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食と農と環境

ゲノム編集技術、その神話と実現

2019年、日本政府はゲノム編集技術を使って開発した食品について、食品表示を義務化せず流通させることを決定、ゲノム編集を自然による変異と変わらない技術だと主張しました。2月4日(土)、コープ自然派しこく・えひめセンターはOKシードプロジェクト事務局長・印鑰智哉さん講演会を開催(愛媛・ゆうき生協との共催)、ゲノム編集食品の問題点を聴きました。

「昨年3月、愛媛県がみかんなどの柑橘類と水産物のゲノム編集技術開発の推進計画を発表しました。気候変動や農業・食料危機がせまるなか、ゲノム編集に税金を投入している場合ではありません」とOKシードプロジェクト事務局長・印鑰智哉さん。

ゲノム編集は遺伝子操作

 ゲノム編集は遺伝子組み換え(以下、GM)技術と同様に、遺伝子を挿入する方法で行われる遺伝子操作技術です。ゲノム編集技術の「クリスパー・キャス9」は、感染したことがあるウイルスが体内に侵入したことを感知し破壊する細菌の防御の仕組みを利用してつくられた、遺伝子を自ら破壊する技術です。トマトを例にあげると、トマトに細菌由来の遺伝子を挿入すると、その遺伝子がトマトの特定の遺伝子を破壊します。この段階では挿入された遺伝子が存在するGMトマトです。次に、このGMトマトとNON-GMトマトをかけ合わせます。これを「戻し交配」と言い、子は両親から半分ずつ遺伝子を受け継ぐので、子の代では4分の1の確率で挿入遺伝子を含まず遺伝子破壊された遺伝子だけもつトマトができます。その4分の1の子を選抜したものがゲノム編集トマトということです。日本政府や企業、マスコミは、ゲノム編集が特定の遺伝子を壊す技術で、特定の遺伝子を破壊した後に挿入した遺伝子は取り除かれるため、GM技術ではないと主張しています。しかし、米国の政府による検査で、ゲノム編集された「角のない牛」から外来の挿入遺伝子が検出されたことからもわかるよう、ゲノム編集生物から挿入遺伝子を取り除くことは不確実だと判明しました。

不要な遺伝子などはない

 ゲノム編集技術で目的ではない遺伝子を破壊するオフターゲットが頻繁に起きることが問題視されていますが、狙い通りの遺伝子を壊せたとしても(オンターゲット)、破壊された遺伝子がどのように修復されるかわかりません。3分の1の確率で予想外の変異が生まれるという研究があり、大量の遺伝子が失われたり、染色体が破砕されたりするという大規模な損傷も報告されています。これらは従来のGMにないリスクです。

 ゲノム編集は自然界にないタンパク質をつくり出す技術なので、アレルギーや内臓疾患など新たな病気をつくり出す可能性があります。政府や開発企業はアレルゲンについて確認済みと発表していますが、未知のアレルゲンや毒性物質が発生していないか実証実験はなく、オンターゲットやエピジェネティック(環境によって遺伝子の状態が変化する)な異変についても確認されていません。

 遺伝子は複雑なネットワークのなかで互いにバランスをとりながら働いています。一部の遺伝子を破壊したらネットワーク全体に影響が及ぶ可能性があり、特定の性質をもつ遺伝子を壊せば、たちまちバランスが崩れ予測できない結果を招く可能性があります。存在価値のない遺伝子などありません。

遺伝子操作に表示制度を

 今までに販売されたゲノム編集食品は、大豆油(米国Calyxt社)、トマト(サナテックシード社)、マダイとトラフグ(リージョナルフィッシュ社)です。売れなかった大豆油は破綻したため、ゲノム編集食品が
流通しているのは日本のみ。現在、「ゲノム編集トマト・シシリアンルージュハイギャバ」は熊本県の屋外で栽培され、家庭菜園用に無料配布後、オンラインでのみ販売されています。また、子どもをターゲットにゲノム編集の広報活動が進んでいます。民間企業が政府の予算を使って推進教材をつくり、モデル授業を実施。2022年から福祉施設で、2023年からは小学校にゲノム編集トマトの苗の無償配布を行う計画を公表し
ています。日本で過半数の人がゲノム編集食品に否定的ですが、若年層ほど否定的な人が少なくなる傾向があり、子どもたちにどう問題を伝えていくかが今後の課題です。

 GM作物は「栽培実験の申請」「栽培データの提出」「流通に向けた申請・審査・承認(最初の申請から承認まで要数年。審査は基本公開)」が必要ですが、ゲノム編集食品は政府機関と相談・確認すれば届け出だけでよく、安全性の確認実験もありません。ゲノム編集生物からつくった後代交配種は届け出不要で、情報も公開されません。

 ゲノム編集は種苗にも表示義務がないため、知らずに遺伝子操作された種子を栽培する可能性があります。政府はゲノム編集の有無を確認できないため、表示制度がつくれないと言いますが、科学者は検出可能だと言っています。また、欧米ではNON-GMO民間代替認証が普及していますが、日本では納豆・豆腐などを除いてNON-GMO表示がありません。さらに、4月以降は実質的にNON-GMO食品表示もできなくなるため、OKシードプロジェクトでは代替案として「NO!GMO」というスローガンを表示にしたマークの普及活動を始めました。

有機農業と種子の多様性

 この20年間で世界では有機農家が15倍に増加。世界で最も有機農家が多いのは、インド、アフリカ3国、タイと続き、アジアとアフリカで約80%を占めます。

 学校給食をオーガニックにする動きは有機農業を広げ、地域の農家を守る上で有効です。学校給食の食材を地域産の有機・自然農法のものにし、無償化することで、地域の市場が変わり、地域の農家を支えることにつながるのです。「オーガニックと無償化は同時に主張すべきです。実現するにはタイムラグがあるかもしれませんが。無償化だけの主張になれば、大手企業のファストフードが給食になるかもしれません。これでは、企業を儲けさせるだけです。地域の農家を支え、環境を守る農法に変えていかなければなりません」と印鑰さん。千葉県いすみ市が学校給食で有機米にかけている予算は1食あたり10円未満、学校給食の無償化に必要な予算は全国で年間約4400億円。有機米を買い上げることで環境と健康を守り、買い上げ保障で地域の農家を守り、地域経済の波及力もあるということです。

 人類はおいしい品種や多収穫の品種ばかりを栽培し、この100年間で7割以上の品種が失われました。多様性が失われると、感染症などによる不作、飢饉のリスクが高まります。ジャガイモの原産地ペルーの先住民族は菌病からジャガイモを守るために多品種のジャガイモを育ててきました。種子の多様性を守ることは、将来の食の安全保障につながり、経済効果も発揮します。ブラジル、イタリア、韓国には、地方自治体が種とり農家を支援し、在来種を守る条例があります。在来種は有機農業に向いているため、これらの国ではオーガニックが急成長しています。一方、日本は種子法を廃止し種苗法を改正し、種苗事業を民営化しました。民間企業は1種類の種子を効率よくたくさん販売したいため、多品種、在来種の種子をつくろうとはしません。

 「食は基本的人権の根底にあるべき重要な権利です。共感する人が増えると、最初、理解を示さなかった人たちも変わります。3.5%の人が動けばシステムは変わるのです。ゲノム編集に反対の声を上げましょう。学校給食でGM食品・ゲノム編集食品を使わない条例を定め、ゲノム編集トマトの苗を受け取らないよう自治体を動かしましょう」と印鑰さんは提案しました。※OKシードプロジェクト:ゲノム編集されていない作物や食品に「ゲノム編集でない」マークを自主表示するプロジェクト。

種苗や食品を安心して選べるようにつくられた「OKシードマーク」、マーク使用には事前申請・登録が必要です。https://okseed.jp/

Vol.486(2023年4月)より
一部修正・加筆

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