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食と農と環境

脳神経科学の視点から ~ネオニコフリー想いをつなぐ学習会2018~

「ネオニコフリー想いをつなぐ学習会」(2018年7月30日)では、中下裕子さんの講演に続き、木村ー黒田純子さん(環境脳神経科学情報センター・医学博士)の講演「発達障害の原因と発症メカニズム」を開催、参加者は脳神経科学の視点からネオニコチノイド系農薬の危険性について学びました。

環境脳神経科学情報センター副代表・医学博士の木村-黒田純子さん。著書「地球を脅かす化学物質」(海鳴社)では、放射線の低線量長期被曝の影響についても言及しています。

子どもの発達障害が急増

 近年、日本では自閉症スペクトラム障害(以下、自閉症)、注意欠如多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)など子どもの発達障害が急増し、全学童の6.5%(15人に1人)に発達障害の可能性があると文科省が2012年に発表しています。自閉症の原因は1943年「冷蔵庫マザー説」に始まり、遺伝性が92%という報告など誤解の歴史が続きました。しかし、2011年より正確な疫学調査が実施され、遺伝要因は約37%(糖尿病・ガン・高血圧などの疾患でも遺伝要因が関与)、残りの63%は環境要因であると報告されています。

 発達障害の原因となる環境要因は、出産前後・養育期のトラブル、母体や新生児期の感染症、両親の高齢化など多様ですが、なかでもこの半世紀に急増した有害な化学物質が疑われています。脳の発達に有害な化学物質としては、PCBなど残留性有機汚染物質、環境ホルモン、農薬、重金属、大気汚染物質などが学術論文で報告されています。脳が発達する時期に有害な化学物質が脳に侵入すると、脳の発達が撹乱・阻害され障害が起きると考えられるのです。

有害化学物質が脳を撹乱

 脳にはたくさんの神経細胞がシナプスで結合して神経回路をつくり、機能を担っています。自閉症では、脳のシナプス形成・神経回路形成に異常が起こり、社会性などを担う神経回路に対応した機能が正しく働かないと考えられています(他の発達障害も同様のメカニズムが考えられています)。脳の発達は胎児期に脳幹など生命の維持に関わる本能的な神経回路が形成され、生後に高次機能を担う大脳皮質の神経回路が形成(主に乳幼児期)されます。シナプス形成・神経回路形成が正常に発達するには、多数の遺伝子がホルモンや神経伝達物質などにより精微に調節されて働くことが必要です。農薬や環境ホルモンなどの有害な化学物質は、このホルモンや神経伝達物質の働きを攪乱・阻害することが科学的にわかってきています。

 農薬のなかでも殺虫剤は、脳神経系を標的にしているので、脳の発達に悪影響を及ぼす可能性が高いのです。殺虫剤の標的となる神経伝達物質は、人と昆虫ではまったく同じで、その受容体も似た構造なので、人間にも影響を及ぼすと考えられます。

 2010年頃から、有機リン系殺虫剤のばく露が脳の発達に悪影響を及ぼす、という論文が多数発表されました。有機リン系農薬はその毒性から欧米では使用されなくなってきていますが、日本ではいまだに多用されています。現在、日本で使用されている殺虫剤は、有機リン系が1位ですが、1980年頃から減少傾向になり、ネオニコチノイド系(以下、ネオニコ系)が2位で使用量が急増、ともに神経伝達物質アセチルコリンを介した神経伝達系を標的にしています。

 アセチルコリンとその受容体の一種、ニコチン性アセチルコリン受容体(以下、ニコチン性受容体)は脳神経系で重要な働きをし、とりわけ発達期の脳で成人よりも多く存在して、シナプス形成や神経回路形成を担っています。ネオニコ系は、子どもの発達に悪影響を及ぼすニコチンと類似構造をもつので、影響が懸念されます。動物実験では低用量を母体経由でばく露すると、生まれた雄仔マウスで行動異常が確認され、同様の実験結果が多数報告されています。さらにニコチン性受容体は脳神経系以外の組織でも重要で、ネオニコが免疫系や生殖系にも悪影響を及ぼすことが明らかになっています。

子どもの脳を守るために

 最近の論文で、日本の3歳児(2012〜13年、223人)の尿中には、有機リン系、ピレスロイド系が100%、ネオニコ系が79.88%検出され、日常的に複数の農薬にばく露していることがわかりました。農薬が子どもの脳発達に悪影響を及ぼすという研究は多数あることから、米国小児科学会や世界産婦人科連合では公式に農薬の危険性を警告しています。2008年、OECD加盟国の農地単位面積当たりの農薬使用量と各国の自閉症の有病率(2012年国際学術誌から)を調べてみたところ、上位4ヵ国が一致し、上位から韓国、日本、イギリス、アメリカでした。これは因果関係を示すものではありませんが、農薬汚染が子どもの脳の発達を侵害し、自閉症など発達障害児の増加をもたらした要因である可能性があります。日本ではネオニコ系農薬の使用量増加と並行して発達障害が急増し、影響が危惧されます。

 「子どもの健康をどう守るか、少しでも危険とわかった段階で避けることが重要です。ネオニコフリーだけでなく、有機・無農薬野菜を食べればばく露が防げます。農薬全般の削減が急務です」と木村-黒田さんは締めくくりました。

コープ自然派は「ネオニコやめて」署名にも取り組みました。

Table Vol.376(2018年10月)

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