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巻頭インタビュー

生きづらい世の中をともに生き抜くために(作家・活動家・貧困ネットワーク世話人 雨宮処凛さん)

コロナ禍でより深刻になった貧困問題。コープ自然派兵庫では、2006年から困窮者支援に取り組む雨宮処凛さんを招き、現状や課題について聞きました。聞き手は、コープ自然派兵庫・正橋理事長です。

貧困問題をメインテーマとして幅広く活動する雨宮処凛さん。
雨宮処凛| AMAMIYA Karin
1975年、北海道生まれ。作家・活動家。反貧困ネットワーク世話人。ロスジェネ(ロストジェネレーション世代)として、自身も就職できず19歳から24歳までフリーターとして過ごす。非正規雇用に限らず、正社員であっても普通に働いて普通に生きるのが難しい社会の背景に構造の問題があるのではと取材する中で、2006年「プレカリアート」(不安定なプロレタリアート)という言葉を知り、以降貧困問題をメインテーマとして活動中。著書多数。最新刊は『学校では教えてくれない生活保護』(2023年、河出書房新社)。

コロナ禍での困窮者支援

───コロナ禍で経済的格差がさらに大きくなったと言われていますが、コロナ禍での困窮者支援はどのように行われているのでしょうか。
雨宮 コロナ禍の3年間は、私が貧困問題に取り組んできた17年間すべてを足しても足りないくらい過酷で深刻でした。支援団体があって本当に良かったと痛感します。例えば、バイトがなくなって公共料金や携帯電話料金を滞納している男子大学生、コンビニのシフトがゼロになり家賃を滞納しているという女性、失業中で1年くらいまともな食事が摂れず、体調を崩しても保険証が失効していて病院に行けないという50代男性など、深刻な相談が多いというのが実感です。
 これまでだと住宅に関する相談では住むところがない、家賃が払えないという相談でしたが、コロナ禍で多いのは住宅ローンが払えないという相談です。住宅ローンを組めるような安定層というか社会的信用が得られている層からの相談はこれまで経験がなかったのですが、いわゆる中間層でも何かあればあっという間に困窮するということがわかりました。
 2020年3月、ホームレス支援に関わる約40団体が連携して「新型コロナ災害緊急アクション」という緊急的な支援団体が立ち上げられました。これまでに2000件を超えるSOSメールが全国から届いています。例えば「いま新宿にいますが、携帯電話が止められて所持金0円です」というSOSが来ると、本人は電車賃もなく移動できないので支援者がその方の元に駆けつけます。そして、聞き取りをして緊急の食品を渡し、宿泊先を手配して、翌日、生活保護申請に同行するという形で、なんとか命をつなぐ活動を続けています。相談者は10代から30代が約6割を占め、女性が2割近く、所持金100円以下が約2割です。

女性たちの深刻な貧困状況

───最近の特徴として、若い女性の貧困が多くなったということですが。
雨宮 2008年9月にリーマンショックが起き、その年の年末年始に日比谷公園で「年越し派遣村」が開設されました。そして、派遣切りにあって住まいもない、お金もない、仕事もないという人たちが一緒に年を越しました。6日間で505人参加し、そのうち女性は5人(1%)でした。ところが、コロナ禍1年目に「コロナ被害相談村」という相談会を行ったときには、3日間で344人参加し、女性は62人(18%)でした。そのうち3割近くが住むところがなく、4割以上は収入がなく、約2割は所持金1000円以下でした。その翌年の「相談会」では、2日間で418人参加し、うち女性は89人(21%)と確実に女性が増えています。
 飲食店や宿泊施設で働く人の約6割は女性で、その大半が非正規雇用です。コロナ禍で彼女たちは何の保証もないまま放り出されました。非正規雇用の女性の平均年収は150万円。給料の約半分を家賃として支払うと貯金などできなくて、派遣切りに遭うと翌月からたちまち家賃を滞納してしまうことになります。非正規雇用の女性1400万人のうち約4割・560万人以上は単身またはシングルマザーです。

コロナ被害相談村

───女性の貧困と切り離せないのが性被害や性ビジネスだと思います。
雨宮 女性の困窮が深刻だという状況を受けて、これまで6回、女性の支援者らによって「女性による女性のための相談会」が開催され、私も相談員として参加しました。これまでの困窮者支援は、相談者も支援者もほとんど男性でした。そこで、女性が安心して相談できる場をつくろうと始めた「相談会」です。
 新宿・歌舞伎町の公園でも数回開催されましたが、ここはいろんな問題が凝縮しているようなところです。「相談会」では、「派遣で働いていたけど家賃が払えなくなった」という相談もあれば、「近隣のネットカフェで寝泊まりしながらパパ活している」「生理が遅れてる」というような相談もあります。性売買をしながら生きている女性が多い場所ですが、虐待されて命からがら逃げてきてネットカフェしか居場所がないというような若い女性の相談もあります。また、この歌舞伎町ではこれまで、ネットカフェで出産したり、出産した子を殺してコインロッカーに入れて逮捕されたという事件も何件かありました。女性が逮捕される一方で、妊娠させた男性については問題にならず、社会的な責めも与えられないというのはつくづく不当だと思います。こういう事件にいずれつながってしまうのでは、と思うような相談もあったので、彼女たちがいろんな支援者につながれて本当に良かったです。

生活保護をめぐるさまざまな問題

───困窮したときに利用できる制度として生活保護がありますが、利用したくない人が多いそうですね。
雨宮 コロナ禍で相談を受ける中でもっとも時間を使ったのが「生活保護をどうしても受けたくない」という人に対する説得でした。日本の生活保護の捕捉率は、受けるべき人の2〜3割程度というのが実情です。さらに、コロナ禍で増えるべき利用者の数が逆に減少し、2019年から2023年で6万人も減少しています。その要因としては、コロナ禍での主な困窮者支援が給付ではなく貸し付けだったということが大きいと思います。社会福祉協議会が生活福祉資金という形で困窮者に最大200万円を貸し付けるという制度があり、借りるのだったらいいけれど、もらうなんて絶対いやという多くの方たちがこの貸し付けを利用しました。このように生活保護に対して忌避感を持つ背景には生活保護バッシングがあります。2012年、自民党議員がお笑い芸人のお母さんが生活保護を受けていたことをとんでもないことのように国会で問題化し、それによってさまざまなテレビ番組でも生活保護受給者を監視しようというようなひどい呼びかけまでなされました。その中で自殺された方もおられます。あれから10年以上経っていますが、この時のバッシングが、命に関わるほどの困窮状態にある人たちをセーフティネットにつなげる大きな壁になっていることに強い憤りを感じています。
 一方、「自分は若いし、働けるし、病気でもないので、生活保護の対象だなんて思ってもいなかった」という方も多いです。コロナ禍で路上生活になってしまった方のもとに支援者が駆けつけて話を聞くと、ネットカフェ生活が10年前から始まっていて、足腰を伸ばせず鍵のない個室で熟睡できないまま過酷な肉体労働を続けてきたというケースもあります。本当は10年前に救済されるべきでした。住所がなく住民票がない人は不安定な仕事にしか就けず、選挙権も行使できないなど、いろいろな権利がはく奪されています。そういう方たちがコロナ前でも東京都内で1日あたり約4000人、全国レベルでは数万人単位でいるといわれていますが、きちんと調査されていません。
 生活保護を受けることを家族に知られるのが嫌だという方も多いです。ただ2021年春から、さまざまな支援団体の要請によって、本人が嫌がる場合、特に親が高齢だったり疎遠で扶養が期待できない場合には扶養照会しなくてもよいという通達が出ました。
 一方で、いまだに役所が生活保護申請をはねつける「水際作戦」もまかり通っています。仕事を解雇されてネットカフェを転々とする60代女性は3回も生活保護申請を断られたということです。生活保護を受けられなくて起きた痛ましい餓死事件や孤立死事件もたくさんあります。

コロナ禍、何度か開催された「大人食堂」で配られた野菜など

───受給に関する誤解も多いそうですね。
雨宮 例えば、働いていても生活保護は利用できます。持ち家があっても、そこに住んでいて資産価値が二千数百万円以下であれば利用できます。車があっても通勤・通院に必要と認められればOK。ペットがいても大丈夫です。高校にも行けます。もちろんホームレス状態の方もOKです。医療費は無料になります。ただ、大学生は退学か休学しないと利用できないので、ここが大問題だと改善を求める声が多くあります。夜間や通信制大学は生活保護を利用しながら通学できます。

───海外ではどんな生活保護がありますか。
雨宮 ドイツと韓国の生活保護について紹介しましょう。ドイツではコロナ禍が始まってすぐに日本の厚労大臣に相当する人が生活保護をどんどん利用するよう動画で呼びかけました。また、生活保護申請を簡素化して、半年間は資産調査をしないでたくさんの人たちを救おうという姿勢を見せました。2012年3月には家賃を滞納しても最大2年間は追い出せないというルールができました。日本でもこのタイミングでこのルールができていれば防げた自殺は多くあると思います。扶養照会も超大金持ち以外はなし。もともとドイツでは家賃を滞納したら福祉関係者が駆けつけ、生活保護につなげていたということです。
 韓国はもともと日本の生活保護をモデルにしたのですが、とっくに先を行っています。「国民基礎生活保障」という名称に変え、家賃だけ、医療費だけ、教育費だけというようにそれぞれ単独で受けられるようにしたことで偏見がなくなり、貧困率が大きく下がりました。

すべてのいのちを守りたい

───ペットの支援も始められたのですね。
雨宮 2020年5月に、ある女性から「家賃を払えなくて、飼い犬と一緒にアパートを追い出されてしまった。150円しかなくて私も犬も昨日から何も食べていません」というSOSメールが届きました。そこで気づいたのは、ペットがいればホテルやネットカフェ、公的な支援施設を利用できず、あらゆる支援から漏れてしまうということです。彼女はその後、ペット禁止ではない民間のシェルターに入ってもらうことができたのですが、シェルターに入ったとたんに高齢だった犬が体調を崩し、動物病院通いが始まりました。動物の治療費は高く、これまでの寄付金は人間対象なので、急遽「反貧困犬猫部」を立ち上げて寄付金を募りました。すると、全国の愛猫・愛犬家から怒涛のように熱いメッセージとともに寄付金が寄せられ、ペットとともに入れるシェルターもできました。ペットフードを買えない場合は銘柄を聞いて送るような支援も行っています。

───応急手当的な支援だけではなく、政治における長期的な施策も必要だと思います。
雨宮 コロナ禍で相談を受けていてもっとも驚いたのは、「年越し派遣村でもお世話になりました」という男性がいたことです。リーマンショックのときにホームレス状態になってしまい、派遣村を頼り、生活保護申請をしたものの、その後も派遣労働と生活保護を繰り返して、結局、コロナ禍で再びホームレス状態になっていました。それを聞いたとき、それは有り得ることだと思いました。なぜなら派遣村からこれまでの15年間、非正規雇用は拡大し続け、労働者を守るような法改正は一切なかったからです。結局、経済危機や感染症拡大など、何かあったら生活が根こそぎ破壊される層が膨大に増やされたのがこの30年でした。雇用さえ安定すれば状況は大きく変わるのですが、どうして変えられないのだろうかと痛切に思います。

横浜・寿町の炊き出しでお手伝い。

───困った時、まずはどこに行けばいいでしょうか。
雨宮 福祉事務所がいちばんいいかなと思います。「生活に困っているんです」と漠然と相談すると、たらい回しにされてしまう可能性があるので、「生活保護の申請に来ました」と言うのがいいと思います。家賃を払えない場合は住居確保給付金という制度があるので、「住居確保給付金を使います」など、ある程度下調べをして訪ねたほうがいいかもしれないですね。もっとも困ったときに使えるのが生活保護ですが、違う窓口に案内されたりする場合もあるので、「いえ、生活保護を申請します」と臆さずはっきり告げてください。

左:コープ自然派兵庫・正橋理事長 右:雨宮処凛さん。

Table Vol.496(2023年12月)

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