2024年6月2日、コープ自然派京都では、予約の取れないレストラン「シェ・パニース」と、学校教育を変えた「エディブル・スクールヤード(食育菜園)」の創始者、アリス・ウォータースさんの来日ドキュメンタリー映画の上映会を開催しました。
食べることは生きること
映画『WE ARE WHAT WE EAT』は、昨年発刊したアリス・ウォータース著『スローフード宣言―食べることは生きること』の1周年を記念して、2023年秋にアリスが来日し、旅をして語った言葉を映画化したものです。
1971年にカリフォルニア州バークレーでレストランを開業したアリスは、ローカルでオーガニックな食のムーブメントをつくってきました。「あなたは、あなたの食べたものでできています。どう食べるかが人と社会をつくります」と語るアリスの実践は、スローフード革命として世界中に広がり、学校教育にも影響を与えています。
ファーマーズ・ファースト
アリスは島根県沖に浮かぶ離島・海士町や徳島県神山町などを巡り、それそれの土地とつながる豊かな食の取り組みに触れ、農家、生徒、料理人たちと語り合います。
アリスが来日中、繰り返し使う言葉がありました。それは「ファーマーズ・ファースト(農家さんが一番)」。本物のおいしさを届けてくれる農家とつながり、家族のように大切にすること。「1950年より前は、地球に生きるすべての人がオーガニックでローカルなものを食べていました。たった60年、70年前のことですよ」とアリスは話します。何を食べるかを選び、決めることは、自分たちの健康、そして地球の健康を良くすることにも悪くする原因にもなります。リジェネラティブ(環境を再生する)な農業は、本来、大気にあるべきではない炭素を土壌に戻します。「生産者こそが土地の守り手。気候変動を止め、皆の健康を取り戻す仕事をしてくれる人たちを、その可能性を支えたいのです」
エディブル・スクールヤード
アリスが始めたエディブル・スクールヤード(食育菜園)と名付けられた取り組みは創設から30年が経ち、今では世界中の6200校に広がっています。
地元の公立中学校では約1200坪の畑で野菜を育て、鶏を飼い、料理して食べます。教科学習もガーデンやキッチンで行うことでカリキュラムに命が吹き込まれます。五感を使って自分が料理したものを食べるときに「わかる」感覚は特別で、「学ぶのに、これ以上の方法ってあるでしょうか」と。世界史を学ぶのに食べものを取り入れると皆が集中し、地理と地形によって育つものが変わり、それが文明のありようにも影響することがわかります。実社会に結びついて意味を持つようになり、生徒たちは学ぶ意欲を得ることができるのです。
しあわせな経済圏
シェ・パニースでは、そのとき畑にあるものを農家から直接買い取る形で地域内で循環するしあわせな経済圏を築いてきました。その他にも、農家が育てることに集中できるよう配達や販売を引き受けることも農家の助けになります。
さらに、「すべてを変えるなら、すべての子ども達が毎日食べる学校給食を変えるところから始めるのはどうでしょう」とアリス。「学校が給食のために持つたくさんの予算で、大地を守ってくれる地域の農家から食材を買えば、子どもたちに栄養たっぷりの食事を与えながら、地球も守ることができます」と。
アリスは、「今はチャンスです。気候と教育の危機が目の前にあるのだから」と語ります。「皆、何かはできるはずです。例えば、畑を始めるのは世界中どこにいてもできます。屋根の上や、歩道の脇の小さな隙間でもね」と。そして、消費者としてできることは、身の回りにあるすべての背景を問い直してみること。アリスの言葉には、未来へと一歩を踏み出すヒントがたくさんちりばめられています。
Table Vol.504(2024年8月)