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食と農と環境

「育てる漁業」と「協同」の実践(鳴門魚類株式会社代表取締役 山本 章博さん)

「自然派Style雄武秋鮭切身」やホタテ、毛ガニなどを水揚げする雄武漁業協同組合は、漁業が持続的に成り立つ取り組みをすすめ、漁協で働く組合員の平均年齢は約30歳。その雄武漁協とコープ自然派をつなぐ鳴門魚類の山本さんに、漁協の取り組みと協同組合の役割について聞きました。

山本 章博 | YAMAMOTO Akihiro
鳴門魚類株式会社代表取締役。コープ自然派とのつきあいは30年以上。改めて生産者、生協、組合員という枠を超え、チームとして食べものを守っていく仕組みづくりに取り組もうとしている。

協同のまち、雄武

──雄武漁協はどこにありますか?
山本
 雄武町は北海道の北東部、オホーツク海に面した町です。東京23区よりも広い面積ですが人口は4000人ほど。産業としては水産業、酪農、林業が中心で、なかでも水産業が半分以上を占めています。漁業を中心としたまちづくり「マリンビジョン」を掲げる雄武町で、漁協のお互いの顔が見える関係のなかでの助け合いが根づく協同組合的な町といえます。

──雄武漁協の特徴は?
山本
 いちばんの特徴は、獲るだけではなく育てることに力を入れていることでしょう。この海域は流氷が豊富なミネラを運ぶ豊かな海です。ただ、海水温が上がり、これまで獲れていた魚が獲れなくなってきました。海の環境が変わっているのです。そこで、雄武漁協は「育てる漁業」に舵を切りました。

 例えばホタテは、オホーツク沿岸の34㎞にわたる海域を4つの区域に分け、稚貝を地撒きして育てる「4輪採」という方法をとっています。今年Aの区画でホタテを獲ると、そのあとに稚貝を撒いておいて、来年はB、再来年はC、その翌年はDと順番に漁をしていき、4年後に再びA区画で漁をする頃には稚貝が自然の海で育っているという仕組みです。鮭も、イクラの一部を人工孵化場で孵化させ放流する取り組みを続けています。

──山への植樹も行っているそうですね。
山本
 森が豊かになれば栄養分が川から海へと注がれて、生きものの豊かな海になります。雄武漁協では毎年6月に植樹を行っていて、今年もミズナラの苗木500本を植えました。漁師自身が森と海のつながりを意識する機会にもなっています。植樹はすぐに結果がでる取り組みではありませんが、子どもや孫の時代の食べものを守るための、自然に対する積立預金みたいなものですね。

──漁業の後継者不足は深刻です。
山本
 漁師として生活できなければ、漁師になろうと思えないですよね。雄武漁協では次世代に安定して引き継いでいくために、不漁や豊漁に関わらず獲れた水産物は漁協がすべて買い取り、売上を組合員である漁師に公平に分配する仕組みをとっています。若い漁師もスタート時から一定の収入が保証されるので漁師という仕事を選び、親も子どもに安心して仕事を継がせることができます。いま雄武漁協の組合員の平均年齢は約30歳で、漁船に乗る漁師の半分は20代と次世代が漁業を担っています。

──雄武漁協の鮭もホタテもおいしいと好評です。
山本
 ミネラルたっぷりの漁場で育った水産物を新鮮なうちに加工しているからでしょう。何よりも大切なのは鮮度です。例えば鮭は、船に氷を積んでいき、獲れたら氷水を張った水槽に入れ、浜に戻るとすぐに自前の加工場で加工するので鮮度が全く違います。加工場はHACCPに対応した衛生管理体制を整えています。

きれいな海と豊かな海はちがう

──水産物が獲れなくなっているというニュースをよく耳にします。
山本
 ひとつには、気候変動による海水温上昇の問題があります。温帯域に生息する魚の行動範囲が広がり、雄武で生まれた鮭もアラスカに向かう途中で成魚になる前に捕食されたり、水温上昇に適応できずアラスカまでたどり着けないケースも増えています。

 加えて、海がきれいすぎるという問題もあります。海で生きものが育つためには、畑の土と同じように窒素やリンといった栄養素が必要ですが、海の栄養が足りなくなっています。森が荒れると海の豊かさは減ります。また、工場排水や生活排水の浄化は必要ですが、山から流れてくる栄養分まで取り除いてしまうのはやりすぎです。僕が子どもの頃に見ていた鳴門の海の色はいまとは違っていました。いまの海は透明度が高くきれいですが、きれいな海と豊かな海は違うんです。

次世代に伝えたい「協同」の本質

──雄武漁協との出会いは?
山本
 良い漁場を探して全国をまわっていた2008年に、たまたま知人の紹介で出会いました。雄武漁協の水産物や取り組みに惚れこんだのですが、地方の小さな魚屋がいきなり漁協と取引できません。当時コープ自然派の専務だった小泉さんに推薦状を書いてもらって取引が始まりました。雄武漁協で目利きした鮭を加工場でフィレ(三枚おろし)にし、鳴門魚類で要望に合わせた大きさ、量にして組合員さんにお届けする形ができました。毎年現地に通って交流を続けていますが、不漁でも漁協が組合員の生活を支えることは大変ですから、買い支えが大切になってきます。

──漁協と生協が一緒に漁師を支えるということですね。
山本
 日本の漁業が衰退していくなかで、漁業を続けるための選択を支え続けたいですね。もちろん購入できる価格であることが必要ですが、その商品を取り扱う意味を重視しないと、安い方を選ぶお金のつながりになってしまいます。生産者と消費者が「人と人」としてつながるのが生協の「産直」「買い支え」だと思います。日本の海と漁業、土地と農業、そしてそこから生まれる食べものを、生産者と消費者という枠組みを超えて協同で守っていくという理念が大切だと感じています。

──理念を大切にした商品づくりとは。
山本
 鳴門魚類で使っている調味料は、「三河みりん」や「味の母」、「自然派Style関西風だしパック」などコープ自然派で扱っているものばかりです。これは魚の泳いでいる海を汚さないもの、土と自然に還るものしか使わないということで、組合員と一緒に自然環境を考えていけば、知識が増えて使う調味料も変わります。コープ自然派の生産者同士がもっとお互いの商品を使い合えたら、国産オーガニックの普及拡大に一層はずみがつくのではと思っています。

──これからどんなことがしたいですか?
山本
 これまで魚に親しんでもらいたいという思いで、20年近く魚のさばき方教室を開催してきました。ただ、僕も50代半ばを迎え、魚のさばき方という技術の部分を伝えるのは他の人に任せてもいいのかなと考えるようになりました。これからのコープ自然派の水産物について組合員のみなさんと一緒に考える機会をつくっていきたいと思っています。これから大人になる人たち、これから親になる人たち、そしてこれからのコープ自然派を担う人たちが「はじまりはここだったな」といえるような場を一緒につくっていければと願っています。

Table Vol.507(2024年11月)

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