2020年11月11日(水)、コープ自然派兵庫(「なでしこ原っぱチーム」主催)は木原壯林さん(元日本原子力研究所研究員、京都工芸繊維大学名誉教授)を講師に老朽原発の危険性について学び、今、私たちは何をすべきか考えました。
人類の手に負えない原発
福島原発事故から10年目を迎えようとしていますが、未だ多くの人たちは故郷を奪われ、事故の収束は見えないままです。そして、大量の放射能汚染水が太平洋に流されようとしています。原発は事故の被害の大きさや使用済み核燃料の処分の困難さなど人類の手には負えず、現在の科学技術で制御できる装置でもありません。そんな原発が老朽化すれば危険度は増大。それでも関西電力は運転開始から45年超えの美浜原発1号機、44年超えの高浜原発2号機と美浜原発3号機を再稼働しようとしています。
なぜ原発は危険なのか、その根本的な理由は核反応エネルギーの膨大さです。重大事故が起きれば事故は瞬時に拡大します。また、原発は原爆とは比較にならないほどの量の放射性物質を生産し、100万kwの原子炉を1年間運転した時の生成放射性物質は約1トンで、広島原爆がばらまいた放射性物質の量の約1300倍です。そして、放出された放射性物質は広い地域を汚染します。福島原発事故では160㎞沖合にいた米空母ドナルド・レーガンが被ばく、約50㎞離れた飯館村は全村避難、約200㎞離れた東京や千葉にも高濃度の放射性物質が降下しました。放射性物質はアメリカ西海岸にも到達しています。
放射性物質による被害は長期に及び、半減期2万4000年のプルトニウム239を1万分の1に減少するには約32万年かかります。さらに、原発は使用済み核燃料や放射性廃棄物を残します。現在、日本には使用済み核燃料が1万7000トン以上溜まり、原発の燃料プールや六ヶ所核燃再処理工場の保管場所を合計した貯蔵容量の73%が埋まっています。また、低レベルおよび高レベル放射性廃棄物は200リットルドラム缶で約120万本および約1万本蓄積され永久貯蔵はおろか中間貯蔵できる所もありません。
さらに危険な老朽原発
2012年9月、原子力規制委員会が設立され、当初「40年越え運転は例外中の例外」と明言していました。ところが、2016年、規制委員会は40年超えの原発の運転を認可しました。原子炉は高温高圧下で高放射線に長年さらされ、圧力容器や配管などの脆化・腐食・減肉が生じます。交換できない圧力容器の脆化はとりわけ深刻で、建設時に適当とされたものが現在の基準では不適当と考えられている部分が多数あり、すべて改善されているとは言えません。地震の大きさを過小評価していた時代につくられた構造物や配管で交換不可能なものもあります。
老朽に伴う脆化とは柔軟性があった材料が硬くもろくなること、減肉とは配管などの管の厚みが減少することです。圧力容器(鋼鉄)の脆化温度は運転期間が長くなると上昇し、使い始めは-16℃ですが、1年後に35℃、18年後に56℃、34年後に98℃になり、40年後には100℃を超えます。原子炉が緊急事態に陥ったとき、冷却水で急冷しますが、脆化温度以下に急冷されるとガラスを急冷したときのように圧力容器が破損する可能性があります。
配管破断の要因のひとつ金属疲労は、金属に繰り返し力を加えたとき、初めは小さな傷が生じ、やがて大きな破壊に至る現象。1991年2月に美浜原発2号機の蒸気発生器伝熱細管がギロチン破断(刃物で断ち切ったような破断)して一次冷却水が二次側に漏洩した事故は、高サイクル振動による金属疲労が原因でした。
金属腐食には全面腐食と弱い部分から腐食が進行して穴が開く局所腐食があります。老朽原発でしばしば問題となるのは局所腐食のひとつである「応力腐食割れ」で、1960年代から1980年代初頭、沸騰水型原発で応力腐食割れが多発しました。2004年8月、運転開始後28年の美浜原発3号機の事故は復水系配管が突然破裂し、高温高圧の二次系冷却水が大量に漏れ出して高温の蒸気となり周囲に広がりました。この事故で5名死亡、6名重軽傷、国内初の運転中の原発での死亡事故でした。
再稼働時にトラブル頻発
運転開始後40年に満たない原発でも再稼働時にトラブルが頻発しています。2015年8月に再稼働した川内原発1号機(運転開始後31年1ヵ月)は再稼働10日後に復水器冷却細管が破損、2016年2月、再稼働準備中の高浜原発4号機(30年8ヵ月)は一次冷却系・脱塩塔周辺で水漏れし、発電機と送電設備を接続したとたんに警報が鳴り響き、原子炉が緊急停止しました。2018年8月末に再々稼働した高浜原発4号機(33年2ヵ月)はポンプの油漏れのほか温度計差し込み部から噴出した放射性物質を含む蒸気が噴出。2019年10月、再稼働準備中の高浜4号機(33年4ヵ月)で蒸気発生器(3台設置)の伝熱管5本の外側が削れて管圧が40%~6% 減少。2020年2月、再々稼働準備中の高浜原発3号機(35年1ヵ月)は蒸気発生器伝熱管の減肉・損傷。今年9月、大飯原発3号機は蒸気発生器と原子炉をつなぐ配管に深刻なひび割れを発見、関西電力は問題ないとしましたが、規制委員会の検証により運転を停止しました。
若狭の原発が危険な理由
若狭には原発が密集しています。その1つが重大事故を起こせば関西はもとより関東も高濃度の放射性物質で汚染される可能性があります。京都駅は高浜原発から63㎞、大阪駅は88㎞。250万人が住む京都府、140万人が住む滋賀県は100㎞圏内にあり、琵琶湖の汚染は1450万人の飲用水を奪います。また、汚染水は日本海に流され、日本海は閉鎖海域なので極めて高濃度に汚染されます。
若狭の原発が危険である理由として、高浜3・4号機(大飯原発も計画中)がプルサーマル運転を行っていることです。もともとウラン燃料を前提とした軽水炉でウラン燃料の一部をMOX燃料に置き替えて運転するため技術的な課題が山積。プルサーマル運転は重大事故の確率が高く、使用済みMOX燃料の発熱量は使用済みウラン燃料の発熱量の3~5倍です。
原発反対を表明しよう
なぜ危険な老朽原発を再稼働させるのか。「エネルギー基本計画」(2018年7月3日)によると、2030年の電力は原子力20~22%で福島原発事故前の数値、石炭エネルギーは増加、石油は減少しています。「この計画を実行するには老朽原発の運転が必至です」と木原さん。また、原発をトンネルに巨額の原発マネーが垂れ流されています。原発に投入された安全対策費1兆200億円以上は私たちの電気料金から支払われ、政府はさらに5000億円を投入しようとしています。
電気料金値上げ時、関電は社員の給料カットを消費者に説明しましたが、幹部だけに払い戻されていたことが発覚、脱税も関電が補填していました。また、関電は使用済み核燃料の中間貯蔵施設の候補地を2018年内に決定すると明言しましたが、約束は反故にされたままです。「危険極まりない老朽原発の再稼働阻止を突破口に人の命と尊厳が大切にされる社会を実現しましょう。老朽原発の運転と原発の新設を阻止すれば最悪でも2033年に若狭から、2049年に全国から稼働する原発がなくなります」と木原さん。新エネルギー開発や今のエネルギーの10分の1で動く装置の開発も大事ですが、貴重な資源とエネルギー投棄の見直しが必要です。木原さんは原発を止める方法として①政府に原発を断念させる②立地自治体に原発を断念させる③裁判で原発運転を差し止める④電力会社に原発を断念させる、を挙げます。そして、「創意工夫を凝らし、市民運動・労働運動を高揚させて脱原発・反原発の民意を社会通念にする以外に道はありません。近所で地域で職場で勇気を出して原発反対を表明しよう」と訴えました。
Table Vol.431(2021年1月)より
一部修正・加筆