2021年1月21日(木)、沖縄県から青森県までの生産者と関西・四国の会員生協組合員・役職員など多数の参加者を得て、第6回コープ自然派生産者&消費者討論会(オンライン)を開催、今回は「学校給食をオーガニックにするために」をメインテーマに講演と各地の取り組みの報告、そして、交流会が行われました。
3人から始めた有機稲作
第6回生産者&消費者討論会は、コープ自然派事業連合・辰巳副理事長の挨拶の後、「学校給食100%有機米を実現!~その道のりとねらい」をテーマに、千葉県いすみ市農林課生産戦略班主査・鮫田晋さんのお話から始まりました。いすみ市は房総半島南東部に位置し人口3万7000人の町。開発の影響から逃れたことで希少生物も多く、昔ながらの里山や里海が残されています。
いすみ市は米づくりが盛んで、千葉県ではおいしいお米の産地とされてきましたが、近年は米価の下落によって離農者が増加、また、農家の高齢化などによって耕作放棄地が拡がり、しだいに里山が荒廃していきました。里山の荒廃は景観を悪化させるだけでなく、コミュニティを衰退させます。そこで、2012年に「自然と共生する里づくり連絡協議会」を設立、その一環として有機米づくりに取り組むことになりました。有機米づくりに挑戦したのは当初は3人の農家。2013年、手探り状態で22アールの田んぼで始めます。しかし、予想したとおり田んぼは草だらけになり、収量も少なく頭を抱えました。その一方で、田んぼにカエルが増えることで害虫による被害が抑えられました。
失敗の1年を経て、2014年からNPO法人民間稲作研究所・稲葉光圀さんに指導をお願いし、研修・実践・調査・分析・改善という過程を経ていすみ市の気候風土に合った技術体系を確立。また、有機稲作に取り組む意義についてさまざまな講師を招いて議論を重ねました。この議論には農家はもちろん、環境保全団体、教育関係者、市民、行政、市長も参加して課題を共有しました。
収穫された有機米については、農家から「子どもたちに食べさせたい、そのためには学校給食に提供するのがいいのではないか」と提案され、市長も即刻同意、2015年5月、いすみ市で初めて学校給食に有機米が提供されました。これに共感した農家も参加し、2016年は16トンの有機米(いすみ市の学校給食の約40%)、2017年は28トンの有機米(同70%)を提供。2018年には全量有機米でとの目標のもと、50トン収穫し、うち42トンを学校給食に提供し有機米100%が実現しました。学校給食を有機米にすることで残食が減少。小学校5年生の授業では田植、稲刈り、生きもの探しなど有機米づくりを体験し、子どもたちは食べものと環境のつながりなどを身近に感じています。
自然と共生する里づくり
今、世界の給食はオーガニック導入に向かっています。フランスは2022年までに給食の食材のオーガニック率を50%にすることを法制化。韓国は2021年からソウル市が小・中・高校でオーガニック無償給食が全面施行されます。EUは2030年までにオーガニック農地面積が全体の25%まで拡大することを目標にしています。「このような流れを見ると、ローカルで小さないすみ市ですが、取り組みは世界の流れに沿っていると言えます」と鮫田さん。そして、学校給食を有機米にすることで食の安心・安全はもとより、学校給食を通して子どもたちにどうあってほしいのか、地域の農業や食文化をどうしたいのかなどについても農家、市民、行政が一体となって考えています。
いすみ市の「自然と共生する里づくり連絡協議会」は「持続可能な生物多様性に富んだ自然と共生する魅力的な地域づくり」を目標として掲げ、兵庫県豊岡市の「コウノトリも棲めるまちづくり」をモデルにしています。豊岡市では農薬を使わない農地を広げることでコウノトリの生息環境を良くする取り組みを進めてきました。2012年頃から千葉県野田市がコウノトリの飼育・繁殖・放鳥に取り組み、栃木県小山市は2020年に関東地域で初めてコウノトリの野外での繁殖に成功。関東地域でもコウノトリをシンボルにしたまちづくりが広域の自治体間連携で始まり、2010年にいすみ市も参加しています。
学校給食を有機米にするには自治体の財政的な支援が必要です。いすみ市では慣行農家と有機農家の対立を避けるために、給食の安全性を強調し過ぎず、子どもたちの健全育成と産業振興・地域振興の観点を強調。「年間400~500万円の予算が必要ですが、金額を上回るさまざまな効果が得られています」と鮫田さんは話します。また、有機米のブランド化を図り、子どもたちの未来を支えるお米という願いを込めて「いすみっこ」と命名。ブランド戦略としては地元での評価を得たうえで、それをもとに大消費地に打って出るという戦略を選択しました。
有機野菜も学校給食に
学校給食の有機米100%が実現したところで、有機野菜に取り組む農家グループから有機野菜の提供が提案されました。そこで、2018年に「学校給食有機野菜供給体制構築事業」がスタート。若手農家とベテラン農家のネットワークをつくり、直売所からまとめて納品するというこれまでとは異なるシステムのもとで無理なく供給できる品目から始めました、一品一品、給食センターの栄養士・調理師と農家が毎月打ち合せて現在7品目の有機野菜を供給、今年は有機キャベツも加わる予定です。
有機米100%の学校給食は大きな話題となり、毎日のように全国各地から問い合わせがあり、いすみ市への移住者も増加しています。そして、都市の人たちとオーナー制度をつくり、農業体験などを通して里山に賑わいが戻ってきました。「いすみ市は特別なことをやっているのではなく、生産の基盤があればどこでもできます。これからは農村と都市が有機的につながることで私たちの国はもっと暮らしやすく活性化するのではないでしょうか」と鮫田さんは話します。
Table Vol.437(2021年4月)より
一部修正