2018年6月19日(火)、コープ自然派兵庫では弁護士・楾(はんどう)大樹さん講演会を開催。憲法とは何か、憲法はなぜ大切なのか、そして今、日本で何が起きているのかなどについてお話をうかがいました。
ライオンを檻に入れる
「5年程前から憲法違反ではないかという問題が次々起きていますが、それに気づいていない人が多く、そもそも憲法とは何なのかを知らない人たちがたくさんおられるのではないでしょうか」と楾大樹さん。そして、参加者にクイズを出します。憲法を守らなければならないのは、①国民みんな、②国民みんなではないのうち正しいと思うものを選択。このクイズでは参加者の回答はほぼ同数でした。そこで、楾さんは日本国憲法99条を読みあげます。「天皇又は摂政及び法務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」。つまり、憲法を守らなければならないのは政治家や公務員で国民みんなではないのです。
楾さんは憲法入門書『檻の中のライオン』を2016年に出版、権力=ライオン、憲法=檻に置き換えて憲法について語っています。私たちはみんな同じ人間です。みんな同じ人間だけどみんな違う人間なので、それぞれ異なる個性を生かして人間らしく生きていくにはルールを決めたり、公共サービスを誰かにやってもらうことが必要です。そこで、強くて頼りになりそうなライオンに任せることにしました。しかし、ライオンは暴れ出したら誰にも止められない恐ろしい一面を持っています。そこで、暴れ出さないようライオンには檻に入ってもらう約束をします。檻の働きをするのが「憲法」、檻をつくるのも修理するのも、どのライオンを檻に入れるかを決めるのも私たちです。
檻によって守られるもの
ここで楾さんは檻=憲法によってどのようなことが守られているのかを話します。私たちはみんな幸せを追い求める権利があり、「幸福追求権」(13条)として守られています。また、民主主義において「表現の自由」(21条)はとても大切です。私たちはライオンの行為はマスコミを通して知ることができます。しかし、ライオンは檻の中を見られるのが嫌だと権力を使ってカーテンで隠しがちです。そこで、「知る権利」(21条)が保障されています。その他、「思想良心の自由」(19条)、「信教の自由」(20条)、「居住移転及び職業選択の自由」(22条)、「学問の自由」(23条)、「婚姻の自由」(24条)などが守られています。
一人ひとりが人間らしく生きるためにはやはり戦争してはいけません。9条2項には「戦力を持たない」と書いています。では自衛隊はどうなのか。自衛隊ができたのは1954年。他国から攻撃を受けた際には攻撃を振り払うことは認められるという個別的自衛権を認める解釈が歴代政府の考え方です。
檻が壊されないために
ライオンか檻を壊さないよう檻には性格の違う3頭のライオンを入れ、互いに監視させます。立法・司法・行政と3権分立しているのは権力が集中しないよう誰もが権力を好き勝手に使えないようにするためです。そして、憲法41条では、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定めています。
また、檻は硬くなければライオンが壊してしまいます。そこで、憲法を簡単に変えられないよう96条には、「この憲法の改正には、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案しての承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする」と定めています。
今、何が起きているか
「ともに人間らしく生きていきたい、お互いを大事にしようというのが憲法の出発点ですが、このような考え方をやめようという動きがあります」と楾さん。2012年、自民党は憲法改正草案を発表。また、「憲法改正には各議院の総数の過半数の賛成」に変えようという動きもありました。そして、安倍政権は憲法を改正しないまま「集団的自衛権」を閣議決定しました。全国すべての弁護士会が「集団的自衛権」は憲法違反だと批判。「安保法制」「共謀罪」「森友・加計問題」は立憲主義を壊すという点でつながっていると楾さんは指摘します。
また、53条には、「いずれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」とありますが、最近守られていないと楾さん。2015年9月19日、「安保法制」が成立、野党は臨時国会召集を要求しましたが開かれず、2017年6月15日には「共謀罪」が成立、その直後に国会を閉幕し、野党が臨時国会召集を要求しましたが、なかなか開かれませんでした。そして、9月下旬にようやく臨時国会が開かれたその瞬間に解散を宣言し、総選挙が行われました。「森友・加計問題」の公文書改ざんが知らされたのは選挙の後でした。「国会で審議しないで今は内閣に立法権があるようです。裁判所も必ずしも当てになりません。そこで、しっかりしなければならないのは主権者である私たちです」と楾さん。12条には「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と書かれています。
「これまでは檻について考えなくても生活できましたが、それは檻が安全だったからです。しかし今、ライオンが檻を壊そうとしています。まず、何が起きているかを知ること、自分で考えること。そして、おかしいと思ったら行動することです。今日、学んだことをご家族など周りの方たちにぜひ話してください」と楾さんは訴えました。
Table Vol.373(2018年8月)