2024年7月4日〜5日、第3回北海道アンバサダーツアーを開催。コープ自然派とアイチョイス事業連合など友好生協の役職員が北海道の生産者を訪ね、有機の畑や工場を見学しました。
【1日目 日本有機加工食品コンソーシアム主催】有機小麦・大豆の今城さんを訪ねて
コープ自然派の国産有機小麦1000tプロジェクトの基盤となる営農企画・今城正春さんを訪ねました。2022年に続いて2度目の訪問です。
今城さんの畑は北海道中央部の比布町と当麻町にあり、200haの畑のうち有機JAS認証農地は115ha。本州では考えられない広大な畑を3人で管理し、大豆や小麦などを育てています。収穫した穀物の水分調製や選別を行う「乾燥調整施設」や「定温倉庫」、そして、「オーガニック加工食品工場」も自社で営みます。
今城さんは「どなたでも食べられる有機農産物をつくりたい」と、コープ自然派と同じ想いを持つ大規模有機農家です。国内でも有機農業が広がりつつありますが、有機の小麦や大豆はほとんどありません。コープ自然派では、加工品の小麦と大豆を国産有機に変えることを課題としていたところ今城さんと出会いました。
有機特殊肥料プラントの挑戦
今回の訪問の一番の目的は、今城さんの新しい「有機特殊肥料製造プラント」の見学です。
国産オーガニックを広げることは、まず有機農産物をたくさんつくることから始まります。そのためにはつくり続けられる有機肥料の確保が必要。今城さんはさらなる大規模有機農業の確立をめざし、自ら肥料工場づくりにチャレンジし、高品質の完熟肥料プラントを稼働させました。このプラントでは年間1万トン、畑500ha分の肥料ができる見込みです。
比布町は旭川市に隣接した町で、寒暖差があり降雪量も多い地帯です。稲作が盛んなので藁やもみ殻などの副産物が豊富です。今城さんは、「有機農業に欠かせない肥料を、地域の安全が保障されている廃棄物を使い、永続的な有機農業をつくる。そこに真髄がある」と言います。
なぜ、有機肥料をつくるのか
一般的に、同じ場所で同じ種類の野菜を育てると連作障害が起こります。土の中にはいろんな栄養素があり、作物が必要なものだけを吸い続けるため土壌のバランスが崩れ、微生物も偏るので病気になりやすくなります。一般に小麦は連作できないといわれていますが、今城さんの畑は連作6年目です。今城さんは「有機肥料で穀物が連作できることを証明したい」と言い、「めざすのは輪作体系不要の、同じ畑で同じ穀物をつくり続けること。雑草は何年も続けて同じところに生え続けています。収量を落とさないように肥料を入れていけば解決できる」と自信をもって話します。
巨大な肥料製造工場の見学
小麦畑の横にそびえ立つプラント。中では「L字自走式発酵撹拌機」や「もみ殻燻炭製造機」が稼働しています。4本の巨大スクリューで廃菌床や鶏ふんなどを混ぜ、もみ殻を炭化する熱を利用して床から温風を送り発酵を促進させます。肥料の中は60℃ほどで微生物と菌が活動しやすい温度。一カ月ほどかけてできた肥料に、燻したもみ殻炭を加えます。もみ殻炭には多数の小さな穴があり、土の水はけや通気性が良くなるとともに生き物の住処になります。今城さんは「生物の餌だけあっても住めないので、炭を微生物の家として加えます」と説明します。
プラントは発酵熱で温度が上がりすぎないように天井は16メートルほどもあり、屋根や壁は透明のフィルムで覆われています。通常は鉄板が使われますが、微生物のために太陽の光が届く素材です。もみ殻燻炭製造機の排熱で冬でも安定して肥料づくりができ、中は暖かいので屋根に雪も積もらない予定。プラントは、有機肥料製造のモデル事業となる工場で、農水省も大きな期待を寄せています。
【2日目 連合産直委員会主催】上富良野・中富良野の生産者を訪ねて
北海道の真ん中にある上富良野に、大雪を囲む会・上富良野農場があります。畑は山間に広がり、昔から熊のテリトリーに踏み入らないよう共存して農業を営んでいます。上富良野工場では有機野菜の選別出荷をしています。
大雪を囲む会・上富良野農場は生産者たちでつくった会社で、メインの上富良野と美幌の2拠点で8戸の生産者が出荷しています。代表取締役の一戸義則さんは、「生産者が手を組み農産物の生産量を確保することで、安全でおいしい有機農産物を社会にもっと広げていきたい」と、会のスローガンを伝えます。
多くの人の手が育むにんじん
上富良野の丘の上にある村上勝さんの広い有機にんじんの畑では、小さなにんじんの芽が草に囲まれていました。畝間は機械で除草できますが、農薬を使わないので作物の周りにはどうしても草が残ってしまいます。そこは人力で除草!朝7時から休憩を挟んで17時まで、20人弱の従業員が11haの畑の草を手作業で取ります。収穫までの間に3回以上除草が必要です。一戸さんは「有機農業は草との闘い、手間暇がかかります。けれど、地道に草引きしていけば草の種類が変わって、徐々に減っていきます」と話します。
共同経営で新規就農者を支える
大雪を囲む会は1970年、前身である一心生産組合が設立され、島本微生物農法と出会い勉強会を実施してきました。2009年には有機JAS認定業者として認可を受け、2010年、島本微生物農法を学ぶ仲間と有機農産物だけを扱う「株式会社大雪を囲む会」を設立。そして2023年、新たなステージとして一心生産組合は「株式会社大雪を囲む会上富良野農場」としてスタートしました。
一戸さんは「今年から新たに美幌に4名、富良野に1名、仲間が増えています。一生懸命つくっている新規就農者の野菜はどうしても転換期間中有機になります。その過程をぜひとも応援してほしい」と話します。
農薬が苦手だから有機農業一本
中富良野にある橋本悠さんの圃場は、ハウスで有機トマトとアスパラ、路地で有機かぼちゃを育てています。橋本さんの母・時恵さんは中富良野自然農法生産組合に1991年に加入し、有機認証のない時代から有機JASレベルの農業を行い、2002年に有機JAS認証を取得しました。有機トマトは15年間、連作障害なく育てています。橋本さんは「4年目は収量が落ち込みましたが、それ以降はちゃんと収穫できているので、土の変化を実感しています。必要な肥料がわかってきたので余分なものは入れません」と話します。品種は「麗夏」。味がいいのはもちろん、皮が硬めで日持ちがするので北海道からの輸送にはとても有利な品種です。麗夏は原種のため、毎年種取りをして種から育てているそうです。
十勝岳を見渡す有機カボチャ畑は、端が見えないほど広大です。自然のチカラに任せて力強く育てているカボチャの品種は「恋するマロン」。掛け合わせ品種のため保証のある種屋から購入しているそう。シャイな橋本さんは、「農薬は苦手なので使いません」「有機農業に賛同してくれる人がいるから続けられる」と照れながら話してくれました。
土づくり、地域の資源を利用した堆肥づくりなど、大規模有機農業のモデルが北海道にあります。最後に参加者で2日間をふりかえり、「産地に赴き、顔と顔の見える関係が生協の原点。ネットやスーパーで購入する野菜との違いを確信した」「熊が食べてしまったり、異常気象で収穫できないこともあるけれど、持続可能な農業をしたいと有機農業をする生産者を応援したい」という声や、「現場を想像すること、欠品の背景を知ることなどできることはたくさんあるので、感じたことを自分の気持ちとして伝えていきたい」など感想を話しあいました。
Table Vol.505(2024年9月)