コープ自然派事業連合は中長期ビジョン策定に際して、杉本貴志さん(関西大学教授)を講師にオンライン学習会を開催(PAF2030主催)、生活協同組合の存在意義と課題、そして、組合員理事の役割などについて学びました。Tableではお話を要約してお届けします。

講師の杉本さんはコープ自然派について、小規模生協だが安心・安全を堅持し、カタログでは商品情報を詳しく表示、利便性や価格にも目を向けていることなどを高く評価。

「三位一体」の協同組合

 「普通の人」がつくり、運営し、利用する事業体としての生協。そのどこが優れているのか、また、どこに課題があるのか、協同組合・生協の歩みを辿りながら考えました。
 
 20~30年前には、生協の商品は安全・安心だがスーパーなどの商品は不安だなどとよく言われましたが、最近はそういう声があまり聞かれなくなったように思います。では、生協と企業との根本的な違いはどこにあるのでしょうか。

 例えば、株式会社は資本金を提供した人が株主で、彼らが株主総会で意思決定します。経営は株主総会で選出された経営者が行います。それに対して生協は、組合員が出資し、その代表が総代会で意思決定します。そして総代会で選出された理事が理事会を構成し、生協の運営を担います。両者の大きな相違点は、株主総会では1株1票ですが、総代会では1人1票、平等な議決権で運用されているということです。

 もう1つ、両者の大きな相違点は、株式会社では出資者と経営者と利用者が異なる存在ですが、生協では出資者と経営者と利用者が人格的に同一であり、「三位一体」であるという点です。「三位一体」の生協は、経営に利用者の利益を反映できます。近年はスーパーもお客さま第一主義で努力していますが、短期的利益に左右され、長期的な目標を追求する点では生協の方が優れていると言えます。

 逆に生協の短所は、民主主義であるが故の意志決定のスピードの遅さです。例えば、赤字店舗があったとしても、その地域の組合員の利益や地域事情を考えると容易に閉鎖できません。生協は組合員の利益のみならず社会的利益や社会貢献を考慮するという点でも営利企業とは異なります。

班別共同購入事業へ

 日本の生協は、日常的に消費する食品を無店舗で販売することに成功した世界初の事業体です。なぜ成功したのか。それにはやむを得ない事情がありました。1948年、「消費生活協同組合法」成立。これは生協を守るためにつくられたはずの法律でしたが、最終的には生協を厳しく規制する法律になりました。「員外利用規制」は組合員でなければ利用できないという規制、「県境規制」は事業展開を県内に限定するという規制です。これらは店舗の全国展開において極めて不利な規制です。

 そこで、生協の先輩たちは店舗を経ずに食品の供給をできないかと考えました。生協には組合員が集まる「班」があります。この「班」に商品を届け、組合員が分配する方法で、1970年、生活クラブ生協(東京)、静岡生協(静岡)、千里山生協(大阪)がほぼ同時期に「班別共同購入」を始めました。店舗がなくても安心・安全な食べ物を組合員に供給する道が開かれたのです。

生協と営利企業の違い

 生協の人気商品「CO・OPミックスキャロット」は、子どもにニンジンを食べさせたいと願う組合員の声から1980年に開発に着手し、試作・試飲を重ねて約2年後に世界初のおいしい野菜ジュースとして開発されました。

 地域の声を聴くのも生協の役割です。東北のある市ではスーパーが撤退したビルの一部が空きスペースになり、商店街の衰退が懸念されました。そこで、商店街は地元の生協に跡地への出店を要請。その生協は当然厳しい経営になることを予想しましたが、あえて出店を引き受けました。地域とともに歩むという役割を担う生協には、営利企業とは異なる意思決定が求められます。

 一方、あえて消費者の声を聴かない決断もあります。ある大学生協ではカップ麺の特価セールが人気を得ていました。しかし、カップ麺に依存する食生活の是非が理事会で議論され、やめるという結論に至りました。これも営利企業ではあり得ない決断です。

 このような生協の在り方について、「生協は高校野球だ。美しいが所詮はアマチュアだ」と評価されることもありました。これに対して、生協職員たちは流通業としても「プロ」になりたいと努力しましたし、また逆に企業も、生協を見習って安心・安全のレベルアップを図ります。こうして、生協とスーパーとの差が見えにくい時代が到来しました。

 2012年、全労済協会が行った「生協と生活意識に関するアンケート調査」では、「協同組合は次のうちどれだと思うか」という問いに、「行政機関の1つである」3.6%、「半官半民の団体である」14.7%、「民間の営利団体のひとつである」43.5%、「民間の営利を目的としない団体」38.2%という結果でした。2016年の調査では「わからない」を選択肢に入れたところ「民間の営利団体のひとつである」28.3%、「わからない」33%となりました。2018年の調査では、「わからない」32.2%、行政機関4.9%、半官民営14.0%、民間営利29.2%、民間非営利19.5%。つまり、生協は「民間の営利を目的としない組織である」ことを5分の1程度の人しか理解していないという結果なのです。

 さらに、「社会問題や暮らしの向上に熱心な団体」を3つ選択するという設問では、1位「地方自治体」約50%、2位「国・政府」約40%、3位「NPO法人」約20%で、協同組合は最下位でした。

班別共同購入から個配へ

 1980年代以降、組合員がプライバシーを重視する傾向が強くなり、女性の社会進出も活発になってしだいに班別共同購入が成り立たなくなります。また、流通業界での競争が激化し、生協側でも職員がいかに迅速に配送するかが課題になりました。このような流れのなかで個人宅配への模索が始まり、首都圏コープ・パルシステム連合会が配送を外部委託することで「個配」モデルを確立、全国の生協に広がりました。一方で配送の外部委託は格差社会の問題を置き去りにしているとの問題意識があります。

 生協組合員は1980年から2010年までに4倍以上増加。1990年には6割以上が班に組織されていましたが、2010年には3分の1に減少しています。

生協の新たな役割

 生協と営利企業との差が見えなくなったことを、生協先進国ヨーロッパでは数十年前から課題としていました。そこで、ICA(国際協同組合同盟)では2つの新たな原則を打ち出しました。1966年の第6原則「協同組合間協同」、1995年の第7原則「コミュニティの持続的発展への寄与」の追加です。つまり、21世紀は異種協同組合が協同して安心して暮らせるコミュニティをつくる時代であり、組合員だけに奉仕する協同組合、顧客に奉仕する営利企業という図式を超えた展開をICAは展望したのです。

 イギリスの生協では「freerange egg」と表示された卵が売られていますが、動物を大切にするイギリス社会では、生協がアニマルウェルフェアの先頭に立つべきだと放し飼い鶏の卵に転換したのです。これはすぐさま他のスーパーにも広がり、今では一部の安売りスーパー以外では放し飼い鶏の卵しか売られていません。エシカルコンシューマ―という考え方を取り入れたのもイギリスの生協で、環境にやさしいか、動物にやさしいか、人々にやさしいか、政治的な姿勢はどうかが商品選択の基準になっています。

 国連総会は2012年を「国際協同組合年」にすることを満場一致で決定。2016年、ユネスコは協同組合を「ユネスコ世界遺産」に登録しました。なぜ、国際組織は協同組合を優遇するのか。それはコミュニティの大切さをいち早く組織の方針として先取りしたのが協同組合であり、それはコミュニティにとってなくてはならない存在だという期待があるからです。このような国際社会の動向を理解しないのが日本の社会であり、組合員は常勤職員とともに生協の新たな役割を理解することが必要です。

組合員理事の役割

 生協の強みは地域で暮らす生活者が組合員理事として理事会にいて、「プロ」では気づかないことを事業に取り込めることです。理事会の中に経営や財務、マーケティングのプロが常勤職員・常勤理事として存在するのであれば、自分の経験だけでなく国内外の生協と組合員の経験を学び、地域のプロ、生活のプロ、子育てのプロとして理事会に意見を届けることが組合員理事の役割となるでしょう。

 2009年に日本生活協同組合連合会が実施した「全国生協組合員意識調査」では、生協に対するイメージについて、「安心・安全」と答える人が圧倒的に多いなかで20代だけは「便利さ」がトップでした。重いものを届けてくれる「便利さ」を重視する傾向がこの頃から見え始めています。また、「生協のオリジナル商品として何を優先すべきか」という質問では、20代・30代は「低価格」「便利さ」に集中、年代が高くなると「健康」が優先されています。若い世代の組合員の声は生協になかなか届かず、総代やベテラン組合員には見えない実情ですが、組合員理事はその声にそのまま応じるのではなく、「プロ」として受け止めるべきです。

「教育」を不変の原則に

 1844年、生協の原点と言われるイギリスのロッチデールの先駆者たちは、「民主主義」「加入脱退の自由」「出資金に対する利子の制限」「市価での現金販売と利用高に応じた割り戻し」「純良な品質、正確な計量」「教育の重視」といった方針で組合を運営し、これはのちにロッチデール原則と呼ばれるようになります。先駆者たちは、イギリス労働者の実情から考えて、商品を安く売るのではなく、あえて市価で販売、剰余を後からまとめて割り戻しするというやり方を採用しました。こうすることで、組合員が無駄遣いせずに貯蓄し、生活を改善できると考えたのです。また、「純良な品質、正確な計量の原則」とは、本物を一切不正しないで売るという原則ですが、それを理解するには「教育」が必要です。彼らは利益の2.5%を教育費に充てることを義務づけ、その資金で店舗には必ず図書室を併設することを定めました。生協において「教育」は今も重要なものとして義務づけられています。

コロナ禍で何をすべきか

 コロナ感染拡大で無店舗事業は大幅に注文が増え、組合員数も増加しています。しかしこれは、多くの消費者が生協の意義を再確認したことのあらわれだというより、インターネット注文で食品を個配してくれるという生協の仕組みが再評価されただけではないでしょうか。コロナ禍の時代に日本の生協は何をすべきかを考えることは、組合員理事と役職員に課せられた大切な課題です。

Table Vol.431(2021年1月)より
一部修正・加筆