2024年12月2日、コープ自然派京都(チーム:スマイルファクトリー)は、猟師でシカ肉料理研究家の平岡祐子さんのお話会を開催。子育てをしながら、猟をするその理由を聞きました。

猟師になる
大阪府高槻市の里山で猟をする平岡さん。猟師になったきっかけのひとつは、自身の体調不良でした。仕事が好きで、食事の時間も惜しむほど働いていた平岡さんは体調を崩し、自分の体や食事と向き合うようになります。発酵食品やきちんと作られた調味料、食材を取り入れることで、体の変化を実感しました。そして、グラスフェッドビーフ(放牧され、牧草のみを食べ飼育された牛肉)を選ぼうと考え、はたと気づきます。「昔、おじいちゃんが山で獲ってきたシカこそ、グラスフェッドでは」。実は平岡さんのおじいさんも猟師。おじいさんが獲ってきたシカ肉料理が並んだ食卓の記憶がよみがえります。すでに猟を引退していたおじいさんの勧めもあり、平岡さんは「自分で獲って、好きなだけシカ肉を食べよう!」と猟師になることを決意、すぐに猟師免許を取得します。

シカ猟のこと
実際の猟はとても大変です。獣道を探し、足跡や糞などを見つけて罠を仕掛けますが、仕掛けても捕獲まで日数がかかることもしばしば。夜行性のシカが罠にかかるのは夜や雨風の強い悪天候の日が多いのですが、できるだけ早く仕留めることで、シカを苦しませず、また肉の質を保つことができます。夜中でも山へ向かい、真っ暗な中で数十キロのシカと対峙して仕留めたら、トラックに積んで自宅の処理施設まで運び、捌きます。「罠にかかったことがわかれば、寝ていてもワクワクしてすぐに飛び起きます。重労働ですが、朝までに作業が終えられるので、子育て中でも問題ないですよ」と平岡さん。
「シカを殺して食べることについて、かわいそうだといわれることもあります。私も複雑な想いになりますが、人間は生きていくために様々な命をいただいています。そして次の命につなげていく。私たちはたくさんの命のおかげで生きています」。また一方で、シカは農作物に大きな被害をもたらす害獣として捕獲され、そのうちの9割以上が廃棄されていることも現実です。猟師としての経験を重ねるなかで、平岡さんは〝命や生と死〟に対する実感がとても強くなったといいます。
おいしい!だから食べてほしい
「私が猟をする理由はシンプル。〝おいしいから食べたい〟です。柔らかく臭みもなく、高たんぱくで脂質が少ないシカ肉が本当においしいことを知ってほしい!野生のシカは山を走り回り、その時期の山の旬を食べています。野生の命のエネルギーをいただくのです」。

簡単でおいしい調理法を伝えることでシカ肉を広めたいと、レシピ開発や料理教室を開始し、これまでに生まれたレシピは88種類。2019年には、ジビエ料理コンテストで1位の農林水産大臣賞を受賞しました。平岡さんが大切にするのは、おいしくて簡単で、家庭で再現できることです。
生きる力と命の循環
平岡さんは猟だけでなく、発酵食や保存食作り、昔ながらの知恵や暮らしを取り入れることも大切にしています。会場には、手作りの「ビワの葉チンキ(成分を抽出した液)」や「よもぎバーム」なども並びました。自分の手でつくれるものはなるべくつくり、その知識や知恵を持っておくことは生きる力になります。今の社会では、便利さや効率の良さが当たり前とされますが、平岡さんは、「そうではない選択肢もあることを知って、自分がどうしたいかを考えてみてください」と。そして、「命を無駄にせず、食卓まで運び、感謝しておいしくいただく、そこまでを大切にしたい。それが命の循環です」と話しました。
Table Vol.512(2025年4月)