2023年6月9日~10日、コープ自然派事業連合産直委員会は、信州北八ヶ岳にあるのらくら農場と、志賀高原のりんご生産者・株式会社あくと(旧・自由個性集団あくと)を訪問するツアーを開催。「産直の原点」に立ち戻り、産地とつながりさまざまな課題を解決していくために何ができるかを語り合う2日間でした。今回は、りんご生産者・株式会社あくとをご紹介します。
あくと×コープ自然派
1970年代、『複合汚染(有吉佐和子著)』や『沈黙の春(レイチェル・カーソン著)』をきっかけに有機リン剤などの農薬が人体や環境に与える影響が社会問題となりました。その時代の先駆者として減農薬栽培に挑戦し、農協など大きな組織に頼らず自分たちの作物は自分たちで販売しようと若手農家が立ち上がりました。それが「あくと」の始まりです。
同時期にできたコープ自然派の前身「よつ葉牛乳関西共同購入会」は、よつ葉牛乳に続いてあくとのりんごの取り扱いを始め40年以上のお付き合いです。そして、自然循環を大切にする生活を取り戻すために公害や原発はあってはならないと「水俣の甘夏」や「西海漁協の魚」などを産直することで支援してきました。
ネオニコチノイド系農薬不使用( ネオニコフリー) に挑戦
あくとは2016年、子どもたちの未来のためにネオニコフリーりんごの栽培をスタートしました。ネオニコは残効性の高い殺虫剤で、環境や生態系にさまざまな影響を及ぼします。あくとの堀米さんは「農薬を使うと虫も草も死ぬけど、微生物も土も死ぬ。だから使わない。見た目より安全を重視した自然に任せた栽培をしている」と話します。りんごと共に生きてきたからこその言葉です。
りんごの木はしっかりと実が収穫できるまで10年近くもかかり、年に一度の実りのために日々の管理が欠かせません。経済寿命は30年。農薬を使えば管理が楽で、見た目がきれいなりんごが作れますが、ネオニコフリーは次世代への責任と義務だと大地に足をつけて農業に向き合っています。
生協として、生産者の取り組みを組織的に支える仕組みづくりが大切です。畑でできたものを余すことなく活用することは、安心安全な食べものづくりを支えていく大切な要素。ネオニコフリーで育てるとどうしても見た目の悪いりんごが増えますが、見た目で選ぶのか、中身やおいしさで選ぶのかが問われます。理解し、買い支える人を増やすこと。そして、ネオニコフリーを共通課題とする生協ネットワーク21とも連携して購入者を増やしています。規格外で流通できないりんごは自然派Style国産りんごジャムとしてカタログに登場しています。
りんご畑が想像できる消費者へ
青空の下、広大な畑に悠々と立つりんごの木は圧巻です。6月は摘果真っただ中、りんごの赤ちゃんが大粒のぶどうのようにたわわに実っています。形が良いりんごになるのは中心果。摘果は手作業のため、1日に5本程度が限度です。元気な樹を育てるには収穫後から始まる施肥が重要ですが、どれだけ手をかけても昨今の異常気象と病害虫でさまざまな被害が出るため、農薬使用量をなかなか削減することができません。
あくとの佐藤さんは、物理学者である武谷三男さんの言葉を紹介し「安全性は数値で表すことはできません。人間には認識の限界や想いがあります。安全性とは許容量であり、社会的行為です。顔を合わせ、お互いの現場・生活を知ることが基本で、それが理解を深め合い安全性を求める指標になる」と話します。消費者は農薬削減をお願いするだけでなく、産地交流を通して相互理解を深めることが求められます。誰もが産地へ赴くことはできませんが、現場を想像することはできます。それがお互いに理解し合い、高め合える関係を保ち続けることにつながるのではないでしょうか。
Table Vol.493(2023年9月)