32年間ベルギーで「ヨーロッパ薬膳」を指導し、現在は奈良で「やまと薬膳」を伝えているオオニシ恭子さん。2025年6月11日、コープ自然派奈良では「放射能から体を守る食」をテーマに話を聞きました。

ヨーロッパでの32年
1981年からベルギーを拠点にヨーロッパ薬膳を普及指導してきたオオニシさん。ヨーロッパ薬膳では、玄米と植物性食品を中心に、身土不二(暮らす土地の旬のものを食べる)、一物全体(食材を丸ごと食べる)、陰陽調和(陰陽の食材をバランスよく食べる)を基本として、食材や調理法のバランスを考える食のメソッドを指導してきました。
1986年、渡欧から5年後にチェルノブイリ原発事故が起きます。「ベルギーとチェルノブイリは函館から鹿児島ほどの距離があるので遠い話だと思っていましたが、放射能を含んだ黒い雲はオランダ、ベルギー、そしてフランスにまで流れ、被害をもたらしました。周囲は大騒ぎになり、それまで放射能に対する知識の乏しかった私の生活も大きく変わりました」とオオニシさん。広島・長崎の経験を持つ日本人として、現地の人から「何を食べればよいか教えてほしい」との相談を受け、東日本大震災をきっかけに帰国するまでの32年間、さまざまな問いに応え続けました。
〝食の方程式〟の考案
どうすれば適切なアドバイスができるか試行錯誤の末、オオニシさんが考え出したのが〝食の方程式〟です。食材や体質を1~7のグループに分類し、合計が8になるよう食べ合わせを考える方法です。たとえば、冷え性で胃が弱い「1(極陰性)」の人には、「7(極陽性)」である塩・燻製・味噌漬けなどが合います。イライラしがちな「6(陽性)」のときは、「2(陰性)」の湯通し野菜や豆腐がよい、という具合です。陰陽を数値化したことで分かりやすいと多くの人に喜ばれました。

被ばくから身を守る食養
陰陽の視点からは、放射性物質は「極陰性」と考えます。そのため、塩・海藻・発酵食品・亜鉛・食物繊維といった「陽性」のものを積極的に摂るのがよいとされます。逆に、砂糖・水分過多・食品添加物・農薬は避けるのがよいそうです。また、よく噛んで腹八分目という食べ方も大切です。
長崎で被爆した医師・秋月辰一郎さんは「玄米とわかめの味噌汁を食べ、塩をしっかり摂り、砂糖は避ける食事」で病院のスタッフや周囲の人を原爆症から守ったそうです。また、9歳のときに広島で被爆した平賀佐和子さんは、玄米菜食によって健康を取り戻したといいます。放射性物質のセシウム、ストロンチウム、無機ヨウ素は、体に必要なカリウム、カルシウム、有機ヨウ素と化学的な性質が似ています。これらの栄養素を体にしっかり摂っておくことで、放射性物質の取り込みを抑えることができると考え、オオニシさんは、特にこれらの栄養素を多く含むわかめや昆布といった海藻をしっかり摂ることを勧めています。

自分の命を養うということ
原発の稼働や核燃料の再処理、2000回を超える核実験などにより、地球環境は広く汚染されてしまいました。もはや放射性物質を完全に避けて生きることはできません。それでもオオニシさんは、「食生活を整えることで健康は取り戻せる」と語ります。「自分の体が求めるものは本当においしいと感じます。命の源である水や土にもっと関心を持ち、体が本当に喜ぶ〝おいしさ〟を大切に、それぞれが自分の体をマネジメントしていきましょう」と結びました。の量が要るのかや、災害時に食べたくなる物を考えておくなど、日ごろからできることをイメージしておくのもいいですね」とアドバイスがありました。
Table Vol.517(2025年9月)