農家がどんどん減り、食べものが手に入らなくなる。そんな危機が広がるいま、食と農の希望はどこにあるのでしょうか。2025年3月22日、奈良の学校給食を考える会(※1)は6名のゲストを招きトークイベントを開催しました。

農家が育つ学びとサポート
前半のトークイベントは「農業の担い手を増やすには」がテーマ。奈良県でオーガニックビレッジ宣言(※2)をしている3市町村から3名が登壇。農家である山口貴義さん、伊川健一さんと、〝半農半村長〟の野村栄作さんは、それぞれ宇陀市、天理市、山添村で農業の学校を運営しています。
「昔は、農作業は1人でするものではなく、田植えや稲刈りも家族や近所の人と一緒にしていました。今は機械のおかげで1人でもできるようになりましたが、それが逆に、後継者を育てないことにつながっているのではないでしょうか」と話すのは野村さん。「技術的なことを学ぶのと同じくらい、多くの人と一緒に学ぶことが大切です」。山口さんも、「農家を孤立させないことが大切で、売り先の相談や地域に溶け込むためのフォローなど、卒業後もサポートを続けています」と。そして、「農業の〝正解〟はたくさんありますが、有機でも慣行でも、自身はもちろん家族や地域、周りが幸せである事が大切」と話します。

農の楽しさに触れる
農に関わる人の裾野を広げるには、子どもたちへのアプローチも欠かせません。学校給食の食材をオーガニックや地産地消にすることと同時に、食農教育を授業に取り入れ、食べることと育てることをセットで体験することが大切だと3人は声を揃えます。伊川さんが運営に関わる「YAMAZOEオーガニックスクール」では高校生が農家と一緒に学んでいます。「農業で高みを目指す〝縦軸〟と、みんなが土に触れる楽しさの〝横軸〟が必要です。オーガニックビレッジ宣言は、微生物から人間まで含めて、それぞれの働きを地域でとり戻していくことではないでしょうか」と伊川さんは締めくくりました。
〝おいしい〟が原点
後半のトークには、農や食を伝える仕事をしている3名が登壇。編集者の阿南セイコさん、食養料理研究家のオオニシ恭子さん、農家レストランを運営する三浦雅之さんです。
伝統野菜の調査研究もしている三浦さんは、「伝統野菜をつくる人はみな『おいしくてつくりやすいから、つくり続けている』とおっしゃいます。おいしいというのは家族が喜ぶということ、つくりやすいのは気候風土に合っているということです」と。オオニシさんは、「自分の体に合うものは、おいしいと感じます。身土不二といって、自分が暮らす土地で長くつくられてきたものは体に合いやすいんです。また、例えば生のごぼうのすり下ろしは健康な人には食べにくい味ですが、それを必要とする体調の人にはおいしいと感じる。舌先だけのおいしさではなく、体が本当に喜ぶおいしさです」。

生産と消費の垣根を超える
三浦さんは10年前、「シェフズファームプロジェクト」というシェフが農地を耕すプロジェクトを立ち上げました。奈良の名だたるシェフたちが、遊休農地を使ってレストランで使う食材を有機栽培しています。また、阿南さんは、消費者が自分の食べる分だけでも小さくつくってみることを「畑活」と呼んで勧めています。「危機に直面して初めて目が覚めることがあります。いまこそ目を覚ますときではないでしょうか」と阿南さん。「食と農の問題を生産者任せにするのではなく、自分たちの手に取り戻していく。眉間にしわを寄せないで、笑顔でやっていけたらいいですね」と呼びかけました。
(※1)コープ自然派奈良が事務局として参画し、学校給食の地産地消やオーガニック推進に取り組む
(※2)農林水産省の呼びかけに応じ、地域ぐるみで有機農業に取り組むことを市町村として宣言。現在全国で130以上の市町村が実施
Table Vol.515(2025年7月)