「2022年度北海道・国産有機小麦アンバサダー」ツアーでは、栽培技術と食品市場について3名の講師から話を聴き、生産者・メーカー・消費者によるトークセッションで議論を深めました。今回は、北海道農業研究センター・池田成志さんによる学習会「共生科学の視点から考える畑作有機栽培の可能性と国内外の研究情勢について」を紹介します。
有機農業で微生物と共生
4〜5億年前、植物が海から陸へ移動した時期、現在のような土壌はなく、植物は土壌微生物と根で共生することで土から養分を吸収できるようになりました。しかし、植物に化学肥料を与えると微生物を経由して土壌中の養分を吸収する必要がなくなり、植物は微生物と共生しなくなります。微生物には植物を病虫害から守る役割もあるため、微生物と共生していない植物には農薬が必要になり、さらに農薬が微生物を殺すという悪循環に陥ります。
また、日照条件が植物の微生物との共生、土壌の養分の吸収、免疫力の活性化に大きく影響します。他の植物の葉の陰に位置する植物では、光合成に使われる光が上部の葉に吸収されるため、徒長という植物の茎や枝が必要以上に伸びる現象が発生。日陰にある植物が光を求めて背伸びするためですが、無理をしている状態なので、免疫や抵抗性が落ちて病虫害が発生しやすくなるということです。畑の周辺が街灯などで夜間も常に明るいと光害の影響を受け、農作物の生理生態的反応や日長反応、生物時計等を撹乱し、病虫害への抵抗性や健全な成育が阻害されます。真っ暗な環境も貴重な資源だということです。
北海道有機農業の可能性
北海道は気象条件や広大な農地など有機農業に適した土地があり、これらの気象・栽培体系が有機農業先進国の欧米に似ているため、最先端の海外研究成果の活用が期待できます。
降水量の多い日本は土壌の過湿による病虫害の発生や根腐れがおきやすい地域です。北海道でも温暖化がすすみ雨量が増え、いかに土壌と農作物を乾燥させるかが課題になってきました。土壌と植物を乾燥させるには、南または西向きの緩やかな傾斜地を利用したり、午後からの日射や夕陽が差し込むよう畑の環境を整えることが必要です。土壌水分の多い場所では周囲に深根性(根が下向きに伸びる性質)の緑肥・樹木を栽培したり、土壌に乾燥・通気用の竪穴をつくる方法もあります。定期的な炭の施用も効果的で、炭は土壌に残留する化学肥料・化学農薬の悪影響を抑制するなどさまざまな効果が期待できます。しかし、炭の原材料となる木材に住宅廃材を使用する悪徳業者がいるという話もあり、接着剤や防腐剤など発ガン性物質が含まれる恐れがあることから、住宅廃材由来や品質不明の炭は気をつけなければなりません。一方、作物残渣や食品廃棄物は炭・堆肥等に利用するとカリウムや各種ミネラルを含み、雑草とともに有機物の堆肥化に利用することをすすめます。
天敵のための環境保全
有機農業による土づくりで病害は軽減しますが、土づくりだけでは虫害の抑制は難しいことがわかってきました。大豆の間にトウモロコシを植える間植を行い害虫が飛ぶのを邪魔して被害を抑える方法、また、畑の周囲や内部の被覆作物の栽培によって害虫の天敵を増やす天敵農法、畑の周囲に草丈の高い緑肥作物を栽培し外から害虫の侵入を防ぐ方法などがあります。天敵生物を活用するための環境保全には、畑の畦や通路は除草剤を使わない、じゃがいも・大豆・小麦等をストライプ状に栽培し、それらの作物の間に草花を植えるフラワーストリップスの設置や、畑の周囲に花が咲く草木の栽培、土着の有用生物を定着させるために草刈りや耕起しない場所をつくることなどが有効です。「農地以外の土地では除草剤の散布が規制されていないので、畦や防風林帯、市街地、自然の森林や草地等で多用され大規模な地球環境破壊の主因となっています。ミツバチなどの生物が農薬に汚染されて弱り、そのため、病原菌が増え、昆虫が運ぶ微生物も虫と一緒に死滅します。家庭菜園やガーデニングなどでもできるだけ農薬は使わないでください。有用微生物の作物への影響を考え、畑の周囲にある自然環境も大切にし、土・虫・微生物を農業の味方にする栽培環境をつくることが重要です」と池田さんは話しました。
Vol.473(2022年10月)より
一部修正・加筆