2023年5月29日、生協ネットワーク21連携第2回ネオニコフリー学習会がオンライン開催されました。講師は神戸大学大学院教授の星信彦さん。ネオニコ系農薬の脳神経への影響と農薬リスク評価の仕組みについて聴きました。
ネオニコとは
ネオニコ(ネオニコチノイド系農薬)は殺虫剤です。当初「虫には毒性が強いけれど人には安全」と売り出されましたが、人に対する影響についても研究が進み、神経発達や健康への影響が明らかになってきています。ネオニコは胎盤を通して瞬時に胎児へ移行し、濃縮されて母乳に移行することも分かっています。
「無毒性量」と「一日摂取許容量」の問題
農薬の場合、医薬品のような臨床試験は行われていません。ではどのように人に対する安全基準を決めているのでしょうか。農薬の「無毒性量(NOAEL)」とは、動物試験で有害な影響が認められない最大投与量のこと。「一日摂取許容量(ADI)」は、人が生涯にわたり毎日摂取し続けても有害作用を示さないとされている量のことで、無毒性量の100分の1としています。動物と人という種の差を考慮して10分の1とし、さらに個人差を考慮して10分の1とする、そのかけ算で100分の1にすれば大丈夫だろうという計算なのですが、ここに大きな問題があります。例えばTCCDというダイオキシンの一種に対する感受性は、モルモットとハムスターでは1万倍の差があり、同じ人でも成人と胎児や新生児では感受性に大きな差があります。動物実験で確認された無毒性量の100分の1なら人に対して安全であるとする科学的な根拠はありません。
そもそも、化学合成農薬が世に出てきてまだ70余年。人生100年と言われる時代に、どうして「生涯にわたり摂取しても安全」と言えるのでしょうか。
農薬リスク評価の問題点
毒性試験の評価項目にも問題があります。毒性試験の規準とするOECDガイドラインは、国際比較を可能にするため限定的で古い一般的な方法が用いられており、発達神経毒性試験は任意項目です。星さんたちの行った動物実験では、ネオニコの脳の神経回路への影響や、遺伝子の発現に影響を与え(エピゲノム変化)、子や孫の世代にも影響することが確認されていますが、リスク評価には行動試験やゲノム・エピゲノム毒性試験データはほぼ含まれていません。また、農薬原体よりも毒性が強くなりうる代謝物や補助剤には対応していません。
星さんは、「リスク評価が変わらない限り、農薬の問題はいたちごっこ。ネオニコが禁止されたとしても違う新しい農薬が出てくるだけ。リスク評価の方法自体を変えなくてはいけない」と言います。日本のPRTM(化学物質排出移動量届出制度)では、対象物質の3分の1が農薬であるにもかかわらず、家庭や農地は届出制度の対象外です。その結果、ネオニコは無制限に公共用水域に排出され、土壌や地下水を介して植物や河川に移行して環境中に拡散し、水道水からも検出されています。
農薬取締法改正に伴い、昨年から農薬再評価が始まっていますが、リスク評価に使用する公表論文の適合性や信頼性の確認が審査をされる側の農薬企業に委ねられ、有益な論文がリスク評価の対象とならない可能性が出てきています。
消費者力で社会を変えよう
ネオニコは代謝が早い物質です。ネオニコのひとつクロチアニジンは約1日で体内から消えますし、1ヶ月間オーガニックの食事を続けると体内のネオニコはほぼゼロになるという研究結果もあります。星さんは「まずは知ることが大切。消費者が選ぶことで社会は変わります」と。有機食材を食べて体を守りながら、農薬リスク評価の改善に取り組んでいきましょう。
Youtube「みんなで選ぼうネオニコフリー!」
YouTube「子どもたちのためにネオニコフリー!その2」
Table Vol.492(2023年8月)