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食と農と環境

コープ自然派の理念を実現するために(コープ自然派事業連合・元理事長 小泉佳久さん)

生協化から35年以上コープ自然派を牽引してきたコープ自然派事業連合・元理事長の小泉佳久さんに、事業面を中心に生協にとって大切なことは何かを聞きました。

コープ自然派事業連合元理事長の小泉佳久さん。

状況分析はなぜ必要なのか?

小泉 コープ自然派の議案書はいつも国際状況の分析から入ります。なぜかというと、食べるということは極めて政治的な行為だからです。食料自給率が低い日本は輸入しないと食べていくことができません。だからこそコープ自然派は国内の農業の育成と発展を高らかに掲げています。しかし、自給できていない68%をどこから輸入するのか。距離の近い韓国や中国から輸入する方がいいですが、実際には遠いアメリカなどから輸入しており政治が密接に関わっています。状況をきちんと見ながら自分たちはどうなのかとコープ自然派に引き寄せて考え、手を打つことが必要です。
 例えば、2008年のリーマンショックで一般消費は大きく落ち込みましたが、食材セットを開発し、翌年にはぷらす便(週2回配送)を始めることで食材セットの供給は1・5 倍になり、事業伸長を続けることができました。東日本大震災後には、テレビCMで「コープ自然派は原発に反対しています」「放射能検査をしています」というテロップを流したいとテレビ局と掛け合いましたが、原発に反対するテレビ放映は認められませんでした。そこで、この人が立っているだけで原発反対がわかるような人をと山本太郎さんをCMに起用。まだ国会議員ではなかった山本太郎さんに野菜を食べてもらうCMを流すことでコープ自然派の姿勢を知らせた結果、確信を持つ組合員が大勢加入しました。そして、消費税8%増税時には直営のパン工房を設立。そのように世の中の状況を分析し、対策を講じてきました。

世界の動きを知ること

小泉 ウクライナへのロシア武力侵攻は3年目に入り、イスラエル軍によるガザへのジェノサイド攻撃は悪化するばかりで国連への無力感が増しています。稼働中の原発が武力攻撃を受け、核兵器を使用するという発言もありました。最大の環境破壊は戦争と原発事故です。と同時に、世界規模で小麦が不足し輸入小麦が高騰しました。中東で問題が起きると燃料費が上がり、すべての物価上昇を覚悟しなくてはいけません。
 この時にどうしたのかというと、みんなで議論し、組合員に届けるパンの価格を上げたくないと、すぐに北海道に調べに行きました。すると国産小麦は値上がりの風潮から買い控えと売り控えが起きていて、次に収穫する小麦が倉庫に入らないほど在庫が溜まっていました。そこで1年分300トンの国産小麦を産地と直接契約し、日本中が小麦不足で大騒ぎになる中で無事にパンを供給することができました。

地球環境の変化と食料自給

小泉 気候変動が起きて異様な雨や洪水が頻発し、気温も異常で農作物の産地や収穫時期に大きな変化が起きています。どの作物が育つのかは積算温度で決まるため、北海道で大豆や小麦、蕎麦、米が生産できるようになりました。一昔前まで北海道ではおいしい米は作れませんでしたが、いまでは一等品ができています。
 日本の耕作放棄地は埼玉県の広さに相当するといわれていますが、北海道には耕作放棄地はほぼありません。畑の単位も大きく、有機小麦の生産者である今城さんは200haという広大な畑を家族で営農しています。温暖化の影響によって、よつ葉乳業や大豆を生産する渡部さんなどを含め食料自給における北海道の可能性はますます高まっていくでしょう。

今後、コープ自然派の供給事業は?

小泉 日本は国際競争力が落ち、26年間不況が続いています。急激な円安がすすんで輸入品が高騰し、物価の上昇により実質賃金が減って困窮世帯が増加し、子ども食堂も増えています。本来は子ども食堂などいらない社会になるべきです。そして、少子高齢化と人口減少で労働可能人口が大幅に減って高齢者や女性が働くようになり、今後ますます共働き世帯が増加していきます。時間をお金で買いたいという時代に、保育園から帰ってすぐに子どもに食べさせてあげられるものや食材セットや冷凍食品、私たちはそういうことをきちんと考えながらやっていく必要があります。
 これから生協は厳しい時代がきます。4年間にわたるコロナ禍を通して宅配は非常に伸び、生協宅配の社会インフラとしての評価が復活しましたが、若い世代を中心としてネットスーパーが定着し、大手流通がネットスーパーを成長戦略と位置付けて積極的に展開しています。生協のノウハウを取り込みながら巨大な物流センターでピッキングして届けるという方式がすでに始まっておりすぐに持ってきてくれて商品の選択肢も多いネットスーパーの利用者は30〜40歳代の子育て世代が中心です。それに対して全国の生協の宅配利用者は50歳以上が70%。これまで生協の競争相手は同地域の生協でしたが、理念を追求しつつ共働き世代のニーズにどう応えていくのかを考えていくべきでしょ
う。

基本は、情報公開と組合員主権

小泉 生協の基本は、情報公開と組合員主権です。情報の公開がない限り民主主義など機能しません。民主主義というのは1789年のフランス革命で初めて出てきた考え方で、生協がイギリスのロッジデールで誕生したのはフランス革命の50年後。生協は自由、平等、他者への思いやりを組織運営の要としています。これが民主主義です。歴史的にそれまでは自由・平等などという概念はなく、だからこそ私たちは大事にする必要があります。日本は民主主義が崩壊し始めていることを考えていくべきだと思います。
 また、組合員のほとんどは女性で、働いている人も女性が圧倒的に多いにも関わらず幹部職員は男性です。やはり女性理事長と女性専務というのは大事なことではないでしょうか。議員の一定割合を女性にするクオータ制も導入され始めています。大学入試の女性枠などに対して逆差別という言葉をよく耳にしますが、差別があるという社会構造を理解すれば、逆差別というものはないことがわかります。生協の民主主義はどうあるべきなのか、組合員理事はどうあるべきなのか、専門的な知識を学んでスキルを上げる学習の機会を増やしていくべきでしょう。
 そして、何よりも大切なのが議論することです。議論を止めない限りは、多少間違っても大きく誤ることはないだろうと思っています。

地球規模の環境破壊を止めようと汚染水海洋放出反対アピールを続けています。国内ではほとんど報道されませんが周辺諸国は事態を注視しています。

コープ自然派の可能性

小泉 コープ自然派は一般社団法人・日本有機加工食品コンソーシアムを立ち上げ、国産オーガニックの最先頭を走っています。有機栽培と一般の原料価格差のみを価格に反映した調味料の開発は画期的な取り組みです。ただ、ここで考えなければいけないのは、オーガニックといった途端に国籍がなくなること。いかに有機農業を広げて食も農業も環境も守るのか、そのための工夫を考えていく必要があります。100%オーガニックではなくても、アメリカではmaid with organicという70%オーガニックもあります。
 生協は、いきなり一般流通に乗せるにはハードルが高い場合も組合員に告知して生産者のチャレンジを応援できる、まさに国産オーガニックを育てるマザーマーケットです。そして、高齢化社会に向けて社会福祉法人を持っていることも今後への希望です。障がい者介護に加えて、高齢者介護もすすめていく必要があるでしょう。
 コープ自然派事業連合は有機農業運動や脱原発といった共通の遺伝子を持つ共同購入会が中心となって設立されました。今後も同じ遺伝子を持つ生協間で仲間として事業と活動を拡げていってください。
 時代はコープ自然派がめざす方向に追いついてきています。偶然(たまたま)に頼らないコープ自然派理念実現への一歩をすすめ、地域に貢献する生協として発展していくことを期待しています。

Table Vol.500(2024年4月)

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