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食と農と環境

ネオニコ農薬の生態系と人体への影響 ~ネオニコフリー想いをつなぐ学習会2018~

コープ自然派ではネオニコチノイド系農薬を使わない取り組みをすすめています。
2018年7月30日(月)、生協ネットワーク21に加盟する11の生協が連携し、一般社団法人アクト・ビヨンド・トラストの助成を受けて第2回目の学習会を開催しました。

開会挨拶はコープ自然派事業連合商品委員会・辰巳委員長(コープ自然派奈良理事長)。

明らかなネオニコの毒性

農作業で日焼けし、エネルギッシュにネオニコチノイド系農薬の危険性を訴える中下裕子さん。

 弁護士・中下裕子さん(NPO法人「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」事務局長)は、ネオニコチノイド系農薬(以下、ネオニコ農薬)による生態系と人体への影響、そして、使用・規制の現状と課題について講演。中下さんが代表を務めるNPO法人「ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議」は、「地球上のあらゆる生物の種の存続の危機を避け、子どもたちの未来を取り戻したい」との思いから、全国の女性弁護士158名が呼びかけ、さまざまなジャンルの専門家50名の発起人がこれに応えて1998年9月に結成されました。

 中下さんは弁護士としての仕事の傍ら、約360坪の畑で有機農業を行っています。2009年、菜の花畑を訪れた中下さんはいつもと雰囲気が違うことに気づきました。ミツバチやチョウなど生きものたちの息づかいがまったく感じられないのです。まさに、レイチェル・カーソン著「沈黙の春」の光景を目の当たりにして中下さんは大きな衝撃を受けました。

 1990年初めから、ヨーロッパ諸国でミツバチの大量失踪が問題となり、2009年には日本の各地でもミツバチの被害が相次いで報告されます。ミツバチ大量失踪の原因としては複合的な原因があげられていますが、ネオニコ農薬が原因だとする説でほぼ決着しました。ネオニコ農薬のばく露でミツバチが行動異常を起こし、巣に帰れなくなるケースが増えるようになりました。次いで、女王バチの減少により群れが崩壊します。日本でもミツバチ大量死は各地で報告され、大量死したミツバチからネオニコ農薬が検出されました。2012年、世界的な科学誌「サイエンス」(米国)や「ネイチャー」(英国)は、ネオニコ農薬とミツバチ大量死を結びつける3つの論文を掲載しています。

日本は世界の動きと逆行 

 ネオニコ農薬は、有機リン系農薬に代わる新しい農薬として1900年代になって開発された殺虫剤。特徴としては浸透性にすぐれ、種子を浸すと根・茎・葉・果実などあらゆる組織に運ばれて虫を防除します。また、残効性が高く、地中に長期に残留します。さらに、体内の機能を制御する神経系のなかで重要な働きをするアセチルコリン受容体に作用します。当初、ネオニコ農薬は虫によく効くけれど人には安全、無臭・無色で環境保全型農薬であるなどの「神話」がつくられましたが、現実は複合毒性が強く、ネオニコ農薬と他の農薬やある種の殺菌剤を混ぜると相乗効果で毒性が1000倍にも増幅されます。また、人の体内に入ると強い毒性を発揮し、昆虫や鳥類などにも悪影響を与え、チョウなど訪花性昆虫の激減、赤トンボや水生生物の激減、鳥類の減少など生態系への悪影響は深刻です。

 2013年、EUではネオニコ農薬のイミダクロプリド、クロチアニジン、チアメトキサムを暫定的に使用禁止、2018年にはこれら3種のネオニコ農薬の屋外使用禁止を決定しました。フランスでは2016年、すべてのネオニコ農薬とフィプロニルの使用を禁止、米国やカナダでも次々と規制が行われていますが、日本はネオニコ農薬散布時には養蜂家と協議するようにとの行政指導のみ。農協はネオニコ農薬を使用すれば省力化でき、農薬の散布回数・量を削減できるなどの理由で推奨しています。また、日本では残留農薬基準がさらに緩和され、ネオニコ農薬の使用は急増、欧米では使用されなくなってきている有機リン系殺虫剤も使用しています。ネオニコ農薬は農作物だけでなく、松枯れ防除のための散布や家庭用殺虫剤、白アリ駆除剤、ペットのノミ取り剤、住宅の合板フローリング、断熱材、土壌処理剤などにも多用されています。

早急にネオニコフリーへ

 海外の数多くの研究では、農薬との関連が疑われる病気として、喘息、学習障害、自閉症、発達障害、先天奇形、生殖機能の異常、糖尿病、パーキンソン病、アルツハイマー病、がんなどを挙げています。子どもへの影響についてもさまざまなデータが相次いで報告され、2012年11月、米国小児科学会は子どもの農薬ばく露を減らすべきとの声明を発しました。

 そんななか、日本でも各地で脱ネオニコの動きが始まっています。長野県上田市、千曲市、茨城県笠岡市などで農薬の空中散布の中止・縮小、民間稲作研究所(栃木県)では脱ネオニコで特別栽培農作物を生産、群馬県渋川市などでは有機リン、ネオニコ農薬を使用しない農作物の認定制度の創設、また、コープ自然派やアイコープみやぎ、よつ葉生協など生協の脱ネオニコへの取り組み、佐渡市(新潟県)、豊岡市(兵庫県)、小松島市(徳島県)などがトキ、コウノトリ、ツルを守るために脱ネオニコに取り組んでいます。

 「ネオニコ農薬をこのまま使用し続けると、生態系や子どもたちの発達に取り返しのつかない事態になりかねません。日本でも1日も早くネオニコ農薬規制が導入されるよう働きかけましょう。自治体レベルでの脱ネオニコの取り組みを推進しましょう」と中下さんは話します。

Table Vol.375(2018年9月)

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