令和の米騒動や水の安全、食料自給率の低さなど、食にかかわる不安が漫然とたちこめています。2025年3月20日コープ自然派おおさかは元農水省官僚で東京大学大学院特任教授の鈴木宣弘さんに、日本の食料危機の本質とそれを乗り切る道筋について聞きました。

米不足の本当の理由
昨年来の米不足の原因は、猛暑による生産量の減少やインバウンド需要の高まりなどのためといわれていますが、本当の理由は、作り続けられないほど買いたたき、減反により生産を縮小させてきた国の政策にあります。30年以上、農家は生産費を下回る買取価格に耐えながら米を作ってきました。 60kgあたり1万5千円の生産費に対し、買取価格が9千円。それが今年2万円まで上昇しましたが、これはようやく30年前の価格に戻ったにすぎません。
徹底的に破壊された日本の農と食
その本質には、戦後アメリカによる占領政策からつながる日本の農と食の破壊があります。戦後すぐには、アメリカの余剰農産物の受け入れ先として食生活改変政策がとられ、「米を食べるとバカになる」と世論を喚起しパン・ミルク中心の学校給食が始まります。その後、高度経済成長の時代には、自動車の利益のために農産物の関税が撤廃され、輸入が増え、農業は縮小し、自給率低下の一途をたどりました。現在に至っては、世界中で安全性が懸念されている農薬や遺伝子組み換え食品を日本だけが規制緩和し、受け入れ続けています。
世界規模の食料争奪戦
コロナ禍とウクライナ紛争、そして異常気象や中国の爆買いなどで、世界の食料生産や物流が滞るようになり、穀物や原油、化学肥料などあらゆるものの価格が高騰しました。日本の農業の99.4%は慣行栽培で化学肥料は輸入に頼っています。食料やその生産資材の調達難が深刻になっており、このままでは食料輸入だけではなく、国内での食料生産も難しい状況です。
世界で最初に飢えるのは日本
鈴木さんの試算によると、飼料や肥料、種の自給率も考慮に入れると日本の実質的な食料自給率は9%程度。海外からの食料輸入が滞りつつあるなか、世界で最初に飢えるのは日本であり、日本で最初に飢えるのは自給率が1 %未満の東京や大阪です。世界で核戦争が起こり物流が停滞した場合、日本では人口の6割にあたる7200万人が餓死するとの試算もあります。
米は高くない
「米の価格が高騰しているというけれど、ご飯は決して高くない」と鈴木さんは言います。米が 5kg4千円として、ごはん1膳64円。貿易自由化で安い農産物を受け入れたのは政策の責任でも、安い輸入農産物を選んで買ったのは消費者。「農業問題は消費者問題だと認識する必要があります」と鈴木さん。そのことを反省したうえで、「生産者に必要な支払額と消費者が払える額とのギャップを埋めるのは政府の役割。政府に対して、選挙で民意を示すことも大事です」。

消費者として、生協組合員として
食の安全や食料安全保障を取り戻すために、鈴木さんは、「日々の買い物の中で、安くても危ない食品を避け、数十円だけ高い地元の安心・安全な食品を買うこと、それだけでいいのです。そして、学校給食で子どもたちにリスクのある食品が提供されないようにしましょう。その結果、グローバル企業の思惑を排除することができます」と提案。安心・安全な食品を食べながら、自然環境や健康を大切にする生産者を応援する小さな選択を積み重ねることが、日本の農と食を守ることにつながります。「生協を通して購入すれば安全でおいしい食べものを必ず買えるという安心感は価格以上のもの。これぞ、生産者と消費者をつなぐ信頼の神髄ではないでしょうか」と鈴木さんは締めくくりました。

Table Vol.515(2025年7月)