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くらしと社会

オーガニック給食HOW TO講演会

コープ自然派では「学校給食に有機農産物を!」という取り組みがすすめられています。2022年3月5日(土)、コープ自然派給食連絡会主催により、元今治市職員・安井孝さんを講師に今治市の先進的な取り組みを学びました。

※イメージ

食と農の「条例」制定

 今治市は愛媛県北東部に位置し、温暖な気候に恵まれた商工業のまち。今治市では1983年から今治産の食材や有機農産物を学校給食に取り入れています。当初は青果協同組合に依頼して、今治産、隣町産、愛媛県産、四国産というようにできる限り今治市に近い食材を購入していました。

 学校給食の地産地消が始まって5年目の1988年、「食糧の安全性と安定供給体制を確立する都市宣言」が市議会の全会一致で採択されました。輸入農産物の残留農薬が社会問題化し、レモンに使われる防カビ剤OPP(オルトフェニルフェノール)の発がん性が連日のように報道されていた時でした。

 2005年1月、12市町村が合併し「都市宣言」は白紙に戻りましたが、農業団体やPTAなどが要望し、新たな項目を加えた「都市宣言」が採択されました。さらに、「都市宣言」を実行するために「今治市食と農の町づくり条例」を制定。「条例」には地産地消・食育・有機農業の推進を柱として地域の農林水産業の振興を図り、まちづくりを進めていこうという期待が込められています。

ローカルマーケット創出

 今治市では1999年4月から100%地元産の特別栽培米を使用した学校給食を実現。特別栽培とは各都道府県で定められた標準的な栽培に比べて農薬と化学肥料を50%以上減らした栽培方法です。地元産ならでは、精米し立て・炊き立てごはんは好評で残食は半減、保護者からもほしいという要望が寄せられるなど今治産米のニーズが高まりました。

 「お米がうまくいったから次はパンだね」と市長。しかし、今治市は裸麦の産地でパン用小麦は1粒も栽培されていませんでした。そこで、岩手県や北海道から種を得て栽培しましたが、うまくいかず頭を抱えていると、九州農業試験場が温暖地向けの品種を開発したというニュースが入り、その種で2000年秋に2haで栽培、翌年9月に給食用として1人当たり4.3回分のパンをつくりました。今治市は週5日のうち、3日は米飯、2日がパンなので、4.3回分とは2週間分です。それまでのアメリカ産小麦に比べてパサつき感はあったものの評判が良かったので翌年は3ha、その翌年は7haというように作付面積を広げました。2004年度に10.5haで9ヵ月分になりましたが、2005年度は11haで6ヵ月分に減少。市町村合併したためですが、これを受けて農家が立ち上がり2007年度には17ha、2013年度には23haで10ヵ月分になりました。昨年は学校給食の93%のパンが地元産小麦を使用しています。

 「アメリカ産から今治産に切り替えることで、今治市に小麦のローカルマーケットが誕生しました。アメリカに支払っていたパン代は今治市の農家に入るという地域循環が生まれたのです」と安井さん。JA立花がこの小麦を主力農産物に位置づけたことで2021年度には32ha、101トン収穫され、給食のパンはもちろん市販のパンやパスタ料理などにも使用、スーパーでは今治産小麦が販売されています。

 次は豆腐ということで、アメリカ産非遺伝子組み換え大豆を原料としていたのを2002年度から今治産大豆「サチユタカ」に変更。ただし、製造ロットが60丁単位で小規模の調理場では発注できないため、栄養士が協力して月1回「豆腐の日」を設定、メニューが違っても全調理場が一斉に豆腐を使うよう配慮しました。アメリカ産非遺伝子組み換え大豆と今治産大豆の価格差は今治市が補填しています。

講師の安井孝さんにはたくさんの質問が寄せられました。

HOW TO オーガニック

 今治市ではすべての調理場に栄養士を配置、もっとも大きなセンターは3000食、もっとも小さな調理場は40食で、調理場ごとにメニューが違うので同じ食材を1万3000食分集める必要がありません。

 学校給食に有機農産物を導入するには、まず、調理場のデータを知らなければなりません。調理場の前年度の月別・品目別の使用量を数値で把握し、その数値をもとに有機農産物の作付け計画を立てます。ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、キャベツ、ダイコンは年中使うので、地産地消あるいは有機率を高めるにはこれらから取り組むと一気に数値が上がります。有機で栽培しやすいものとしにくいもの、保存しやすいものとしにくいものがあり、保存のしやすさは導入を大きく左右します。これらを念頭に市町村の農業担当者や給食担当者、栄養士、PTA、JAなどで有機農業推進チームのようなものをつくります。同時に食材生産チームも必要で両者が意見交換しながら進めます。

 収穫期が近づくと生産チームはどれくらい収穫されるか栄養士に伝え、栄養士はそれをもとに翌月の献立を立て、日々の納入計画を生産チームに通知します。それを受け取った生産チームは生産者の割り振りをします。そして、うまくいけば品目や月数を増やし、いかない場合は何が問題か検討します。

地産地消を食育で後押し

 今治市が行ってきた地産地消の学校給食にはどのような効果があるのだろうかと、2003年に安井さんたちは今治市在住の26歳全員にアンケート調査を実施しました。調査対象は、立花地域で有機農産物を使った学校給食を食べたグループ、立花地区以外の今治市内の地元産給食を食べたグループ、今治市以外の学校給食を食べたグループ。この調査では今治市の学校給食を食べた子どもたちのうち4~5人に1人は大人になってからも今治産を選んでいることがわかりました。「しかし、この数字は少し寂しい。今治市の学校給食を食べた子が大人になったとき、半数以上が地元産を求めるようになってほしい」と安井さんたちは食育と地産地消が後押しし合うしくみをつくらなければならないと考えます。食育を行うための食材は「食育力をもった食材」「食育力のある献立」でなければならないというのが安井さんの持論。「食育力のある食材」とは地域で採れた旬の食材や安全な有機農産物、「食育力のある献立」とは和食、地域の伝統や郷土料理で食材は地産地消によるものです。

市ぐるみで行う食農教育

 2004年、安井さんは長崎大学・中村修准教授と意気投合し、全国から20人が今治市に集まって「食育プログラムを勝手に作ってしまおう研究会」を開催、小学校5年生向け、16回の食育カリキュラム骨子案をまとめました。今治市ではこのカリキュラムに基づく食育モデル授業を2004年秋に行いました。

 プログラム実施後、子どもたちの意識に変化が起きました。好きなもの、食べたいものを食べればよいという意識から健康を考えたものを食べたいという意識に変化。また、体に良い食とは何かを見分ける技、買いものの技、排便を観察する技、調理の技など具体的手法を獲得。しかも、この効果は家庭での実践を通して家族にも広がりました。そして、授業後に描いた10年後の夕食メニューは、ごはん、みそ汁、おひたし、焼き魚といった和食中心メニューでした。その後、教師のためのDVD制作、就学前の子どもたちの料理教室、学校農園の充実、生産者との交流も図られています。

 このような取り組みは地域でも広がり、スーパーのチラシに地産地消が強調されたり、今治産野菜コーナーが設置されたり、直売所も今治産が中心です。また、市民農園は農薬・化学肥料を一切使わず、安全な食べものをつくる大変さを体験。1999年度から有機農業実践講座を開設し、修了生は200名を超えています。また、土壌分析キットを市が貸し出したり、有機JAS認証を受けるための資金を市が補助しています。

 「ものの見方はあちこちから見ることが大切、いろんな障害が出てきますが、見方を変えたり、やり方を変えると別の結果が出る可能性があります。何かをやらない理由を並べるのではなく、どうやったらできるかを考えて行動すれば大きく動くのではないでしょうか」と安井さんは話しました。(参考書籍「地産地消と学校給食」安井孝著・コモンズ)

司会・進行を務めたコープ自然派しこく・野島理事。コープ自然派しこく・オリーブセンターとオンラインのハイブリッド開催でした。

Table Vol.463(2022年5月)より
一部修正

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