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食と農と環境

ぼくは猟師になった

コープ自然派京都では総代会後に、猟師の千松信也さんによる講演会を開催。千松さんは京都市北区在住、ワナ猟で鹿や猪を捕獲しています。

コープ自然派京都組合員でもある千松信也さん。著書「ぼくは猟師になった」(新潮文庫)「けもの道の歩き方」(リトルモア) を出版し、各地で講演会など行っています。

野生動物との駆け引き

 千松さんが行うワナ猟はククリワナ猟というもので、ワイヤーロープなどでつくった直径12cmの輪っかを山中のけもの道に仕掛け、獲物を仕留めます。ククリワナは広大な山中で小さな穴を踏ませるため、仕掛ける場所を見極めなければなりません。けもの道は斜面のわずかな段差や細い道になっていて、足跡などの痕跡からそこを歩いた動物の種類や数、大きさ、行き先などが推測できます。糞は時間の経過や内容物から食べた植物を特定して行動範囲がわかります。樹木に付着した泥は泥浴びをした猪が通った跡。ヌタ場と呼ばれる泥浴び場でダニなどを落とした後、泥を木になすりつけてマーキングする縄張りを意識した行動です。また、泥が付着している位置や高さでルートはもちろん体の大きさが推測できます。

 狩猟期間は11月15日から2月15日(鹿と猪は3月15日まで)と決められています。鹿は罠にかかるとあばれて死ぬことがあり、絶命するとすぐに傷み始めることから獲物を見つけたら、棒で失神させナイフでとどめを刺し、同時に血抜きします。そして、すばやく山からおろし、内臓を取り除き、洗って冷却、皮を剥ぎ、解体、パック詰めして 冷凍保存します。解体作業は小学校2年生と5年生の息子さんたちも手伝い、鍋や焼き肉、干し肉にしてジャーキーに、また、燻製にしてベーコンやハム、内 臓や腸は洗ってソーセージなどに加工。胆のうは煎じて胃薬や二日酔いの民間薬として使用、皮もなめしてカバンなどにします。鳥類は無双網(おとりや餌でおびき寄せて網を被せて捕獲する仕掛け網)を使い、鴨やスズメなどを捕ります。山ではノビルやワラビ、セリ、キノコ、原木栽培椎茸などを収穫し、果物やマムシは酒漬け、ストーブや風呂に使う薪も調達。川では鮎や鰻など、海は素潜り漁でアコウ(キジハタ)、石鯛、カニなどを捕獲、養蜂や養鶏なども行っているということです。

いのちと向き合うとは

 子どもの頃から動物好きだった千松さんは、高校生の時には獣医になることが夢でした。「動物が好きなのに、誰かが育てて殺した肉を食べることに心苦しさを感じ、動物の仲間になりたい、距離を縮めたいと考えていました」と千松さん。そして、自分の食べる肉は自分で調達したいとの思いから、2001年、京都大学文学部在学中に狩猟免許を取得します。  

 千松さんのはじめての獲物は、3歳のメスジカでした。当時、学生だった千松さんは住んでいた寮の学生たちに振る舞い、とても喜ばれたということです。「命を奪うことには慣れません。2年越しで追いかけている獲物もあり、山での駆け引きを通して親近感のようなものが生まれることもあります。しかし、1頭1頭の個性を見極め、捕獲し、獲物の目を見て殺し、解体して、おいしくいただくという流れに違和感はありません」と千松さんは話します。

 鳥獣被害や生態系のバランスを考えて、千松さんはたくさん獲物を獲って販売していたこともありましたが、「義務感では楽しくないのでやめました。誰かに殺してもらった肉を食べるのが嫌で狩猟を始めたのに、不特定多数の人のために猟をするのは違うとも思います。でも、いつ考えが変わるかわかりません」と千松さん。現在は、家族と友人たちが1年間に食べる量だけ猟をし、週に3〜4日間は運送会社で働いて収入を得ているということです。

千松さんとは家族ぐるみのお付き合いだというコープ自然派京都・大塚理事が司会進行を務めました。

Table Vol.374(2018年9月)

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