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食と農と環境

下水汚泥の農業利用について考える

輸入肥料の高騰を受けて全国で広がる下水汚泥肥料について、2024年11月28日、連合産直委員会では農研機構北海道農業研究センターの池田成志さんを講師に招き学びました。

※写真はイメージです

下水汚泥肥料とは?

 化学肥料の原料をほぼ輸入に頼っている日本。下水汚泥には肥料の主成分であるリン酸やチッ素が含まれているため、国交省と農水省が連携して下水汚泥の農業利用を推進し、多くの市町村でSDGs肥料として配付・利用されています。未利用資源を活用して国内で肥料を賄う取り組みで、下水に含まれるカドミウムや水銀など有害な重金属類に規制値を設けていますが、下水処理を行っても分解・除去できない化学物質は含まれます。

※写真はイメージです。

下水汚泥のリスク

 工業排水だけでなく、生活排水中にも環境ホルモンや発がん物質、マイクロプラスチック、PFAS(有機フッ素化合物)、化粧品、医薬品などあらゆる毒性物質が含まれるため、下水汚泥は土壌や水系、農作物を汚染し、健康を脅かす要因となり得ます。世界的には下水汚泥は焼却処分が増加しているとのこと。グローバルGAP、有機JASでは下水汚泥肥料の使用は認められていないため、間違って使わないよう注意が必要です。

農研機構の池田成志さん。専門は植物共生科学、植物微生物学、分子微生物生態学、有機農業科学
司会を務めた連合産直委員会委員長・筆口さん

海外の下水汚泥の安全性研究

 日本以外の主要国では農業用下水汚泥の安全性に関して詳細な研究が過去20年以上行われています。たとえばアメリカでは2001年に採取された94ヶ所全ての下水処理場の浄化処理後の汚泥に高濃度のPFOS(毒性の高いPFAS)が含まれていたことを2013年に発表しています。さらに、全米164ヶ所の下水処理場の浄化処理後汚泥に含まれる危険な主要汚染物質群の網羅的調査などから、PFOSは規制後すぐには減少しにくいことも明らかにされています。

 2011年にイギリスの科学者が「下水汚泥の農業利用で問題となり得る環境汚染物質の4つの特性」として、①難分解性 、 ②ヒトに対する毒性、 ③生物に対する毒性、 ④生物濃縮性を提示し、PFAS(特にPFOSやPFOA等)を下水汚泥中で監視・研究対象とすべき最重要汚染物質と指摘していますが、日本では全く研究も規制もない状況にあります。

下水汚泥から検出されるPFAS

 PFASは都市下水汚泥から最も高頻度で検出される汚染物質であることも世界中で明らかになっています。PFASは生活用品や繊維・半導体・建築用製品、潤滑剤など様々な場面(※)で使われ、環境中では分解されません。そして、使用中や廃棄後、下水浄化処理の過程で分子構造が変わり、水に溶けやすくなり、浄化後の下水汚泥に吸着、濃縮されやすくなります。これらの性質から、下水汚泥(堆肥)が使われた農地ではPFAS類が地下水を汚染し、植物・家畜・人などあらゆる生物に吸収されて蓄積し続けるリスクがあります。

※PFAS の使用例:調理用品、食品包装、トイレットペーパー、衣類、ソファ、カーペット、界面活性剤、化粧品、美容品、衛生用品、くもり止め、農薬、塗料、消火剤、建築資材、プラスチック、電子機器、半導体など

下水汚泥肥料のリスクを避けるために

 このような背景から、化学物質に対する感受性が特に高い妊婦(胎児)や乳幼児、健康不安のある方は汚染リスクのある食品を食べないことが大切です。農地に使った場合は、農業用木炭や籾殻燻炭、リグニンを多く含むイネ科の緑肥や廃菌床など、炭や樹木由来の堆肥、有機物を積極的に活用することで汚染のリスク低減・分解促進につながるそうです。

 北海道では毎年2000万トンの畜ふんが排出されますが、都市下水汚泥はわずか20万トン。畜ふんの農業利用も十分に行われていない現状で、あえて科学的な安全性の確認が不十分で、人や環境に対して危険性のある都市下水汚泥を農地に使う意義はなく、全国的にも同様の状況だと考えられます。「現状では畜ふん(堆肥)や食品残渣などの安全性の高い有機物利用の徹底が最優先で、最新の科学にもとづいて安全性が保証された有機物の循環的農業利用をすすめるべき」と池田さんは語りました。

組合員としてできること

 連合産直委員会では「下水汚泥肥料を使ったものは食べたくない、生産者と消費者が一緒に食べものも環境も守っていこう」「子どものために学校給食では避けなければ」「使っていないマークがあるといい」などと話し合われました。

Table Vol.510(2025年2月)

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