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くらしと社会

選挙に行こう! 中島岳志さん講演会

第49回衆議院議員総選挙に向けて、コープ自然派各生協ではさまざまな取り組みが行われました。コープ自然派おおさかは、投開票日直前の2021年10月29日(金)、政治学者・中島岳志さん講演会をオンライン開催しました。

大阪府出身、東京工業大学リベラルアーツ研究教 育院教授・中島岳志さん。著書に「自分ごとの政治学」(NHK出版)、「保守と立憲 世界によって私が変えられないために」「自民党 価値とリスクのマトリクス」(スタンド・ブックス)など多数。

「リスク」と「価値」

 選挙で自分の考えにピッタリ当てはまる投票先を選ぶのは難題です。政治はさまざまな課題を扱うため、全体像を把握できる見取り図を中島さんは提案し、候補者・政党選びのヒントを紹介しました。

 政治家は国内政治(外交と安全保障以外)において「リスク(お金)」と「価値」をめぐる仕事をしています。縦軸に「リスクの社会化」(上)と「リスクの個人化」(下)を、横軸に「リベラル」(左)と「パターナル」(右)をとり、右上から反時計回りにⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳのエリアに分けます。この「リスク」と「価値」を基軸としたマトリクス図を使い、候補者・政党の思想・信条を捉える尺度とします(図を参照)。

「リスク」と「価値」を基軸としたマトリクス図。

 私たちの生活は災害や事故、病気などさまざまなリスクにさらされています。「リスクの社会化」はリスクを社会全体で受け止めるという立場で、行政サービスやセーフティネットが充実し、税金の総額は上がりますが、富の再配分を行う「大きな政府」と呼ばれるものです。また、災害時のボランティア活動やクラウドファンディングなどの市民活動も「リスクの社会化」になります。リスクに個人で対応するという立場が「リスクの個人化」で、税金が安くなる一方で福祉サービスは行われなくなる「小さな政府」です。選択的夫婦別姓の是非、LGBTQの権利、歴史認識は「価値」の問題で、リベラル(寛容)対パターナル(権威主義的、父権制的)の対立軸になります。

候補者・政党の選び方

 リベラルという概念が近代的に再定義されたのは「30年戦争」(1618年~1648年)でした。「30年戦争」とはヨーロッパで起きたキリスト教のカトリック(旧教)対プロテスタント(新教)の宗教的対立から始まった国際的な戦争です。決着がつかず多数の犠牲を出した末、「ウエストファリア条約」(1648年)が結ばれ、その過程で「リベラル」という新しい概念が確認されました。戦争を止めるためには、自分と思想・信条・宗教が違う人の存在を認め、互いの違いに寛容になるというものです。互いの考えや権利、自由、内面的な価値観に権力が介入しないことを保障するという形で発展しました。パターナルは力をもつ人間(権力者)が個人の内的な価値に介入するという概念です。

 選挙では自分の考えがどのエリアに属しているか、そして、どの候補者・政党が自分の考えと合致するのか選挙公報や政見放送などで判断することが重要です。また、候補者の立ち合い演説や地域の行事参加の様子を直接見て、候補者の人物像を見極めることも大切。マトリクス図に自分の人間観・選球眼をプラスして候補者を選ぶことを中島さんはすすめます。

まずは投票率アップを!

 現在の日本の政治はどのエリアに属しているでしょう。「リスク」について、日本は租税負担率(国民所得に対する租税の比率)や全GDP(国内総生産)に占める国家歳出の割合(社会保障や公共事業の関係費用など政府による経済活動)、公務員数などの指標がOECD(経済協力開発機構)諸国の中で最低レベルです。人口1000人当たりの公務員数は、日本が約37人、欧米諸国はドイツの約55人~北欧の100人超。日本は公務員数が少ないため、非正規の公務員が増え、非正規率50%以上の自治体も多数。災害時は公務員の経験値が必要になるため、対応力に弱い行政が増えたことで、地震や豪雨災害の復興の遅れが各地で見られます。「価値」については、選択的夫婦別姓の是非・LGBTQの権利などの多様性に関する政策に消極的で、靖国神社参拝など歴史認識においても対応はパターナル。日本は9年間の自公政権でⅣのエリアに進み、今後、自民党はその傾向がますます強くなるということです。

 近年の日本の国政選挙には「2・5・3の法則」があります。選挙の際、国民の2割は野党に投票する、5割が浮動票でその大半が選挙に行かない、残りの3割は与党に投票するというものです。投票率が低くなり、5割の人が選挙に行かなければ、業界団体や創価学会などの固定票を得て与党が勝ちます。そのため、安倍内閣では選挙が近くなると争点をぼかしつつ、メディアにプレッシャーをかけて選挙報道を抑え、国民の関心を失わせて投票率を下げることで選挙に勝ってきました。つまり、投票率が上がらなければ、政権交代は起きないのです。

Table Vol.454(2021年12月)より
一部修正・加筆

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