NPO法人気候ネットワーク主任研究員・山本元さん。気候ネットワークは、京都議定書誕生を機に発足し、エネルギー政策の提言や京都市内の全公立小学校で年間6000人の子どもたちに温暖化対策の授業を行っています。

現在、神戸市内では2基の石炭火力発電所が稼働していますが、さらに2基新設されようとしています。2019年6月7日(金)、コープ自然派兵庫はNPO法人気候ネットワーク・山本元さんを講師に石炭火力発電について学習しました。

「真実を知るためには、自ら情報を求め、立ち止まり、考えることが必要。このような学習会を今後も続けていきたいです」と司会を務めた石井理事。

温暖化による深刻な被害

 先日、2018年度の国内における自然災害(風水害)の保険金支払い額が過去最高の1.6兆円に達したと報じられました。この支払い額の大半が近畿地方を襲った台風21号によるものです。地球温暖化により台風は巨大化すると言われ、昨年の猛暑も地球温暖化の影響を受けていると科学者たちは指摘しています。世界の平均気温は約150年前の産業革命以前から1℃上昇していますが、1℃でも多くの被害が発生し始めています。そして、このままのペースで温室効果ガスを排出し続けると、今世紀末には4℃上昇すると予測されています。

 2016年、温暖化対策の新ルール「パリ協定」が発効しました。日本を含めた190ヵ国以上が参加して目標を「産業革命前からの平均気温の上昇を2℃未満に抑える(できれば1.5℃)」とし、そのためには実質排出ゼロ(温室効果ガスの人為的な排出と吸収をバランスさせること)を目ざす必要があるとしました。しかし、1.5℃の気温上昇でも食糧不足、河川の洪水、生態系への影響は深刻。また、各国が掲げている目標を達成したとしても、パリ協定の目標達成は困難で、今まで以上の削減努力を速やかに行わなければなりません。

立ち上がる子どもたち

 昨夏、スウェーデンでグレタ・トゥーンベリーさん(当時15歳)が国会議事堂前で温暖化対策の強化を求め、座り込み抗議を始めました。その行動が「未来のための金曜日」運動として世界中に広がり、共感した子どもたちが街に出て声をあげています。「大人たちは自分の子どもを何よりも愛していると言いながら、その目の前で、子どもたちの未来を奪っています」とグレタさんは国際会議でスピーチし、EU欧州委員会では「大人たちがつくった政治システムは競争がすべて、競争に勝つためには機会があればズルだってします。そんなことは終わらせないといけません」と地球温暖化対策に失敗し続けてきた大人たちを厳しく言及しています。

 科学者グループが行っている各国の温暖化対策評価によると、日本は60ヵ国中49位、G7(先進7ヵ国)の中では最下位で「かなり不十分」との評価を受けています。国連の児童の権利委員会は、子どもの権利保護の観点から気候政策と石炭火力政策の見直しを日本に勧告、石炭火力を推進する国として、国際的に厳しい批判を受けているということです。

石炭火力発電の問題点

 日本における温室効果ガス排出のほとんどは二酸化炭素で、その9割が化石燃料の燃焼から排出されています。部門別では、排出される二酸化炭素の約4割が発電によるもので、その燃料種として最大となるのが石炭です(石炭火力発電は天然ガス火力発電に比べて約2倍の二酸化炭素を排出)。しかし、福島第一原発事故後、石炭火力発電の規制緩和により、相次いで建設が計画され、2021年以降は石炭火力の新設が50基に達しています。その後、13基が中止となり、現在、13基が稼働中で24基が計画・建設中です。

 神戸では神戸製鋼が現在稼働中の2基の隣で、新たに2021年~2022年の稼働に向け2基を建設中。計画地は大気汚染公害があった地域で、3km圏内に教育施設や医療施設などが多数あり、住宅地からわずか400mと近接しています。神戸市・芦屋市で開催された住民の意見を聴く公聴会では、ほとんどの住民が反対を表明しました(賛成はたった1人)。これまで神戸製鋼は大気汚染物質の総排出量を問う住民からの質問に対して、適切な回答をせず、「大気汚染物質の排出量が低減される」と説明してきました。しかし、住民の意見提出期間が終了後、神戸市の審査会において、大気汚染物質の排出が増加する可能性があることを示すデータを提出。石炭火力発電は硫黄酸化物、窒素酸化物、ばいじん、PM2.5といった大気汚染物質の大排出源で、喘息などの呼吸器系疾患を抱える人たちに影響を与える恐れがあります。気候ネットワークとグリーンピース・ジャパンが行った共同調査によると、PM2.5の拡散は神戸をはじめ大阪、京都、奈良、さらに東へ流れ滋賀県にまで達すると予測されています。石炭火力発電所は、たとえ最新型であっても、大気汚染物質、温室効果ガス、水銀等を排出するということです。「省エネ技術や再生可能エネルギーという代替可能技術がすでにあるのに、あえて汚い石炭を選ぶことが理解できません」と山本さんは話します。

PM2.5の拡散予測図。気候ネットワークとグリンピース・ジャパンの共同調査によるシミュレーション。

気候変動訴訟の広がり

 地球温暖化対策を求めて国や企業を訴える動きが世界に広がっています。現在、25ヵ国、850件の裁判が確認されています。2013年にオランダで始まった環境NGOと市民900名が「オランダ政府の温暖化対策が不十分である」と訴えた裁判では環境NGOと市民側が勝訴するという画期的な判決が下され、世界に影響を与えました。日本では石炭火力発電所の建設・稼働による、地球温暖化、大気汚染による健康への影響を訴える訴訟があり、「仙台パワーステーション差止訴訟(2017年)」「神戸製鋼石炭火力差止訴訟(2018年)民事/行政」「横須賀石炭火力発電訴訟(2019年)」の3つの地域で4件の裁判が起こされています。「神戸製鋼石炭火力差止訴訟」は企業(関西電力、神戸製鋼、コベルコP2)と建設を認めた国(経産省)を相手取り、1つの計画をめぐり、民事と行政の2つの訴訟で争われています。民事訴訟の第4回期日は8月20日、第5回期日10月15日に神戸地方裁判所で開催。裁判終了後には、弁護士からの報告や、意見交換会、勉強会を予定。また、裁判の傍聴に行けなくても、原告を応援することができるようにサポーターも募集されています(問い合わせ先「神戸の石炭火力発電を考える会」kobesekitan@gmail.com)。子どもたちのために大気汚染・地球温暖化のない未来をつくりましょう。

学習会後に行われた懇親会では、「どうすれば石炭火力発電の危険性を伝えられるか」「子どもが喘息で、どこに行けば安全なの?」「神戸製鋼の見学会に子どもが参加し、『石炭火力発電めっちゃいいやん』と話しています」など子育て世代から多くの悩みが出されました。

※2019年8月20日(火)、神戸地裁で行われた「神戸製鋼・関西電力石炭火力発電所建設・稼働差止訴訟」裁判を親子で傍聴、終了後に担当弁護士から訴訟の内容や石炭火力発電所についてお話を聴きました。この内容については、後日掲載予定です。

Table Vol.399(2019年9月)