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くらしと社会

気候変動と私たちの未来 part①

2022年2月28日(月)、3月7日(月)、コープ自然派しこく徳島センターは環境ジャーナリスト・佐藤由美さんを迎えてオンライン学習会を開催。COP26の報告と再生可能エネルギーの取り組みについてお話を聴きました。本紙では2回に分けて紹介します。

環境ジャーナリスト・佐藤由美さん、著書に「持続可能なまちは小さく、美しい 上勝町の挑戦」(学芸出版社)など多数。

国連気候変動枠組条約

 佐藤さんは徳島県在住の環境ジャーナリストで、2008年から国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)を取材しています。2021年10月31日〜11月13日にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26でも現地取材しました。

 COPは国連気候変動枠組条約を批准した国々が集まり、毎年行われている会議です。1992年にブラジルで開催された国連会議「地球サミット」で気候変動枠組条約が採択され、1995年にベルリンで第1回目のCOP1が開催されました(当時、環境大臣だったメルケル前首相が議長を務めています)。1997年に京都で開催されたCOP3は、世界で初めて温室効果ガスの削減を義務付けた(先進国のみ)「京都議定書」という新しい国際条約が採択された歴史的に重要な会議でした。2015年にパリで開催されたCOP21では全締約国の197ヵ国が気候変動に取り組む「パリ協定」を採択。新型コロナの影響で1年延期になったCOP26は、パリ協定スタート(2020年)後初の開催でした。COPの開催国はアジア太平洋・中東欧・米州カリブ・西欧・アフリカの5地域を1年毎にめぐり、2022年のCOP27はエジプト、2023年のCOP28はアラブ首長国連邦を予定しています。

グラスゴーに見る未来

 イギリスは2030年までにガソリン車とディーゼル車の新車販売の禁止(日本は2035年)を掲げ、新築住宅などにEV充電器の設置を義務付けています。グラスゴーはスコットランド南西部に位置する都市で、スコットランドの電力の97%は低炭素由来で賄われ(2020年時点)、電力の脱炭素化が目前です。グラスゴー市内は車の乗り入れを制限し中心部は歩行者天国。鉄道・地下鉄・バスなど公共交通機関の充実と電動化をはかるなどの交通政策を行い、路面清掃車などの特殊車両に関しても電動化が進んでいます。

 スコットランド出身のジェームズ・ワットは蒸気機関を改良し(グラスゴー大学で研究)、化石燃料を大量消費する産業革命への道を開きました。産業革命以前は薪炭、水力や風力などがエネルギー源でしたが、グラスゴーで生まれた技術で再エネから化石燃料へのエネルギー革命が起き、同じ場所からまた再エネ100%の「みどりの産業革命」をめざしてCOP26が誘致されたのです。

 COP26の開会式ではジョンソン首相が「石炭火力発電を先進国は2030年までに、途上国を含むすべての国が2040年までに全廃すべき」と詳細なデータを駆使し、気候変動について世界に訴える政治リーダーの姿を示しました。チャールズ皇太子も登壇し、カーボンプライシング(炭素に価格をつけて再生可能エネルギー価格を安くして普及をはかる政策)の導入を訴え、グテーレス国連事務総長は「私たちは自分で自分の墓を掘っている。気候変動に脆弱な地域にとって、この会議の失敗は死刑宣告だ」と各国に行動を求めました。

 約130ヵ国の首脳を招き、意欲的な削減目標を競わせた首脳級会合が功を奏し、新たにインド・タイ・ベトナム・ネパールが加わり、今世紀半ばまでにネットゼロ宣言をした国は140ヵ国に増えました。そして、さらなる削減目標や資金援助などの引き上げが発表されました。また、テーマ(資金、エネルギー、水・海・沿岸、自然、適応・損失と被害、ジェンダー・産業、交通、都市・地域・建築物)に沿って連日会議が行われ、多くのイニシアチブが誕生しました。「議長国イギリスは、2年間かけて各国関係者へ働きかけるなどの事前準備を行い、その外交力と会議運営能力によりかつてない高揚感に満ちた会議になりました。国民の命と財産を守るという政治的責務を自覚し、語るべき言葉を持つ世界の首脳の姿に感動しました」と佐藤さんは話します。

 会場の外では、土曜日に会議参加者と地元市民10万人が気候マーチを行い、会議の成功を各国の指導者に求めます。イギリスは炭素予算( カーボンバジェット)を盛り込んだ世界で最先端の法律を持つ国ですが、市民はさらなる強化を求め国内100都市以上で開催。前日の金曜日には、スウェーデンの環境活動家・グレタ・トゥーンベリさんを招いて「未来のための金曜日」による気候マーチ(5万人参加)も行われました。

遅れる日本の気候対策

 条約の目的は危険な気候変動を防ぐこと、COP26のスローガンは「1.5℃目標を守ろう」です。1.5℃目標とは、産業革命前(1850年)から21世紀末までの地球の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑えるというもの。1.5℃目標を実現するためには、2030年までに温室効果ガス排出量を半減、2050年までにゼロにしなければなりません(2010年比)。国連は2030年までの10年間が重要で、われわれの行動が地球の未来を決定づけるとし、COP27までに2030年目標を各国に再提出するよう求めています。現在、ほとんどの国が国連に2050年までの削減目標を提出していますが、すべての国の目標を足し合わせても、1.5℃目標は達成できないことがわかっています。

 日本においては、2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ宣言しましたが、削減に向けた具体的な政策に着手していない状況です。目標達成には2030年までに62%の削減(2013年比)が必要だと独立系科学者団体が指摘。COP26の岸田首相のスピーチでは、1.5℃目標に触れず、先進国で唯一「ゼロ・エミッション火力(石炭火力発電所にアンモニアと水素を混焼させることで既存の石炭火力を延命させる発電方法)」を支援し、石炭火力を延命させようと発言したことで、化石賞を受賞。目標の2030年電源構成に19%も石炭火力を温存すると先進国で唯一堂々と提出したため(先進国は遅くとも2030年までに廃止)、世界の市民団体が岸田演説に抗議の声をあげました。化石賞とは温暖化対策にネガティブな国をCOP会期中毎日選出するもので、大変不名誉な賞です。また、2040年までにゼロ・エミッション車転換宣言に多数の国と自動車メーカーが賛同していますが、日本はハイブリッド車にこだわり賛同していません。マスコミでは、COP26の決定文書がインド、中国の反対で”段階的廃止“から”段階的削減“に変更されたことばかりが報道されていますが、国連の採択は全会一致が原則なので合意を重視した措置で、世界は脱石炭へ確実に歩んでいるということです。

 「温暖化による気候変動と気象災害の増加は人間活動が起こしたことに疑う余地はないと科学が断定し、行動が求められています。すでに地域と地球は気候変動に脅かされていますが、危険な気候変動は防ぐことができます。そのためには、産業革命から世界の平均気温の上昇を1.5℃に抑えなければならず、1.5℃目標を達成するためには2030年までの取り組みが”決定的に重要“なのです」と佐藤さんは締めくくりました。

Table Vol.466(2022年6月)より
一部修正

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