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食と農と環境

パタゴニアの挑戦!アウトドア企業が、なぜいま食や農業に取り組むのか?

2024年6月22日、コープ自然派奈良では総代会第2部としてパタゴニアプロビジョンズの講演会を開催。ディレクターの近藤勝宏さんから、アウトドア企業がなぜ食や農業に取り組んでいるのか、そのわけを聞きました。

近藤さん自身も、サーフィンやスノーボードを楽しむアウトドア愛好家として、より環境負荷の少ないライフスタイルを探求しています。(C)2024Patagonia, Inc.

死んだ地球からはビジネスは生まれない

 パタゴニアは1973年米国で創業。創業者のイヴォン・シュイナードは、「三度の飯よりアウトドアが好き」というような人物で、必要な道具を自分たちで作り始めたのが創業のきっかけでした。世界経済が右肩上がりのなかでビジネスは好調でしたが、彼らが世界中を旅する中で目にしたのは変わり果てていく地球の姿でした。森林伐採で森が消え、気候変動の影響で氷が解け、川の上流にダムができた影響でサーフィンポイントが失われる……そこから、自分たちのビジネスが環境に与えている影響について、真剣に考え始めたのです。環境保護活動家デビッド・ブラウアーの「死んだ地球からはビジネスは生まれない」ということばに共感し、自分たちのビジネスが環境に与える悪影響を最小限に抑える努力がはじまりました。コットン製品をすべてオーガニックコットンに自分たちの製品ビジネスが与える環境インパクトを再評価した結果、たどり着いたのがコットンでした。コットンの栽培現場を訪れると、農家は大量の農薬から身を守るために防毒マスクをつけて作業をしており、汚染された土地は収穫後3年間は何も育たないような荒れ地に。こんなことを続けていてはダメだ……当時、コットン製品はパタゴニアの売上の約25%を占めており、サプライチェーン全体を見直すことは大きな決断でしたが、18ヵ月かけてすべてをオーガニックコットンに転換しました。

地球を救うためにビジネスを営む

 それから20年以上が経ち、パタゴニアは2018年にミッションステートメントを「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」に改訂しました。ビジネスを、地球を守る「手段」から「目的」に置き直したのです。

 現在の環境破壊の原因のひとつは、間違いなく行き過ぎた資本主義のあり方でしょう。昨年84歳になったイヴォン・シュイナードは、自分が亡くなったあともパタゴニアが同じ意思を引き継いでビジネスを続けていけるように、受け取った富を地球に返していく仕組みをつくりました。2つの非営利団体を設立し、すべての株を譲渡したのです。翌年以降のパタゴニアの運営に必要な資金以外の剰余はすべてこの2団体に配当され、「地球を唯一の株主」として地球を守るために使われます。

 そして、環境破壊の原因のもうひとつは、食や農業の問題です。新しいジャケットは5年か10年に一度しか買わない人も、1 日に3度の食事はします。本気で地球を守りたいなら、食の問題解決に取り組まなければならないと考え、食品事業「パタゴニアプロビジョンズ」をスタートしました。

リジェネラティブ・オーガニック

 パタゴニア プロビジョンズが扱っている代表的な食品は、カーンザという多年草の穀物を使ったビール。多年草なので毎年土を耕す必要がなく、土壌の生態系を守ることができます。一般的に土壌は、大気の2倍、植生の3倍炭素を固定するポテンシャルがあります。世界では年間500〜600万haの農地が砂漠化しているといわれます。砂漠化を止め、土壌を回復することは直接的に環境保護につながります。

カーンザの根。「問題の症状を超え、問題の原因について話せていると確信が持てるまで何度でも問い続けるべきだ」とは、イヴォン・シュイナードのことばです。Amy umler(C)2024Patagonia, Inc.

 さらにリジェネラティブ・オーガニック認証制度をつくり、オーガニックを土台に土壌の健康や、動物福祉や、社会的公平性をも担保した製品を作ろうとしています。日本では、リジェネラティブ・オーガニック認証取得を目指す農家と協働してコウノトリ育むお米を350年続く酒蔵で醸した日本酒や、ソーラーシェアリングの畑で不耕起栽培した大豆を使った味噌など、日本の風土に合った製品開発を進めています。さらにストーリーを伝えることで環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。パタゴニアの挑戦は、これからも続いていきます。 

Table Vol.505(2024年9月)

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