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くらしと社会

戦争ではなく平和の準備を

昨年10月、政府の「安全保障関連3文書」改訂に対して、研究者、ジャーナリスト、NGO活動者など15名が議論を重ねて平和機構提言会議を設立、昨年12月15日、「戦争ではなく平和の準備を」と題する提言文書を公表しました。2023年3月27日(月)、コープ自然派・憲法連絡会は平和構想提言会議共同座長・川崎哲さん(ピースボート共同代表)に提言書の内容について聴きました(オンライン)。

「提言をもとにさらに議論が深められ行動に移されることを期待します」と共同座長の川崎哲さん。

今、何が起きているのか

 まず、参加者全員で約10年前つくられたアニメ「戦争のつくり方」を視聴。「このアニメのように日本が戦争へのステップを踏んでいくことにブレーキをかけようと、私たちは提言書を作成しました」と川崎さんのお話は始まりました。

 昨年12月16日、「国家安全保障戦略」など「安全保障関連3文書」の改訂が閣議決定されました。専守防衛という日本の防衛・安保政策の大原則を根本的に変質させる内容です。それが国会で議論される前に日米首脳会議でアメリカに報告されたという手続きひとつとっても大問題です。

 「安全保障関連3文書改訂について、政府は抑止力を高めるためだとしていますが、実際には戦争のリスクを著しく高めるものです。北朝鮮によるミサイル開発や中国の軍備増強・海洋進出は日本にとって重大な問題ですが、それらへの対応策が抑止力強化という名の軍備増強では解決しません。北朝鮮はミサイル発射について、米韓軍事演習への対抗措置だと主張。日米韓が軍事的圧力を強化し続けるなら、北朝鮮が軍事的挑発を加速させることは必至です。また、日米合同演習は中国を刺激することになり、抑止力を高めることでむしろ戦争への道をすすむと見なければなりません」と川崎さんは話します。

 現実に東アジアで戦争が起きてしまった場合、真っ先に攻撃対象となるのは沖縄・南西諸島です。戦争とは相手の軍事拠点を叩くところから始まり、在日米軍の中心は沖縄にあるので沖縄が攻撃対象になることは明らかです。かつて沖縄は本土を守るための「捨て石」とされ、県民の4人に1人、12万人が命を落としました。

 しかも、北朝鮮が核ミサイルを開発している状況下で戦争になれば、首都圏には横田基地や横須賀基地があり、戦争が本格化すれば首都圏も攻撃対象になると想定すべきです。北朝鮮が東京とソウルに核兵器を使用する事態となれば、東京では70万人が死亡し、250万人が負傷。ソウルと合わせて700万人以上が死傷すると推計されています。

 さらに、日本には50基近い原子炉が存在し、原発のリスクも含めて民間人が犠牲になるのが現代の戦争の特徴です。政府は軍備を備えておけば戦争を食い止められると言っていますが、実際に戦争が始まってしまった場合、どのようなことが起きるかということは何も語っていません。

「国家安全保障戦略」改定

 これまで日本は専守防衛という考え方のもと、敵国に攻撃できる能力をあえて持たないことを定めていました。他国に対して軍事的脅威にならないことが憲法上の基本的な防衛政策だと考えてきたのです。「反撃能力」という名の「敵基地攻撃能力」とは、こちらから攻撃するわけではなくやられたらやり返すだけだと政府は言いますが、どの時点で相手国が攻撃してきたと想定できるかは曖昧で、相手国が行動することを察知してこちらが行動すれば、相手国から見れば日本が先に仕掛けてきたと見られる可能性もあります。いずれにせよ、日本が反撃と称して相手国にミサイルを撃ち込めば、当然、報復攻撃を受けることになります。

 岸田首相は昨年11月、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)の2%程度に増額するよう財務大臣と防衛大臣に指示しました。さらに、12月には2023年から5年間の防衛費総額を43兆円とすることを指示。日本はGDP世界第3位の経済大国で、防衛費をGDPの2%にすることが実現すれば日本は世界第3位の軍事費大国になります。物価高とそれに伴う貧困・格差が続くなか、増税してでも軍事費を増大しようとしています。

 また、日本は日本国憲法のもと、原則として武器輸出はしないという方針でした。それが徐々に緩和され、2012年に「武器輸出三原則」は「防衛装備移転三原則」に変更。これは武器輸出はできるが、紛争国には武器を送らないというような制約があります。ところが今回のロシアのウクライナ侵攻を経て、武力紛争の当事国に対しても制約なく武器を輸出できるような動きになりつつあります。

 沖縄では新弾薬庫の建設がすすみ、米軍のみならず自衛隊の施設もどんどん増え、アメリカ軍と自衛隊が一体となって台湾有事を想定して闘う体制づくりや演習がすすんでいます。

 さらに、「国家安全保障」の名のもとに、経済・社会に軍事が入り込もうとしています。近年成立した「経済安全保障法」は民間の経済活動に対して政府が「国家戦略」の観点から介入、管理する流れをつくっています。また、戦争の反省の上で軍事研究を拒否してきた学術界に対しては、軍事研究を主流化する動きをすすめています。一昨年成立した「土地規制法」は自由な経済活動を規制する内容です。

考え方の転換が必要

 こうした動きのなかで考え方の転換が必要だと川崎さん。そして、まず、軍事力中心主義と抑止力神話から脱却すべきだと言います。A国とB国があり、A国が脅威だからとB国が軍事力を強化すれば、当然A国も強化します。こうなれば抑止のための安全保障だと言っても相互に軍事力強化につながり一蝕即発の状況が生まれます。国の安定を図るには軍事力の強化によるしかないという発想が日本の安全保障の議論を凌駕しているという状況を変えていかなければなりません。

 軍事力中心主義はナショナリズムと重なります。最近、周辺諸国に対する侮蔑的な物言い、あるいは国内のマイノリティに対する差別的な言動、いわゆるヘイトスピーチが広がっていますが、このことは軍事力中心主義の高まりと一体だと言えます。こうした動きを乗り越える議論を広げ、コミュニケーションをすすめていかなければなりません。

 次に、日本国憲法の基本原則に立ち返ること。9条はもちろん前文で「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることがないようにすることを決意」し、「全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有する」と平和的生存権を謳っています。その上で「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国家紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄」(第9条1項)しています。「かつての戦争は政府が誤って国民を戦争に導き、多くの命が奪われました。その反省から日本の戦後は出発しています。それを政府が勝手に上書きしようとしているのです。このように政府が暴走するときは軍事的な意味でも危険が高まるときです」と川崎さんは指摘します。

 3つ目は「日米同盟」一辺倒からアジア外交と多国間主義を強化することです。世界秩序が変わり、新興国が出てきて価値観が多様化している世界にあっても、日本は安全保障においては日米同盟を基軸とする議論がずっと支配的です。「これは現実をきちんと反映できない考え方で、政府はアメリカが国際秩序をつくり、日本はその中でやっていけると考えていますが、それはあまりに危険で、アジア外交や多国間の枠組みの強化に軸足を持つことが課題です」と川崎さんは訴えます。

今後の国際関係の課題

 今後の国際関係の課題としては朝鮮半島と日中関係が基軸になります。朝鮮半島に関していえば、これまで朝鮮半島の平和的非核化に向けたさまざまな核合意があります。いずれも朝鮮戦争を終わらせ朝鮮半島を非核化していくことを基調に双方が合意しています。それを誠実に履行させていくことを抜きに力には力を、行動すれば制裁をというのではエスカレートするだけです。重要なこととして、今年7月は朝鮮戦争休戦から70年を迎えます。これを機に本当に朝鮮戦争を終結させて平和条約を結ぼうという議論が高まっています。

 日中関係については、不必要に中国を刺激して台湾有事だと煽ることで本当に台湾有事にしてしまいます。中国へのあからさまな敵視政策は中止すべきです。互いに脅威とならないという原則の再確認を行うべきで、日中共同声明をベースに国交正常化以来の基本原則を改めて踏襲し、日本は台湾独立を支持するものではないことを明言する必要があります。台湾独立を支持するものではないということは、中国の人権問題などについて黙っていることではなく、人権問題や環境問題は国連の枠組みの中で国際基準に従って主張すべきは主張し、日本の自衛隊とアメリカ軍が一緒になって台湾に入っていくような認識を持たせないことが必要です。

 今国会では、敵基地攻撃について歯止めが何もかけられていません。すべて個別判断ということで想定事例も出されていません。ミサイル開発や導入についても政府は相手の武器の射程圏外から自衛隊員の安全を確保して発射すると説明していますが、明らかに相手のミサイル圏内にある沖縄・南西諸島のミサイル配備を否定していません。台湾有事ということで集団的自衛権を行使してアメリカとともに参戦することになった場合、日本がどのような被害を受けるかほとんど言及されていません。そして、台湾有事において在日米軍基地から出撃していくとなったら、日米安保条約のもとで事前協議がなされるべきですが、ほんとうに事前協議がなされるのか、また、どのような基準でノーと言えるのかについても明らかにされていません。嘉手納弾薬庫のように米軍基地と自衛隊が共同利用するような新たなリスクも生み出しています。トマホーク大量購入と全国各地での弾薬庫の整備、ごく最近では石垣島に陸上自衛隊の駐屯基地がオープンしました。ここに敵基地攻撃するためのミサイルが配備されることも想定されます。

 先日、岸田首相がウクライナを訪問しましたが、NATOの基金を通じて49億円支援すると言っています。NATOはすでにウクライナに武器支援している軍事同盟です。日本は欧米諸国と異なり、直接的な武器支援はしていませんが、NATOの基金に投じようとしていることから徐々に武器支援が全面的解禁になってしまうことが懸念されます。

 さらに日米韓3ヵ国での拡大抑止協議体の設置が報じられています。これは安倍首相が核共有を考えるべきだと言っていたこととつながります。アメリカの核兵器を日本も韓国も参加する協議体のもとで一緒に使っていく、ある意味で核戦略に日本も参加していくような動きが現実に起きつつあります。

戦争準備ではなく平和を

 このような戦争準備ではなく、平和のためにどのような準備ができるのでしょうか。

 まず朝鮮戦争を終結させるために休戦70年を機にした平和と非核化の交渉を行うこと。中国と互いに脅威にならないよう再確認すること。さらに東アジアの核ミサイル管理の各種条約の枠組み、民間や自治体の対話プロジェクトの活性化などが求められます。

 今、世界には大きくいえば2つの核条約があります。1つは「核兵器不拡散条約」、もう1つは「核兵器禁止条約」です。「不拡散条約」は1970年に発効した条約で米ロ英仏中の5ヵ国を核兵器国とし、それ以外の国には核兵器をもたせないという条約。もっと明確に核を禁止しているのは「核兵器禁止条約」で、2017年に採択され、核兵器の開発・保有・使用・威嚇・配備、それらに対する援助・協力をいかなる状況下でも禁止しています。核兵器禁止条約は、昨年、第1回締約国会議が開かれ、第2回締約国会議が今年の11月に行われることになっていますが、日本もNATOの国々も参加せず、NATOのうちドイツやノルウェー、また、NATOに加盟申請しているスウェーデンやフィンランドはオブザーバー参加しています。日本はオブザーバー参加すらしていませんが、危機的状況だからこそこのような国際法を広げることが必要です。

 「今年5月にはG7の広島サミットがあり、岸田首相はロシアに対して核兵器の使用を許さないというメッセージを発信する場にしたいと繰り返し語っていますが、核兵器そのものが危険だという議論に持っていけるかどうか。日本の市民がそのような議論を促していけるかが大事な視点になってきます」と川崎さんは話します。

市民が参画する安全保障

 大事なことは、安全保障の国際的枠組みを市民が参画する形でつくっていくことで、軍事力に依存しない安全保障のための連携が必要です。北東アジア地域ではモンゴルが拠点となって日本、中国、台湾、韓国、極東ロシア、極東アジアで戦争を防止するために対話を続けています。モンゴルは韓国とも北朝鮮とも国交があり、中国、ロシア、日本からも行き来できます。北はロシア、南は中国と核兵器を持つ大国に挟まれながら非核のまま全方位外交を展開しています。

 昨年から、沖縄の市民グループが台湾の人たちとともに台湾有事を起こさせないよう沖縄対話プロジェクトを始めました。緊張を抱えた地域において民間や自治体レベルで外交を強化していくことが緊張緩和や信頼醸成につながります。

抑止力強化にNO!を

 「ロシアの無謀な行為に引きずられて軍備優先の傾向がある中、改めて国連中心の枠組みを持たなければならないことを強く感じます。核の分野でいうと核兵器禁止条約が重要です。国連は大国が拒否権を行使すれば何もできないという意味で無力であるように思われますが、それでも圧倒的多数の声ということで何が正しくて何が間違っているかを示す基準を持っています。国連の力を最大限引き出すという形で、今、進行している戦争を止め、他の国々も戦争への道にすすまないようブレーキをかけるという役割を果たすべきです。また、民主主義を守るために専制主義と戦争してもいいという議論が高まる時には注意しなければなりません。民主主義は法の支配と言うなら紛争の平和的解決は義務であり、民主主義のために戦争することは根本的に間違っています」と川崎さん。第二次世界大戦は、日本、ドイツ、イタリアの独裁専制主義を倒すためだとアメリカは広島・長崎に原爆を投下しました。しかし、それは違うというのが日本の戦後の出発点でした。「私たちは民主主義を守るために戦争をする、人々が死ぬということに懐疑的でなければならない。抑止力の強化は戦争に向かう軍拡競争を生むので私たちは断じて受け入れてはならないと改めて問題提起します」と川崎さんは話しました。

コープ自然派京都・児島理事が「憲法連絡会」について説明。「憲法連絡会」ではどのようにすればより良い社会を築くことができるかを話し合っています。選挙の際には投票率アップの取り組み、選挙後の振り返りも行っています。
司会・進行はコープ自然派奈良・上市理事長。

Table Vol.489(2023年6月)より
一部修正・加筆

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