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食と農と環境

食と農から社会を変える

2019年9月30日(月)、コープ自然派奈良は「特別決議学習会」第1弾として、藤原辰史さん講演会を開催、歴史学者・藤原さんは「食べること」を生態学的、政治的、社会学的にとらえ、社会を変える新たな視点を提示しました。

講師の藤原辰史さん。「戦争と農業」(インターナショナル新書)、「分解の哲学」(青土社)、「給食の歴史」(岩波書店)、「トラクターの歴史」(中公新書)、「カブラの冬」(人文書院)など著書多数。

この社会は生きづらい

 「自分は幸せだと感じている人は、その幸せはどのように得られているか考えてみましょう」と藤原さんは問題提起します。例えば電気を使える幸せについて。藤原さんはすべての原子力発電所をなくすべきだと考えていますが、その最大理由として原発による電力はウラン鉱山やプルトニウム精錬所で働く人たちを被ばくさせて得られるからです。北米や南米、カナダ、オーストラリアの現地に住む人たちが掘り出したウランを先進国の企業が買い、原子力発電所では電力を供給しています。

 飽食社会だと言われる一方で、世界では7臆人が飢えています。日本では6人に1人の子どもが貧困という現状です。また、日本は治安が良く暮らしやすいと言われますが、移民には不寛容で移民労働者は過酷な労働を強いられています。

 藤原さんは韓国を訪ねる機会が多いのですが、韓国人に比べて日本人、とくに若い人たちの目に生気がないと感じています。電車内ではほとんどの人たちがスマホに夢中か居眠り、こんな風景は外国では見られないということです。

 「外国の人たちからなぜ日本では子どもが自殺するのかと聞かれます。それは大人社会で誰かを根拠なく虐げるようなことが行われているからではないでしょうか。この社会はどんどん生きづらくなっているように感じます」と藤原さんは話します。

この社会は変えづらい

 日本では近年の投票率は40%程度、ちなみに台湾の投票率は約90%、表現の自由や言論の自由を市民の闘いで勝ち取りました。日本では何をやっても変わらないと政治や選挙に無関心な人が多くなりました。それは官僚が力を持ち過ぎているということもありますが、人権を闘い取ってきたという意識が希薄だからではないかと藤原さんは言います。

 18世紀のフランス革命で「人権宣言」を発し、アメリカやイギリスも「人権」を確立しました。しかし、これらの国々には奴隷制があり、奴隷制のもとで人権を謳歌してきました。

 「ヨーロッパもアメリカも自由・平等・博愛を謳い、市民階級が人権概念を育てていく一方で、アフリカから膨大な奴隷を購入し、過酷な労働をさせてきたことを見過ごすわけにはいきません」と藤原さん。そして、今、日本では民主主義が危機に陥っていると。政権批判や企業批判ができなくなり、報道の自由度ランキング世界72位(2016、2017年)という数値がそれを物語っていると藤原さんは話します。

食と農の視点から考える

 20世紀の農業技術はトラクター、化学肥料、農薬、品質改良の4セットで発達してきました。トラクターの登場によって牛や馬を使わず、1人の人間ができる作業量は大幅に増加。一方で、牛や馬の排せつ物が肥料として使われなくなり、根粒菌などが行っていた役割を化学的にできる方法が開発されました。そして、大量の化学肥料を製造することが大きなビジネスとなります。化学肥料をつくる工程は火薬をつくる工程と同じで、第一次世界大戦ではトラクターは戦車に、化学肥料は火薬に使われました。また、戦争技術として開発された毒ガスは第一次大戦後、農薬として使われ各国で農薬の研究が進みます。さらに、品種改良が進むことで冷害や感染症に強い品種がつくられ、厳しい環境下でもトラクターで農地を広げました。このような近代農業によって食糧を大量に生産できるようになりましたが、土を耕し、雑草を取り、害虫を作物から取り除き、タネを改良するという自然に対する基本的な働きかけはなくなり、化石燃料を使い続ける社会となりました。

参加者に語りかけ、質問を投げかけながら話す藤原辰史さん。「食べることも排泄することも、微生物との共同作業、農業も本来はそうあるべきです」。

変えられるかもしれない

 では、このような社会を変えられるのでしょうか。藤原さんは「食」の視点からそれを提示します。政治とは誰もが食から排除されない社会をつくることだと藤原さん。そして、食べる行為を排泄まで含めて考えるべきだと話します。生態系は、生産者(太陽光を得てブドウ糖をつくる植物)、消費者(植物や植物を食べる動物たち、人間も含まれる)、分解者(死体を貪り食って土壌に返す微生物や昆虫やミミズなど)で成っています。「食べることとは食べものを口に入れただけで終わらず、最終的には微生物をくっつけて排泄し、自然に還っていくのだと考えると、私たちは土壌に帰りにくいものを食べてはいけないのではないか」と藤原さん。今、世界は分解しにくいものに溢れていて、その最たるものは核、プラスチック、コンクリートです。

 そこで、藤原さんは実践例を提示します。①企業がもたらす明らかな公害に対して異議を申し立てる②有機農業の意味を市場の付加価値ではなく、新しい仕組みの要として定義し直す③種子を選ぶ④微生物の力を最大限発揮してもらう発酵食を見直す⑤食べる場所の再設定をする。そして、「食べものを過剰な商品化から救い、公平に分配されるものとしてとらえ直すことが必要ではないではないか」と藤原さんは結びました。

Table Vol.403(2019年11月)

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