2019年9月20日(金)、コープ自然派兵庫(商品委員会主催)は、マルハニチロ(株)マーケティング部・片野歩さんを講師に、ブームとなったサバ缶を通して漁業や流通についての学習会を開催しました(※エシカル消費とは環境や社会に配慮した倫理的な消費)。
魚も限りある共有財産
世界の漁業先進国(北欧・北米・オセアニアなど)は、水産物を国民の共有財産と捉え、魚種ごとに持続可能な漁獲量で管理しています。一方、日本では漁業者に自主管理として資源管理を任せてきたことが、魚の資源が減り続けてきた主な原因の1つと考えられています。長年、底引き網や巻き網などで小さな魚まで獲ったり(成長乱獲)、秋田のハタハタや北海道のニシンなど産卵期に獲ったり(加入乱獲)で水揚げ量は激減。ハタハタは3年間の禁漁を経て資源が回復したと資源管理の成功例のように言われていますが、漁獲量の多かった時期の数字を除外しているに過ぎません。ちなみに、昨年の水揚げ量は600トンと最盛期の1割以下の状態です。
海外の場合、ノルウェーサバは25〜30%脂がのる秋から冬のおいしい時期にのみに漁獲されています。これは漁獲枠が漁船ごとに厳密に決められ、脂がのらない価格が安い時期には獲りません。日本では旬に限らず1年中獲るため、パサパサしたものまで販売されることが魚離れの一因ともなっているようです。そして、日本では食用にならない小型のサバの一部が東南アジアに輸出され、低コストで缶詰になり再輸入されています。
漁業先進国と日本の違い
世界銀行による水揚げ数量予測は、2030年には23.6%増加予想です。一方、日本の海域だけがマイナス9%と提示されています。世界全体では水産物の需要は増加し続けているため、国際価格の上昇で日本での水産物の買い負けが生じて輸入量は減少し、価格は上昇していく見通しです。
漁業先進国・ノルウェーの漁船は、日本とは大きく違い客船のようです。1隻20億円前後の漁船には、日本メーカーの最新機器が搭載されていることが少なくありません。また、自動化により運動不足になるため船内にはジムが設置され個室など職場環境がよい上に給与も高く、漁船の大小にかかわらず漁業従事者の99%が現状に満足、アイスランドやデンマークなども同様の傾向にあるようです。
一方、日本では漁業従事者の平均年齢は60歳前後で、労働環境はこれらの国々とは大きく違い後継者不足は深刻です。かつて労働環境は厳しくても漁業は人気がある職種で、魚がたくさん獲れ収入もよかったのですが、魚の減少ですっかり後継者不足の産業となっています。
海のエコラベルMSCを
東カナダでの乱獲によるマダラ激減への反省から、1997年に持続可能な水産物として第3者認証機関が認証するMSC(天然水産物)が設立されました。2010年に、その養殖バージョンとしてASC(養殖水産物)認証が設立され、それぞれの水産物のトレーサビリティを確実にするCoC(加工流通)認証があり、日本でもMSC認証の製品数は700種、CoC認証は204社(2019年1月)と増加しています。欧州ではペットフードにも認証制度を取り入れているほど意識が高まっていますが、日本では認証制度への認識はまだ不十分で東京オリンピックに向けて各企業の準備が急速に進んでいます。
2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されました。全17のゴールの1つ「14.海の豊かさを守ろう」での日本の評価は、100点満点中わずか29点でしたが、昨年12月に70年ぶりの抜本改革として行われた「漁業法改正」により法律がようやく整い始めています。そこで、手遅れになる前に「国際的にみて遜色のない資源管理」を行い、SDGsのターゲットの中にあるMSY(最大持続生産量)に基づいて管理し、TAC(総漁獲可能量)の魚種もほぼすべての商業魚種をカバーできるよう増加させていけば、海洋資源の枯渇を防ぎ回復を目ざすことは可能です。
私たちができることは?
米国モントレー水族館では、水産資源の持続可能性を格付けした「シーフード・ウォッチ」により消費者へのアウトリーチを行っています。「こんなに小さな魚を売っていて資源は大丈夫ですか?」「この魚を食べても持続可能でしょうか?」という疑問を投げかけることでマーケットを変えていくきっかけにもなっています。欧州では持続可能でない魚は流通業が扱わなくなっています。また、中国では欧州などに輸出するためにMSC認証を取得するための努力を始めています。私たちができることは、持続可能と認証された水産エコラベルのものを購入すること、持続可能なものかどうか疑問があればSNSなどを通して投げかけることで、市場への提案になり限りある海洋資源を守ることにつながる可能性もあります。また、認証ラベルはMSC・ASC以外にも出てきているので、その中身が本当に持続的な内容なのかよく調べることも重要です。
Table Vol.405(2019年12月)