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食と農と環境

【寄稿】GM・ゲノム編集のどこが問題?③「重イオンビーム育種米[あきたこまちR]の田植えが始まる」=松尾由美(コープ自然派事業連合顧問) 

秋田県産「あきたこまち」は「あきたこまちR」に全量切り替え

 田植えの季節が始まりますね。秋田県では今年から県が供給する「あきたこまち」の種もみが、重イオンビーム育種米「あきたこまちR」に全て切り替わります(導入の経緯を知りたい方はこちら)。明治時代、鉱山開発などで廃棄されたカドミウムが今も一部の田畑に残留していて、秋田県では県内の田んぼの約2割が汚染低減のため出穂期前後に湛水管理を行なっており、農家への大きな負担になっているとのことです(農水省消費・安全局資料より)。

※イメージ

「あきたこまちR」とは? 

 「あきたこまちR」は、重イオンビーム放射線を照射してカドミウムを吸収する遺伝子を破壊した「コシヒカリ環1号」と従来の「あきたこまち」を掛け合わせたカドミウム低吸収米です。秋田県は全国初の導入にあたり、県内全面切り替えを決めましたが、本来は汚染地域に限定して対策するのが妥当ではないでしょうか。慣れ親しんできた「あきたこまち」が突然無くなることに戸惑う県民の不安や疑問の声に対して県から十分な説明はなく、「今までの『あきたこまち』と見た目も味も一緒、7代も戻し交配しているので安心」と押し通しています。しかし、どれだけ交配を繰り返しても当該遺伝子の特性が消えることはありません(消えればカドミウム低吸収米ではなくなる)。「誰も食べたことがなく、表示もされず、安全性も確認されていない米は不安」との声が全国からも寄せられているのは当然だと思います。

有機JAS認証に関して

 農水省は「あきたこまちR」は有機JAS認証が可能としています。しかし、遺伝子が破壊された作物が有機といえるのでしょうか。このような重大な決定に生産者や消費者の意向が全く反映されないのは大きな問題です。秋田県有機農業推進協議会は昨年1月に、いち早く、「私たち秋田県の有機農家はあきたこまちR全面切り替えに反対します。あきたこまちRに不安を感じる消費者がたくさんいます。これまでのあきたこまちを食べる消費者の権利、作付けする生産者の権利を守ってほしい。私たちはあきたこまちRを有機農産物とは認めません」と反対声明を出しています。

「あきたこまちを守る会」が発足

 このような状況をなんとかしたいと有機農家を中心に今年3月、秋田県で「あきたこまちRについて考える県民集会」が開催され、それぞれの立場から活発な意見が出されました。そこで「あきたこまちを守る会」の設立が決まり、これから情報発信や全国の消費者団体との連携などに取り組みたいとのことです。従来の「あきたこまち」は種取りできますので(「あきたこまちR」は自家採種禁止)、農家に種もみがあれば栽培は可能で、食べたい私たち消費者とつながることで従来の「あきたこまち」を守ることができるのです。
 「あきたこまちR」の導入には賛否両論あると思いますが、食べたいものを食べ、つくりたいものをつくる食料の自己決定権は失ってはならない権利です。今回の全面切り替えはその権利を奪うことにほかなりません。

Table Vol.513(2025年5月)

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