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食と農と環境

迫る食料危機!!食と農を守るために何ができる?②

鈴木宣弘さんは近著『世界で最初に飢えるのは日本』(講談社+α新書・2022年11月6日第1刷発行・現在第8刷)で日本の食料問題に警鐘を鳴らしています。

「国際的な物流停止による世界の餓死者が日本に集中する」という衝撃的な研究成果を朝日新聞が報じました(2022年8月20日)。37.1%という日本の食料自給率は海外依存度を考慮すれば実質的な食料自給率は10%にも届かないということです。2023年4月2日(日)、コープ自然派おおさか(理事会主催)は迫りくる日本の食料危機について鈴木宣弘さん(東京大学大学院教授)に聴きました。オンラインTableでは、2回に分けてその内容をお伝えします。

米国の圧力で生産が激減

 食料自給率の低下は食生活の変化によるものだと言われます。しかし、本当は、米国の要請で貿易自由化をすすめ、日本の農業を弱体化させる政策を採ったからだと鈴木さんは言います。江戸時代は鎖国政策だったので自給率100%、地域の資源を徹底的に利用して循環型経済をつくり上げ、ヨーロッパ人を驚嘆させました。

 それを破壊したのが戦後の食料難と米国の余剰穀物処理対策でした。大豆、トウモロコシ、小麦など米国の余剰穀物は実質的関税撤廃で輸入され日本の生産基盤は壊滅。現在、小麦85%、大豆94%、トウモロコシ100%を輸入しています。1958年には「米を食うとバカになる」という主張が掲載された『頭脳-才能をひきだす処方箋』という本が大ベストセラーになり、食生活の変化に拍車をかけました。

世界に逆行する農薬基準

 輸入食品の安全性についてはさまざまな問題があります。成長ホルモンを使った牛肉が検査の緩い日本へ大量に輸出され、発がんリスクのある成長ホルモン剤(モンサント社開発のrBGH、rBST)を投与した乳牛の乳製品が出回っています。また遺伝子組み換え種子とセット販売されることの多い除草剤グリホサート(「ラウンドアップ」の主成分)は、収穫前に乾燥目的で散布され、カナダ・米国産輸入小麦のほとんどから残留農薬を検出。発がん性ありとの判断から訴訟も起き、世界各国で規制が始まっているのに逆行し、日本は2017年に残留基準値を大幅に緩和しています(2023年米国では一般向け販売を終了)。

 さらに、実質的に遺伝子組み換え表示ができなくなり、消費者が選択できなくなりました。また、日本政府はゲノム編集食品を安全審査の必要なし・届け出は任意として、完全に野放しにしました。「米国の占領政策および洗脳政策は形を変えて今なお続いているといっても過言ではありません。政府は日本人の健康を守るための基準を米国の意向で変えているのでしょうか。国産だから大丈夫だという基準は崩れかけています。農水省が調べると世界でもっとも日本の農薬基準が緩かった。EUは禁止農薬をたくさん定め、在庫は日本向けにしています。中国はすぐ対応して今や有機農産物のEUへの輸出は世界一です。食の安全について日本の消費者はもっと真剣に考え、闘うべきではないでしょうか」と鈴木さんは話します。

学校給食をカギに

 学校給食に有機米・野菜を使うことは有機農業の拡大に効果を発揮し、地元の安全でおいしい有機作物は子どもたちへの「食育」になります。学校給食に有機米・野菜を届けるしくみをつくろうと自治体が農家から買い取る例もあります。千葉県いすみ市では市長の尽力で学校給食に地元の有機米を使っています。もともと地元に有機米はまったくなかったのを農家の研修を行うところから始めました。通常は2022年だと1俵9000円のところをいすみ市は1俵2万円で買い取ることで有機農業が一気に普及し、市内の学校給食はすべて有機米になりました。「いすみ市の負担は500万円〜700万円だということです。自治体が補助することで農家は頑張り、子どもたちは健康になり、商店街は元気になり、出生率も上がります。子どもたちにおいしい食べものを届けるしくみづくりは社会を活性化し良い循環を生みます。これを政府が率先してやるべきです」と鈴木さんは話します。

生産者と消費者が支え合う

 今、世界各国では食料戦略の転換がすすんでいます。取り残されつつある日本が起死回生として取り組むのが「みどりの食料システム戦略」です。このなかで2050年までに有機栽培面積を25%(100万ha)に拡大するという方針を掲げています。「海外から食料が入ってこなくても自分たちの命を守るためにできる限り有機栽培をすすめることを視野に入れなければなりません。ホンモノをつくってくれる生産者とホンモノを理解する消費者が支え合い、ネットワークを強化して発信していくことが大切です」と鈴木さん。そして、できる限り農業の現場を訪ね、産地と一体化してできることを増やしていこうと話します。「コープ自然派など生協のみなさんの活動は素晴らしいです。さらに連携を強化して、生産と消費をホンモノで結ぶ懸け橋となることを期待します。農産物の価格転嫁が大きな問題ですが、農家からはより高く、消費者にはより適正な価格で良い品質のものを届け、大手の不当な生産流通から農家と消費者を守るのは協同組合の役割です」と鈴木さんは結びました。


司会・進行を務めたコープ自然派おおさか・清水常任理事。

Table Vol.490(2023年6月)より
一部修正・加筆

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