Table(タブル)はコープ自然派の情報メディアです。

くらしと社会

国民投票とメディア

2019年5月20日(月)、コープ自然派・憲法連絡会は著述家・本間龍さんを講師に「知らないと大変!国民投票って何?」を開催、今回はメディアの視点から国民投票について考えました。

書籍執筆に加えて全国各地で講演活動を行う本間龍さん。広告業界に精通していることからメディアと国民投票の関係について語っていただきました。主な著書に「メディアに操作される憲法改正国民投票」(岩波ブックレット)などがあります。
司会はコープ自然派奈良・上市常任理事。コープ自然派憲法連絡会は2018年9月に発足し、関西4生協の担当理事が取り組みの情報交換をしています。

国民投票って何?

 国民投票とは、国民(有権者)一人ひとりが投票することによって主権者としての意思を政治に直接反映させる制度。諸外国ではさまざまな議題について国民投票が行われていますが、日本では憲法改正のための手続きとして、2007年に国民投票法が成立し(正式名称は「日本国憲法の改正手続きに関する法律」)、2010年に施行されました。憲法96条では、憲法改正は衆参両議院で議員総数の3分の2以上の賛成で発議され、国民投票で過半数の賛成があれば憲法改正が成立すると明記されています。

 国民投票法の特徴として、本間さんは以下の4点を挙げます。①極めて自由度が高いこと。公職選挙法のような規定がなく、戸別訪問も24時間可能で使用資金にも上限がありません。②投票運動期間が長いこと。通常の選挙運動は長くても2週間程度ですが、国民投票は60日〜180日間です。③寄付金に上限がなく、届け出義務もないこと。寄付は自由で海外からの寄付も可能です。金額の上限もなく、投票後の金額公表の義務もありません。④広告規制がほぼ存在しないこと。テレビCMのみ投票日2週間前から禁止ですが、それ以外にはまったく規制がありません。

広告に依存するメディア

 通常の選挙では参議院全国区を除いて候補者を選びます。しかし、国民投票では憲法を変えるか変えないかの意思表明で、有権者は賛成か反対かを判断しなければなりません。そこで、メディアと広報・宣伝活動が大きな役割を占めることになります。

 日本でメディアを支配できるのは巨大広告代理店の電通と博報堂のみ。なかでも電通の売り上げは日本の情報・サービス業界ではダントツで、広告業界におけるシェアは約4割、テレビCMにおけるシェアは35%です。さらに、オリンピック、ワールドカップ、万博、国際陸上・水泳などさまざまなスポーツ大会を企画・運営し、2020年に開催される東京五輪も電通が一手に企画・運営を引き受けることになっています。また、戦後一貫して自民党の広告・宣伝にも関わってきました。

 一方、メディアの広告依存度は高く、新聞は全収入の3〜4割、雑誌は6〜7割、テレビ・ラジオは7割以上だと言われ、「巨額の広告費をもらったメディアは広告主に忖度するようになり、世論形成にも甚大な影響を与えます」と本間さん。ワイドショーなどでの取り上げ方が不公平になったり、討論番組でも印象操作され、テレビ局はスポットCMが多い方に便宜をはかり、雑誌は広告掲載がある号では批判記事を書けないという状況になるということです。

圧倒的に有利な改憲派

 国民投票を実施する際に改憲派が圧倒的に有利なのは、改憲派の中心が政権与党であること、巨額の資金を調達できることなどを本間さんは挙げます。政権与党であれば国会日程を決定でき、スケジュールを握ることで先手を打つことができます。また、巨額の政党助成金を行使できます。改憲派には日本会議や神社本庁など豊富な資金を持つ団体や経団連企業などからの集金も可能です。

 自民党は自衛隊の存在を明記した憲法9条改正案を提案しています。この自民党改正案への賛否を問う調査(2018年5月3日毎日新聞)では、賛成27%、反対31%、わからない29%、無回答13%でした。そこで、広告の対象とされるのは「わからない」「無回答」の人たちです。改憲派が仕掛けるイメージ戦略のキーワードは「新しい」「改革」「変革」「躍動的」「若々しい」「前身」「未来構造的」など。「新時代の幕開け」として制作した自民党のテレビCMは、10代の若者たちと安倍首相が登場し、個性や自由の尊重を謳った映像です。

 「改憲派は負けたら政権交代の危険性があり、二度と改憲できないので強い覚悟で臨んでいます。メディアでもリアルでも改憲派が護憲派を圧倒しているのが現状です」と本間さん。そして、改憲派の強力なプロパガンダに対抗するには、護憲派は一刻も早くメディア・広告戦略の構築を始めること、そのための資金計画に着手することだと本間さんは話します。

テレビCMの全面規制を

 一方、このような不公平な状態を改善するためには、総広告費の上限設定、テレビCM規制、寄付金の上限設置、報告義務の設定などが考えられます。なかでもテレビスポットCM規制が必要だと本間さん。日本ではテレビの信頼度は全世代で高く、全世代平均でネットの倍の視聴時間となっています。

 そこで、2017年7月10日、本間さんも参加する「国民投票のルール改善を求める会」は衆参憲法委員会長と民放連に要望書を提出(その後、衆議院解散で振り出しに戻る)。2018年8月29日、「国民投票運動としてのテレビCMに関して公平なルールを求める議員連盟」発足、2018年10月12日、超党派議連と民放連との意見交換会が実施されました。そして、2018年12月20日、民放連は意見表明CMの自主規制を発表。意見表明CMとは個人または団体、企業が意見を表明する内容のCMです。また、期日前投票が始まる2週間前から、投票を呼びかけるテレビでのスポットCMが禁止されました。現在、衆議院憲法審査会幹事会で野党側は全期間でテレビCM規制を求めていますが、合意にはいたっていません(6月13日現在)。「2020年度の改憲発議は難しくても改憲勢力が存在する限り、いつかは国民投票を行うことになります。そのためにもCM規制など改憲法案の是正に努めるべきで、それには多くの国民の後押しが必要です」と本間さんは訴えました。

緊急事態条項について

 自民党は2012年に「日本国憲法改正草案」を提言。その中で「緊急事態条項」創設を提案しました。これは前年の東日本大震災における災害対応を教訓として盛り込んだとされています。

 「緊急事態条項」とは、国家緊急権を憲法に創設する条項で、大災害や武力攻撃などによって国家の秩序などが脅かされる状況に陥った場合、政府などの一部機関に大幅な権限を与え、非常措置をとることを定めた規定です。

 草案では大きく分けて3つのケースを想定しています。(1)外部からの武力攻撃(2)内乱等の社会秩序の混乱(3)大規模な自然災害です。これに対して、緊急事態の規定が曖昧であること、緊急事態の宣言・解除は国会の承認は必要なく閣議決定だけで行い、国民の知らない間に発動できること、期間が無制限で戦争にも利用できることなどが多くの憲法学者たちから指摘されています。創設の目的として「東日本大震災のような大災害のときに、政府が迅速に動けるようにする」ということですが、「災害対策基本法」や「災害救助法」のもとで都道府県知事や市町村長の判断でほとんど対応できると憲法学者たちは指摘。さらに、敵が攻めてきたり内乱が起きた場合には「自衛隊法」や「警察法」があるので、あえて「緊急事態条項」を憲法に定める必要はないとも指摘されています。

Table Vol.394(2019年6月)

アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  1. 1
  2. 2
  3. 3

アーカイブ

関連記事

PAGE TOP