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食と農と環境

ゲノム編集魚を考える 市民集会in京都

2023年9月23日、「ゲノム編集魚を考える市民集会in京都〜未来の食卓はどうなるの?〜」が開催されました。

パネルディスカッションには、安田節子さん、天笠啓佑さん、河田昌東さん、印鑰智哉さん(OKシードプロジェクト事務局長)、松平尚也さん(龍谷大学農学部兼任講師)、NOCOさんが登壇しました。

 ゲノム編集によって遺伝子操作された食品は日本だけで流通しています。国内で流通しているゲノム編集食品のうち2つは京都大学発のベンチャー企業リージョナルフィッシュ社が開発・養殖するマダイとトラフグ。このゲノム編集魚の養殖場がある京都府宮津市ではゲノム編集トラフグを「ふるさと納税返礼品」に採用しています。こうしたゲノム編集食品の問題を深く掘り下げるために、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン、OKシードプロジェクト、日本消費者連盟、麦のね宙ふねっとワークを呼びかけ団体に実行委員会が結成され、全国の個人・団体の賛同を得て集会を開催しました。当日はコープ自然派京都の運営協力のもと会場とオンラインあわせて600名を超える参加がありました。

基調講演「ゲノム編集食品は未来の食卓をどう変えるのか」

 まず最初に、食政策センターVision21主宰の安田節子さんによる基調講演がありました。

 遺伝子組み換え食品(以下、GM)は、種の壁を越えて他の生物の遺伝子を入れる自然界には存在しないものです。GM第2世代といわれるゲノム編集は、特定の遺伝子を破壊して自然に存在しない生物を創り出します。開発者は速く正確に狙った遺伝子を破壊できるとしていますが、予期せぬ変異が発生する可能性や修復不能な破壊が発生すると2021年の科学誌Nature等で報告されています。

基調講演の安田節子さんは食政策センターVision21主宰。食の安全・農業・環境問題に長く取り組み、情報を発信し続けています。

ゲノム編集動物のリスクは?

 日本ではゲノム編集食品の開発が積極的にすすめられ、サナテックシード社が開発した高GABAトマト、成長の早いトラフグ、肉厚のマダイが流通しています。トラフグは食欲抑制ホルモン「レプチン」の受容体遺伝子を破壊するので食べ続けて肥満になり、生殖能力や免疫反応に異常が出て病気になりやすいという問題を抱えています。マダイは筋肉の生産を抑制する遺伝子を壊すため、どんどん細胞が分裂して通常の1.5倍の肉厚になるというもの。体長が短く背骨の奇形をもたらすなど拷問養殖とも言われています。食品としては、成長ホルモンの過剰生産による前立腺がん、乳がん誘発の可能性が指摘されています。

 ロンドン大学の分子遺伝学者マイケル・アントニオ博士等は「胚のゲノム編集は無人ドローンによる戦争のよう。一見成功に見えても大規模な巻き添え被害を引き起こす」と指摘します。生命体はバランスをとるようコントロールされていて、人が介在してそのバランスを壊すと想定外の問題が起こります。安田さんは「ゲノム編集技術は魔法使いの弟子。生命の根源である遺伝子の操作は神の領域に踏み込むこと。その結果を人は制御できないと認識すべき」と言います。

ゲノム編集食品と応用技術の推進

 アメリカがバイオテクノロジーに力を入れるのは生物特許が認められたため。遺伝子組み換え微生物の特許申請が認められて以降、多国籍企業が生物特許の取得にしのぎを削っています。2018年、カリクスト社がゲノム編集高オレイン酸大豆油を世界で初めて商品化しましたが、消費者が支持せず撤退。しかしその後も開発は続き、最近ではコルテバ社が開発した「もちトウモロコシ」を日本は届け出を受理し、輸入は時間の問題です。

 2019年、安倍元首相が「ゲノム編集技術を成長戦略の軸に、大胆な政策を迅速かつ確実に実行に移す」と述べ、厚労省は流通・販売の届け出を任意とし、消費者庁は食品表示を不要としました。また、農林水産省のみどりの食料システム戦略ではゲノム編集技術がイノベーションの柱です。岸田首相は日本発のフードテックビジネス育成のため「代替肉」「昆虫食」「細胞培養肉」などの環境整備をすすめています。一方で、イタリアでは2023年、培養肉の製造・販売を禁止しました。安田さんは「代替たんぱく質は世界の栄養失調や飢餓を救済できません。環境破壊や動物虐待につながる大規模工業的畜産こそ改め、アニマルウェルフェアや環境保全的農畜産へ向かうべきです」と語りました。

買わない!食べない!生産させない!

 バイオテクノロジーによる食料生産は大企業に依存していますが、世界の食料生産の90%以上は小規模農家や小規模零細漁業が担っています。環境を守り再生産可能な地域自給を守ることこそが食料安全保障といえるでしょう。2023年8月、ハンガリーは予防原則に則ってゲノム編集作物を規制し、GMOフリーを堅持することを表明しました。「ハンガリーにならい制御できない技術による食べ物を規制するために、ゲノム編集や遺伝子操作食品の禁止や表示義務を求める自治体条例など、行政、議会や企業に声を届けていきましょう」と安田さんは呼びかけました。

「まさはる×けいすけ」のかけあい対談

 第二部は、科学ジャーナリストの天笠啓佑さんと分子生物学者の河田昌東さんから、急速に進む大型陸上養殖の問題が指摘されました。海を取り巻く状況は、マイクロプラスチックや有機フッ素化合物、農薬による汚染や、放射能汚染水などで悪化し続けています。天笠さんは「政府や企業は海をゴミ捨て場のように考えている」と言います。日本では陸上養殖には漁業法も適用されず何ら規制がありません。ゲノム編集魚の養殖システム「閉鎖式バイオフロック方式」は水を微生物で処理するため水の入れ替えが不要で、規制がないためどこにでもゲノム編集魚養殖場ができる可能性があります。現在、リージョナルフィッシュ社では、さらに大規模・高効率化を目指したバナメイエビの養殖プラントや高温耐性ヒラメの開発が計画されています。

宮津市の市民の声

 第三部のパネルディスカッションではゲノム編集魚の問題点と背景が話し合われました。宮津市の遊漁船船長で麦のね宙ふねっとワークのNOCOさんは、「漁業者もゲノム編集トラフグの陸上養殖を全く知らなかった」と振り返ります。トラフグの納税返礼品中止を求めて署名活動を行い請願書を提出しましたが不採択。「美しい海と未来の食卓、未来のこどもたちを守るために諦めない。沈黙はYESと同じ、周囲の人になぜ反対なのか、不安で心配であることを伝えてほしい」と語りました。

第一線の漁業事業者より

 鳴門魚類株式会社の山本章博さんは「勇気を出して会場に来ました」と登壇し、拍手で迎えられました。漁業に無関係な企業が利益を得るために参入していますが、日本は和食文化で魚文化、魚種を考えなければ自給率100%も可能で、海の変化を間近で感じる漁業関係者としてゲノム編集魚は不要だと話します。そして、「我が社ではゲノム編集魚の取り扱いを今後も一切行いません」と宣言し、「遺伝子組み換え食品反対運動のように、もぐらたたきを頑張り続けましょう!僕たちには選ぶ権利があるんです。僕は闘い続けます。一人ひとりの行動が一人ひとりの活動になります」と締めくくりました。小規模漁業は地域社会や伝統・文化に根差し、漁村地域の9割を雇用しその半分は女性です。地域の活性化は持続可能な漁業から。宮津の海を守り地魚を守ることが、未来の海を守る最先端になります。

鳴門魚類株式会社 山本章博さん「自然派Style雄武秋鮭」などの生産者鳴門魚類の山本さんは、海の様々な問題は3世代先を守る行為だと物語のある水産物を紹介し続けています。

「ストップゲノム編集魚」京都宣言

 会の最後は、コープ自然派京都の筆口理事長が「海の生態系を守り、遺伝子操作の作物や魚をストップさせ、食卓の安全を守ります」と宣言文を読み上げ、参加者全員で採択しました。全国の賛同者が参加したことは大きな力になり、次への行動につながります。これからも声を上げ続けましょう!

「ストップゲノム編集魚京都宣言」を読み上げるコープ自然派京都理事長・筆口さん。
京都駅前交差点で「未来の食卓を守るためにアクションを起こしましょう!」と呼びかけました。

Table Vol.496(2023年12月)

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