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連載

わくわくキッチン「熊の命」うのまきこ/編集部「わーい」

イラスト/ 友野可奈子

 おなかをへらした熊が山から下りて来るニュースを昨今よく目にします。印象的だったのは、帰宅すると茶の間のこたつに熊がいて、駆けつけた獣医さんが吹き矢で麻酔を打って捕獲、山奥に放ったという、遠く離れた場所から無責任に想像するだけならちょっぴりホノボノした事件。でもその家の住民や近隣の方にとってはさぞかし恐ろしい体験だったことでしょう。

 生きものが大好きで動物園に時々1人で足を運ぶ私はホッキョクグマが特に好き。本来の生息地とはかけ離れた狭い所で退屈な毎日を過ごしているであろう動物たちに後ろめたさも感じますが、自然が造形した美しい姿や、無邪気に遊ぶ様子、親子の愛情深いしぐさを見ると、浮世の憂さも忘れてしまうくらい心が伸びやかにリセットされる気がするのです。

 そんな訳で先週も天王寺で用事を済ませたついでにホッキョクグマのホウちゃんに会いたくて動物園に立ち寄りました。母熊イッちゃんの後ろをヨチヨチ追いかける、それはもう愛らしい赤ちゃん熊だったホウちゃんは、イッちゃんの転勤?で独り立ちもしてすっかり大人の姿。立ち上がるとその大きさにビビります。不意にあんな大きな動物に出くわしたら生きた心地がしないだろうなぁなんて考えながらの帰宅途中、1本のメールが届きました。「熊、猪、鹿の肉送ったよ~」。

 東北で暮らす父の旧友が昨秋遊びに来られた時に「近頃害獣駆除で獲った動物の肉をもらう機会が多く、上手に調理したら美味しいし体に良いので寒くなったら送るね」とおっしゃったのを漠然と聞いたのですが、まさか本当に⁉猪鹿は料理したことあるけど、熊‼ホウちゃんの姿もよぎる、どうしよう…。脳内ゴチャゴチャしましたが結論は「精一杯おいしく料理し感謝していただく、それしかこの貴重な命に応えるすべがない!」

 解凍した熊肉は血抜き済みでひと口サイズにカットしてあり、まずは作戦を立てるために一切れ茹でて味見。恐る恐る口にした肉は臭みやクセが一切ないけど硬くて容易には嚙み切れない。ならば筋を丁寧に切り、昆布と水でコトコト煮て鍋仕立てにしましょうか。2時間炊いてフワフワになった肉にたっぷりの根菜類や白菜、ネギ、豆腐を加えあっさりしょうゆ味に仕上げました。サラリ上品な脂と滋味豊かな赤身から出るだしは牛肉とも猪肉とも違う味わい深いおいしさ。そしてとっても寒い日だったのに体がポカポカ温まって朝まで冷えませんでした。食べるために熊を殺生したくはないけれど、人と熊との共生が難しい場面で殺めるしか方法がないのなら、せめて感謝を込めて食べることで命をリレーできればと思ったのでした。

うのまきこ| UNO Makiko
料理研究家。食品メーカーで新製品開発等に従事したのち、料理研究家・古川年巳氏に師事。わかりやすいレシピと、野菜をたっぷり使ったヘルシーで簡単な料理に定評がある。アトピーっ子のための簡単な除去食メニューも得意。コープ自然派奈良元理事長。

Table Vol.511(2025年3月)

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