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くらしと社会

私たちが生きたい社会をつくろう

2021年9月5日(日)、コープ自然派憲法連絡会は一般社団法人「NO YOUTH NO JAPAN」代表・能條桃子さんを招き、投票率向上や政治・社会に関心を高める活動について聴きました。

U30世代に向けた政治・社会の教科書「YOUTHQUAKE( ユースクエイク)」(NO YOUTH NO JAPAN編)が近日発行されます。

U30の声を政治に届ける

 「NO YOUTH NO JAPAN」は大学生を中心とした団体で、U30(30歳以下)世代の政治参加をもっと身近なものにするために、2019年7月の参議院議員選挙時に活動を始めました。主な活動はInstagramメディアの運営、イベント、キャンペーンのプロデュースなどで、Instagramフォロワー数は6.7万人を超えています。

 代表の能條桃子さんは大学院生。大学3年生のときのデンマーク留学をきっかけに「NO YOUTH NO JAPAN」を立ち上げました。「大学入学時から社会ってこのままだったらまずい気がすると思っていましたが、自分がやっても変えられる気がしなかったので行動に移せなかった」と能條さん。しかし、大学3年生になると周りは就職活動一色になり、このまま企業に就職していいのかとデンマークのフォルケホイスコーレという学校に留学します。

 2019年3月から10月の留学期間中にデンマークでは国政選挙とEU議会議員選挙が行われ、能條さんは日本との違いに驚きました。そこで、デンマークで知り合った日本の友人たち4人でブログを立ち上げデンマークの様子を発信、そのメンバーが「NO YOUTH NO JAPAN」設立メンバーとなっています。

 デンマークでは投票率が高く、2019年にはどの世代も80%を超えています。そして、選挙はワクワクするイベントで、フォルケホイスコーレでは、開票日にはみんなで食事しながら速報をプロジェクターで見たり、候補者の選挙事務所を訪ねます。

 国政選挙で選ばれたのは41歳の女性首相。デンマークで史上最年少の首相ですが、翌日の朝刊では政策が淡々と紹介され、女性であることを特に強調する報道はなかったそうです。逆に、閣僚20人のうち女性7人は少ない、なぜ10人にならなかったのかと書かれていました。閣僚の年代は30代9人、40代9人。50代2人、平均41.8歳でした。

声を上げれば変えられる

 能條さんがデンマークの友人たちと話していて感じたのは、声を上げれば政治や社会は変えられると思っていること。例えば、デンマークでは、医療費は無料ですが、メンタルヘルスは対象外でした。若い世代にとってはメンタルヘルスの方が深刻なので、無料になるようキャンペーン活動し、21歳以下のメンタルヘルス無料を勝ち取りました。「このような成功体験がデンマークの人たちのモチベーションにつながっているように思います。日本では、多くの人たちが変わらない気がするけどやらないよりましと思いながら活動しているのではないでしょうか」と能條さんは話します。

 2019年のデンマークの国政選挙で「気候変動」が最大争点になったことも衝撃でした。隣国スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリさんの影響もありますが、2015年の国政選挙で誕生した環境系政党が若者たちの多くの票を獲得。そこで、どの政党も「気候変動」をテーマとして掲げました。結果、デンマークの気候変動政策を前に進めることになります。

民主主義の担い手をつくる

 デンマークでは民主主義の担い手を育てる土壌づくりも積極的です。フォルケホイスコーレは全寮制で試験も成績表もカリキュラムもなく、資格が取れるわけでもありません。18歳以上なら誰でも入学でき、ここでは生き方などについて考えます。デンマークでは100年以上前からこのような学校が全国に約70校あり、人口の4分の1以上の人たちが生涯に一度は通うということです。

 また、政党青年部も政治への関心を育てる機能を担っています。選挙の際は政党の候補者を応援しますが、青年部の若者たちが政党と正反対のことを主張することもあり、活発な議論の場となっています。デンマークでEU議会議員になった22歳の女性は14歳から政党青年部で活動していました。日本でも政党の学生部などがありますが、若者のための活動というより、選挙を支えるスタッフになりがちです。

行動に向けての情報発信

 「NO YOUTH NO JAPAN」は「参加型デモクラシーをカルチャーに」をビジョンとし、「U30世代が政治や社会を知って、スタンスを持って、行動する入り口をつくる」をミッションとしています。

 18歳から29歳は人口も少ない上に被選挙権がなく、「せめて投票しなければ置き去りにされる」とターゲットをU30に限定。行動するには意見を持ち、意見を持つには知ることが必要だとまずInstagramメディアを通じて「政治を語る」きっかけをつくりました。そして、政策や社会課題について解説。候補者へのアンケート調査結果や「なぜ政治家になったのか」「今の日本の課題は何だと思うか」など国会議員インタビューを掲載し、若い世代がどのようにアプローチすればよいのかも発信しています。 

 能條さん自身も運動の当事者になることが必要だと「ジェンダー」と「気候変動」問題に取り組み、今年2月、オリンピック組織委員会・森前会長の女性蔑視発現に対して署名活動を行いました。「気候変動」については、日本がベトナムに石炭火力発電所を輸出していることに対して、融資銀行や日本政府に質問状を提出、CO2削減に向けたスタンディングを行いました。

投票率アップのために

 投票率アップのアクションとして、昨年の三田市議選ではパンフレットを制作して市内の全高校に配布。Instagramやパンフレットでわかりやすい情報を提供。千葉県知事選でInstagramのほか、投票を呼びかけるポスターを県内の飲食店などに掲示、U30のための資料づくりにも取り組みました。神戸市では今年3回投票の機会があるので、兵庫県選挙管理委員会とともに、集めると一つながりになる3種のステッカーを制作、全投票所に計35万枚配布しました。

 「NO YOUTH NO JAPAN」が投票率を上げるアブローチとして大切にしていることは、
① U30世代によるU30世代のための発信。自分と近い人が呼びかけているからこそ、自分ゴトになる。同世代に向けた発信だからこそ、U30世代が求めていること、好きなこと、嫌いなことがわかる。
② 社会課題への意識を投票につなげる。政局への意識でなく、政策への興味を投票の動機として提供。そのために必要な情報などを集めてわかりやすいグラフィックで伝える。
③ 「シェアされること」が何より大事、どんな有名人の言葉や呼びかけより、いつも話している友だちの「投票に行ってるよ」の言葉の方が感情を動かし、行動につながる。だからこそ、すでに投票に行っているU30世代を仲間にすることが大事。そのためのツールをつくって提供していく(イケてるデザインや内容・ワクワクすることが重要)。

私たちが生きたい社会を

  この20年間で社会保険料や国民健康保険料は上昇し、個人所得は1994年をピークに減少し続けています。貸与を含め奨学金を受けているのは20代の約半数。また、ジェンダーやマイノリティへの若い世代の価値観に政治が追いついていない状況です。「子育てしやすい社会」とも言えません。

 高校生や大学生に投票に行かない理由を聞くと、「政治に詳しい人が決めたらいい」「政治を知らない自分が投票するのは申し訳ない」などという声を聞きます。「でも、政治って正解はないし、すべて知らなくてもいい。気になるトピックや生活のモヤモヤを政治につなげることが大事」と能條さん。また、政治を語るときには、「上から目線で押し付けないこと」も能條さんは強調します。

 Instagramフォロアー数を衆議院選までにU30人口の1%にすることを目ざしています。その人たちが3人に伝えて3%になれば社会は変えられると能條さん。2020年度に行われた知事選では10都道府県のうち6都道府県で18歳投票率は全体より高かったことにも期待を寄せます。「私たちが生きたい社会をつくっているのは私たち、と言えることを原点に頑張ります」と能條さんは話します。

質疑応答では、持続可能な活動、他団体・他世代との協働、投票率アップの方法、ジェンダー問題などについて活発な意見交換が行われました。高校生からの質問も。

Table Vol.450(2021年10月)より
一部修正・加筆

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