2023年6月9日(金)〜10日(土)、コープ自然派事業連合産直委員会は、信州北八ヶ岳にあるのらくら農場と、志賀高原のりんご生産者・株式会社あくと(旧・自由個性集団あくと)を訪問するツアーを開催。「産直の原点」に立ち戻り、産地とつながりさまざまな課題を解決していくために三位一体となって何ができるのかを語り合う2日間でした。今回は、のらくら農場訪問をご紹介します。
農業の中でどれだけ良いシーンをつくれるか
「のらりくらり 野良でくらそう。」これが「のらくら農場」の由来です。代表の萩原さんご夫婦は1998年に標高1000mの長野県佐久穂町で就農し、75aから始めた農場は現在約7.5haとなり、年間50〜60品目の作物を有機栽培しています。ハイシーズンになると多くのスタッフとともに作業をします。求人誌によくある”誰でもできる簡単な仕事”はなく、”複雑で体力も頭も使う仕事”に魅力を感じて異業種から集まった若者たちです。のらくら農場は農業という職種を超えて、そこに息づく文化として選ばれます。農作業をみんなのものにするため、「暗黙知」から「集合知」へ。そして横に立つコミュニケーションでお互いの立場を思いやってクリエイティブに未来を創るチーム経営で農業をおもしろいものへと変化させています。
UMAMI VEGETABLES
「今年は素敵な野菜の小分け袋ができました。3〜5分でできる、どうしても作ってほしいレシピを載せています。」 と、萩原さんはまかないから生まれるレシピの話をします。その時採れた野菜をその日の作業や天候に合わせ調理することで、体に染み込みます。「畑を食べるまかない」はテイスティングであり、食べ方の発見です。
人気野菜のケールは濃い旨みで苦みはほとんどありません。生でシャキッといただくのはもちろん、炊きたてごはんにケールとたくあんをまぜて食べるのが萩原さんのおすすめ。のらくら農場がつくるケールは抗酸化力が高く、栄養価コンテスト(2023年から身体に美味しい農産物コンテストに名称変更)4連覇を果たすほど。このおいしさをつくるには土づくりが重要で、野菜のおいしさは栄養価と密接なつながりがあります。
生で食べてもエグみがなく香り高い春菊はサラダにも良し、塩もみした春菊を蕎麦にどっさり乗せて麺つゆ、粉チーズ、オリーブオイルをかけると衝撃のおいしさ。三つ葉は市場の99%が水耕栽培ですが、山の三つ葉を食べて感動した萩原さんが栽培法を研究したという土耕栽培の三つ葉は脇役にとどまりません。水菜の育種も順調にすすんでいます。10年以上前に廃番になった「京菜」という水菜で、生でも煮ても出汁の出るようなおいしい水菜の復活が間近だそうです。
試食で感動したレシピは、長いものゴマ衣揚げと日野菜カブのソテー。長いもを適当な大きさに切り、ごまと塩をまぶし、片栗粉をつけて揚げます。日野菜ソテーは、油を引いたフライパンでニンニクと一緒にじっくりじっくり火を通し、塩胡椒をしてできあがりです。
あけた時のワクワクを届けよう
新築した広い出荷用倉庫に行くと、ケールの葉を1枚1枚丁寧にチェックし袋詰めをしていました。”開けた時のワクワクを届けよう”を合言葉にテキパキと笑顔で作業がすすんでいきます。野菜の出荷は手作業が多く、1日の60%を出荷作業に費やします。その時間を少しでも楽に過ごすために、倉庫の中はスタッフのアイデアで断熱対策がしてありました。倉庫で体力を温存し、畑で使います! 大きな冷蔵庫も導入され、流通過程での傷みを極力軽減します。
プロの農業スタッフの存在
出荷作業を見学していると赤ちゃんの泣き声が。長年のらくら農場で働く中心スタッフの長女、小春ちゃんです。職場復帰が早かったスタッフのために「この子のおむつはみんなで替えよう」と子連れ出勤で働いています。スタッフには、栽培技術や農業経営を学んで独立する人、チームメンバーとして働き続ける人などさまざまなタイプの人がいます。商品企画が1ヶ月前に決まってしまう生協のシステムに合う農家を考えたとき、おいしい野菜を欠品なく確実に届けるためには、たくさんのスタッフがいるチーム経営が対応力があるとのこと。
「その中にプロの農家スタッフがいることがとても大切で、そのスタッフたちが今後の日本の農業のキーマンになっていくと思っています」と萩原さんは話します。
奪いあうと足りなくなる、譲りあうと余る
グリーンランド、カタール、ロシアなど、畑80枚すべてに国名が付いています。訪れた居酒屋のテーブルにジャニーズの名前がついていて覚えやすいと感動し即実践!畑の立地や特徴を加味してふざけている感を大切に、誰でも覚えやすくしています。萩原さんは地域の新規就農第1号として地域のことは率先してやってきました。地道な努力と人柄で、地主や農家から土地を譲り受けることが増え、畑は山間に点々とあります。日向や日陰、肥沃な土地もそうでない土地も佐久穂共同出荷グループでシェアし交換することで作付けできる畑が拡がっています。
評論家ではなく解決者になろう
佐久穂共同出荷グループの4名のメンバーから、移住して就農し子育てをしながら一生懸命野菜を育てている等身大の話が語られました。さまざまな喜びも問題も、萩原さんとともに伴走し、今やれる人がやればいいとお互いに支え合い、問題解決へ。最強のグループ出荷がここにあります。
萩原さんが就農してから5つの大きな出来事がありました。リーマンショック、東日本大震災、台風19号、新型コロナウイルスの流行、資材高騰。中でも最大の荒波が資材高騰で、段ボールも何もかも2倍以上の高騰ですが、野菜の価格は下がっています。野菜の市場価格は適正なのでしょうか。コストが上がっても市場に野菜があふれれば、容赦なく価格は下がります。その仕組みの中で、組合員はどう考え、生協としてどのように対処して生産者に選ばれる生協でいられるのでしょうか。
農業はマイナスゲーム…。種の発芽率、生育中のリスク(動物の食害、害虫、病気、大雨、干ばつ、台風、霜や雹)、作業の成功率(取りきれない、管理が間に合わない、長雨で畑に入れない)、完売率(作った分の注文が来るか)、小分け時のロス率(規格、破損、虫食い)、運搬リスク(運搬時の高温・低温)を経て食卓へ。ひとつずつ解決するため、例えば「大きなかぶ」はおいしさは変わらず小分けのロス率を下げるために規格を変えたものです。雨は止めることはできませんが、排水ポンプは設置できます。それでも未曽有のコスト上昇は生産者だけで解決できることではありません。
次の時代のあるべき産直とは
生産者は今までの農業のイメージをブラッシュアップし、チーム経営、グループ出荷で次のステップにすすんでいます。連合産直委員会の辰巳委員長は「組合員として、生協として、次のあるべき産直の姿を模索し、やれることをやっていくことが求められています。組合員が農業を知って、食卓と産地が支え合う産直連携をすすめていきましょう」と締めくくりました。日本であるべき産直の姿を考え続けます。
Table Vol.492(2023年8月)