人たちが「子どもたちに被ばくの心配のない安全な環境で教育を受ける権利が保障されることの確認と実施」(子ども人権裁判・行政訴訟)と「原発事故後、子どもが被ばくを避ける措置を怠り、無用な被ばくをさせた責任の追及」(親子裁判・国賠訴訟)を求め、2014年6月29日、福島地方裁判所に提訴しました。

 憲法第26条では「教育を受ける権利」が保障され、国や地方公共団体には義務教育を保障する義務があります。この権利を受けて、学校における子どもたちの安全確保を義務付け、その
基準を示す「学校環境衛生基準」が定められています。しかし、この中には放射性物質の基準が含まれていません。そこで、福島原発事故を踏まえて放射性物質についての環境基準を決めな
ければならないと、あるべき基準を試算しました。環境基準の考え方としては「しきい値」のない物質については、「10のマイナス5乗の生涯リスクレベル」という考え方が定められ、生涯、その物質にさらされたとして10万人に1人健康被害が出るというレベルです。これは国際基準で放射性物質の基準では年2.9マイクロシーベルト以下の被ばくということになります。

不合理な施策による賠償

 国家賠償訴訟については3.11当時、福島県内に居住していた親子が原告で、国と福島県の「不合理な施策」によって子どもたちに無用な被ばくをさせ、精神的苦痛を与えたことによる損害賠償(1人10万円)を求めています。「不合理な施策」とは、①スピィーディーなどによる必要な情報を隠ぺいしたこと②安定ヨウ素剤を子どもたちに服用させなかったこと③一般公衆の被ばく限度の20倍である年20ミリシーベルト基準で学校を再開させたこと④事故当初、子どもたちは集団避難させるべきだったのにさせなかったこと⑤山下俊一氏などを使ってウソの安全宣伝をしたことです。

 最大の問題は原発事故直後の放射線量をきちんと測定せず、初期被ばくの検査も行わなかったこと。チェルノブイリ原発事故では約30万人を検査していますが、福島原発事故では1080人程度です。

 また、事故直後、長崎大学から福島県立医大に山下俊一氏を副学長として招き、県の放射線リスクアドバイザーに任命、「笑っている人のところには放射能は来ない」「年間100ミリシーベルト以下だと安全」などと山下氏は県内各地で講演しました。

セシウムボールの危険性

 裁判の過程で不溶性微粒子(セシウムボール)の危険性が明らかになりました。福島から170km離れた筑波市で事故直後に空気ダストから不溶性金属微粒子が採取されたのです。金属微粒子1個に含まれるセシウム原子数は21~45億個で花粉の大きさから1/10の大きさまであちこちで観測され、福島の道路端の砂粒を測定すると9割近い割合で見つかりました。子どもたちは背が低いので風が吹けば土壌の再浮上で不溶性放射性微粒子を吸い込んでしまいます。そして、不溶性放射性微粒子が肺に付着すると容易に排出されません。これまでセシウムの生物学的半減期は数十日とされてきましたが、これは水溶性の場合で不溶性であればまったく異なってきます。

県民健康調査の幕引きへ

 福島県では事故当時18歳以下の県民38万人を対象に「県民健康調査」が行われ、現在5巡目です。昨年6月末までに甲状腺がんの疑いがあると診断された子どもは252人、このうち203人がすでに手術を終え、202人が甲状腺がんと確定されています。

 しかし、甲状腺がんは生存率が高いので、検査をしても死亡率の低下につながらない、100ミリシーベルト以上被ばくした子どもたち以外はスクリーニング検査をする必要はないなどと、「県民健康調査」を推進してきた山下氏自らが幕引きを図ろうとしています。裁判では甲状腺がんの手術を主導してきた鈴木真一医師の尋問も行われ、「放置すれば転移して命に係わるケースばかりだった」と証言しました。

 「事実がねじ曲げられ、子どもたちが犠牲になっていることはとても耐えられません。この裁判で隠された闇がようやく明るみに出てきました。裁判を通して私たちが得た情報を今後どのように伝えていくかが問われます」と水戸さん。そして、原子力がこの国にある限りは「原子力3原則(民主・自主・公開)」を再確認しなければならないと話しました。

「原子力3原則」
1.すべての事柄を公開で行うこと。
2.日本の自主性を失わないようにすること。
3.民主的に取り扱い、かつ民主的に運営すること。

Table Vol.438(2021年4月)より
一部修正

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