アメリカの登山用品やアウトドアウェアなどを販売するパタゴニアが食と農を通して環境を変えようとしています。2023年3月3日(金)、コープ自然派おおさか(ビジョンくらす主催)は、パタゴニアプロビジョンズの近藤勝宏さんと黒川裕規さんを迎え、その経緯と展望を聴きました。
環境に配慮するきっかけ
1960年代、パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナードは、岩に打ち込んで安全を確保する登山道具「ピトン」をつくる会社を創業、その後、アメリカで1番のクライミング用品製造・供給元に成長します。しかし「ピトン」を売れば売るほど、岩場を傷つけてしまうと気づき、すぐに岩を傷つけない代替品をつくります。このことが環境問題への最初の気づきであり、アクションへのきっかけで、その後、パタゴニアは耐久性の高いアウトドアウェアを製作しています。
アウトドアスポーツが大好きな創業メンバーは、新しいアイデアが生まれるとすぐに世界中のフィールドへ試しに行きます。しかし、彼らが世界中で目にしたのは、ビジネスの成長とは逆に、変わり果てた自然の姿でした。もし地球の環境破壊がこのまますすめばビジネスどころか生活すらできなくなる、このことに真摯に向き合っていかなければならないとメンバーは確認。1980年代の終わりには、今後の行動指針を「最高の製品をつくり、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する」としました。
食のシステムを変革する
1980〜1990年代にかけて、経営陣がカリフォルニアのコットン農園へ行くと、大量の農薬が空中散布され、農家の人たちは毒ガスマスクをつけて作業していました。収穫時には枯葉剤を使用し、収穫後は何も育たない土を見て愕然とします。そこで、当時、パタゴニアの売り上げの約25%がコットン製品でしたが、100%オーガニックコットンに切り替えることを決断し、1994年秋から18ヵ月間かけてすべてオーガニックに切り替えました。
昨年9月15日、パタゴニアはさらに大きな決断をして多くのメディアに取り上げられました。「地球が私たちの唯一の株主だ」と、すべての株式30億ドル(4300億円)を地球を守るために使う非営利団体へ譲渡したのです。そして、これからの50年間をどのようにしていくかをスタッフ全員で考えました。
食べものが食卓に並ぶまでのプロセスは、生産、農薬や化学肥料、加工、冷蔵・冷凍を設備した物流環境など、巨大かつ複雑で地球への影響は甚大です。パタゴニアは食べものの生産方式を変えることが最善策と考え、2012年に食のビジネスをスタート。日本では2016年に食品事業を行う「パタゴニアプロビジョンズ」がスタートしました。創業者のイヴォン・シュイナードは「新しいジャケットは10年に1度しか買わない人も、1日3度の食事をするわれわれが本気で地球を守りたいのなら、それを始めるのは食べものだ」と語っています。
地球の7割は海で、地球上の酸素の半分は海洋プランクトンがつくり、大気中の45倍の炭素を海は蓄えています。しかし、地球温暖化や海洋汚染の影響で海の炭素の吸収能力は限界に達し、特にここ10年で海の環境は激変しています。ムール貝は植物プランクトンを食べ、海を浄化しながら育つことから、パタゴニアはスペイン産でオーガニック認証を得たムール貝の缶詰を取り扱っています。
厳しい認証制度を確立
さらに大事な資源が土壌です。土には炭素を吸収して貯蔵するポテンシャルがあり、食べものの95%が土に由来しています。しかし、世界では砂漠化がすすみ、今では日本の農地面積以上の土地で進行しています。そこで、土壌対策のひとつとして、なるべく耕さず自然に即した有機農業、リジェネラティブ・オーガニック農法をインドのコットン農場からスタート。この農業は少人数で対応でき、雨が降っても水を流出させない耐乾性があり、雑草を抑制して収穫高は一般農業の6〜8倍になり得ます。パタゴニアは、1996年にオーガニックコットンに切り替え、さらにリジェネラティブ・オーガニック・コットンへと段階的に切り替えることをすすめています。リジェネラティブ・オーガニック認証は既存の国際的な認証をベースにさらに高いハードルで設定、ニカラグア産「チリ・マンゴー」(チリはとうがらし)は初めてリジェネラティブ・オーガニック認証を取得した商品です。
パタゴニアは、数年前にさらに行動指針を「私たちは故郷である地球を救うためにビジネスを営む」と書き換え、「これからも大きいビジネスを目ざすのではなく、食と農の良い模範をつくり、良いストーリーを伝え、革命を生み出していきたいです」と近藤さんは話しました。
Table Vol.489(2023年6月)より
一部修正・加筆