平田産業に続いて訪問した「藤井養蜂場」(福岡県朝倉市)では、はちみつの品質検査の大切さや海外のオーガニックはちみつについてお話を聴きました。
はちみつの品質検査と安全性
1909年創業、藤井養蜂場ははちみつの生産をはじめ、養蜂家の育成や養蜂家への資材の販売、農家へのミツバチの貸し出し・販売(農作物の花粉交配用)を行っています。養蜂家の育成は約5年を要し、取り組みが始まった1950年から現在まで40名以上を輩出。日本の養蜂業は巣箱を置く場所などの決まりがあり、新規参入する養蜂家は蜂場(ミツバチを配置する場所)を確保するのが難しく、家業が養蜂業でない場合、親方などから蜂場を分けてもらう・引き継ぐことが慣例になっています。
現在、国内のミツバチの飼育戸数は10年前の約2倍に増加、はちみつの生産量はほぼ横ばいながら、小規模養蜂家の増加とともに直売所などで売られる商品が増えています。趣味・副業で行う養蜂家の製品も同様に販売され、その中には品質管理や安全性の確保が不明なものが混在し、採れたはちみつ蜜をビンに詰めただけの商品が売られているものもあるということです。
2017年、東北から沖縄の各都県で28製品のはちみつ、38地点のミツバチ、7地点のサナギにネオニコチノイド系農薬が検出されたことが公表されました。はちみつはネオニコチノイド系農薬の残留基準が定められていませんが、その他の農薬に適用される国の暫定基準を18製品で超えており、日本各地のはちみつやミツバチ、さなぎが、ネオニコチノイド系農薬に広く汚染されていることが明らかになりました。
また、抗菌成分を含むことで人気があるマヌカハニーは、人為的な抗菌物質の添加などの偽装が国際的に問題になっています。抗菌物のMG値が高いほど高価格で販売され、成分含有量の誤りや抗菌物質の人為的な添加もあるとのこと。また、ローハニーや生ハチミツなどの非加熱蜂蜜も人気がありますが、全国はちみつ公正取引協議会では非加熱蜂蜜の定義がされていません。非加熱蜂蜜を販売しているサイトでは、非加熱の定義が曖昧で販売歴史が浅い会社が多い傾向にあります。
藤井養蜂場には日本各地や世界中からはちみつが入荷し、缶ごとに通し番号が付けられ原料倉庫に保管。1缶ずつサンプリングし、自社研究室で糖分析、抗生物質検査などの厳格な品質検査により安全性を証明。いつ、どの農場で採られて入荷したかなどの記録文書を消費者に開示しています。
自然保護区のオーガニック蜂蜜
藤井養蜂場は、世界中の個性的な養蜂家が生産したオーガニックはちみつも輸入しています。オーガニックはちみつの取り扱いは「平田産業さんからカンガルー島を紹介していただいたことがきっかけになった」と藤井徹三さんは話します。
1885年、南オーストラリア州・カンガルー島はリグリアンという種類のミツバチの保護区として法制定されました。ミツバチの病気や感染を防ぐためにミツバチ、蜂蜜、花粉、養蜂器具など島への持ち込み一切禁止。オーストラリア本島から離れているため、開発や外来種による影響を受けず、国立公園と23の自然保護区には貴重な動植物が多数生息しています。そのため、リグリアンミツバチの純血種が守られ、現在までミツバチの病気が発生していない世界で大変貴重な島です。
「カンガルー島のオーガニック蜂蜜」は、南オーストラリア州を本拠地とする有機農産物の認証機関「NASAA」の有機認証を取得しています。その内容は、ミツバチの病歴がない、ミツバチの巣箱から半径5㎞以内に人工的な設備を含み何もないこと、生産時の蜂蜜を45℃未満の処理で採蜜すること、その他ミツバチのエサ、飲水、移動経路などすべて管理していることが条件です。南オーストラリア州・カンガルー島は面積の半分が自然保護区で立入禁止のため、保護区の境目に巣箱を置きます。8種類のユーカリの花から採蜜し、糖度が約82度になるまで巣箱で約2か月間熟成。春に採れる蜂蜜は「カップガム」という淡い色、秋冬にはより濃く深みのある味わいの「ダークストロング」になります。藤井さんは「オーストラリアでは糖度が高いほど価値が高いとされます。不純物を取り除くための網で濾したところ、濃度が高過ぎて網を通らないほど。糖度78~79度の日本の一般的なはちみつはオーストラリア人にとっては水っぽく感じるんだそうです」とカンガルー島のオーガニック蜂蜜の濃厚な味わいを話してくれました。
Table Vol.411(2020年3月)より一部修正・加筆