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くらしと社会

縁起の視座で治療する「オーガニック医療」とは?

普段、食べものや環境などに気を遣っていても、病気になったら医師任せにして薬が多種になり、なんとなく不調になっていることはありませんか。コープ自然派兵庫組合員サークル「ぽっとらっく」は、佐古田三郎さん(オーガニッククリニック院長)に、体が一定の状態を保とうとする能力を生かして治療する「オーガニック医療」について聴きました。

講師の佐古田三郎さん。大阪大学医学部神経内科教授を経て、独立行政法人国立病院機構刀根山病院院長。2019年3月より医療法人篤友会 オーガニッククリニック院長。

縁起的視座とは何か

 佐古田さんのお話は、「縁起の視座とは何か」というちょっと難しいテーマからスタートしました。でも、これはどんな視点に立って治療するかという根本的な問題です。現代医療は「原因があり、その結果、病気が発生している」という単純化された科学的思考で成り立っていますが、その土台が適切でなければ、治し方の視点は大きく変わります。

 量子力学の考え方では、速度は何に対して定義するかを決めない限り、存在しないように、人間の臓器も手足の動きや呼吸、ホルモン、血液・リンパなどさまざまな影響を受けていて、他の臓器や環境などの縁で考えるべきだと佐古田さん。従来なら同じ病名なら同じ治療を行いますが、縁起の視座に立てば、病気を治すのではなく、Aさんを治すという視点に立つことになります。仏教用語の縁起とは、すべては相互に関係し合って成立し、原因も結果も始まりも終わりもないことを言います。つまり、縁起の視座での診療では、その人の体や生活(食事・睡眠・運動など)を眺めてどうするか思案します。

現代医療の問題点とは

 現代医療で最重視されているのは「科学的根拠に基づく医療(EBM)」です。EBMにおいては、患者に所属する大半の情報を消去し、すべての患者は同一であるとして科学的臨床試験の対象としています。しかし、患者はみな例外なので科学的記述は困難で個人によって求めるべき健康は異なり、治療方法も異なります。実際の治療では患者が服用している薬剤や合併症を考慮しながら、それぞれに合った治療を考察します。また、専門医も必要ですが、細分化された治療方法から一個人の体全体を考える大局への道はないと佐古田さんは話します。

 「よく効く薬が出てくるのは良い面もあるが失うものもある」と佐古田さん。例えばよく効く睡眠薬を服薬し続けていると少しずつ薬の量や種類が増え、日中散歩したり、ぬるめのお風呂で半身浴するなど工夫の積み重ねをしなくなっていくことが問題だと佐古田さんは言います。

 さらに、逆流性食道炎+高血圧+軽度認知症の患者を例に挙げると、通常では消化器内科、循環器内科、神経内科を受診してそれぞれ薬をもらいます。そして、ポリファーマシー(害のある多剤服用)になり副作用の可能性が上昇します。他の全身症状について詳しく聞くと睡眠時無呼吸や低呼吸症候群である可能性も高く、実際に睡眠治療で治った人もいました。「まず薬というのではなく、自分自身の日常生活を見直してみましょう。特に食事・睡眠・運動・生活リズムが大事です」と佐古田さんは言います。

睡眠異常による体調不良

 睡眠時無呼吸症候群についてはよく知られていますが、日本人に多いのは睡眠時低呼吸症候群とともに上気道抵抗症候群(UARS)です。UARSでは呼吸は浅くなりますが、血中酸素濃度は下がりません。言うなれば一晩中細い管を通して息をしているような状態で自律神経も休めません。UARSは多彩な病態(しびれ・うつ・倦怠感・めまい・慢性疼痛・不定愁訴・不眠・眠気など)と関係していますが、やせ形で血圧も正常の人が多く、ほとんど診断されず、治療はCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸法)やマウスピースで行います。

 また、UARSの症状はコロナ後遺症に似ていますが、これは概日リズム異常症かもしれないと佐古田さん。概日リズムとは約25時間周期で変動する生理現象のことで、睡眠異常が起きれば体内時計も乱れ、心臓や肝臓の体内時計を壊すと心不全や肝不全になります。時計遺伝子はすべての細胞に存在し、多くの体調不良に関係している可能性があります。

 子宮内膜症も夜勤労働者に多いなど時計遺伝子異常の可能性があります。通常の治療は、月経を止めたり、手術をしたりしますが、オーガニッククリニックでは規則正しい生活とオゾン療法で成果を上げています。更年期障害も体内時計の乱れによるもので光療法が有効だとする発表もあります。

太陽光の役割と光療法

 地球の生命は太陽光によって維持されてきました。太陽が昇って沈むことで1日のリズムが生まれ、太陽とともに地球の生物は進化してきました。しかし、残念ながら医学教育では太陽が私たちの体にどんな影響を与えてくれるかという教育はほとんど行われていません。

 紫外線は皮膚がんを起こすなど否定的に見られていましたが、最近では肯定的な見方もあります。ビタミンD合成も光で刺激されます。ビタミンD欠乏と関連する病気としてパーキンソン、アルツハイマーなどの神経疾患、統合失調症や自閉症などの精神疾患、骨粗しょう症、その他、筋疾患や喘息など呼吸器疾患、ガン、糖尿病などが報告されています。ヒトの場合、光が脳の松果体に入ると下垂体からホルモンが出て体内の機能を組織化し外部の自然環境と同調させます。つまり松果体は体の光度計や光タイマーとして働いているのです。

 また、光をカットするとされるメラニンが網膜や耳などにもあることがわかっていますが、エネルギーがたくさん必要そうな場所にメラニンがあるのも不思議です。植物が太陽光で光合成をするように、ヒトも太陽光からエネルギーを作り出す働きがあるのではないかという研究も行われているということで光の働きから目が離せません。

 実際に行われている光治療としては、時差ぼけ修正、冬季うつ病、登校拒否、新生児高ビリルビン血症、がんの光治療などがあります。登校拒否や冬季うつ病では、10時就寝6時起床の正常なリズムが後ろにずれていますが、朝、光を浴びることによって改善します。この光療法はすでにノルウェーやスウェーデンでは保険適用になっているということです。

 外部環境と内部環境の一致が健康の秘訣です。1日1回外に出て1時間程度光を浴びましょう(できれば午前)と佐古田さん。それだけで免疫応答やホルモン分泌が変化し、外部環境と自分の体がアジャストされます。佐古田さんは散歩のときは紫外線をカットしないメガネをかけて歩いているそうです。

マイクロRNAについて

 食事について、今回はマイクロRNA(miRNA)に絞って話しました。miRNAは他の遺伝子の発現調節の機能を担っているRNAで病気の発現や抑制にも機能し、細胞や生物を超えて作用する働きがあります。母乳にもたくさんのmiRNAが含まれ乳児の免疫系の成熟に関わっています。

 ハチミツ、根菜類、米、コーヒーなどにもmiRNAはたくさん含まれています。スイカズラ(忍冬、金銀花)がインフルエンザの治療に効果的だということは知られていましたが、スイカズラのmiRNAがインフルエンザ遺伝子増幅を抑えることもわかってきました。スイカズラを煎じて飲めばコロナ治療に有効との報告もあり、佐古田さんは毎日の予防としては酒粕、時折、金銀花飴、鼻の粘膜に太白ごま油を塗っているということです。ハチミツにもそれぞれの花によって異なるポリフェノールやmiRNAが含まれ将来の注目すべき食材だということです。

人新世の健康を求めて

 「病名がつけば同じ治療法を行う画一的治療をやめ、病気の治療は病院に丸投げせず自分でも主体的に考えてみましょう。そのためには仲間を集めて今回のセミナーのような健康寺子屋のようなものをつくることから始めませんか」と佐古田さんは締めくくりました。※このセミナーは、パーキンソン病への理解を広めるために活動しているNPO法人てんびんとの共催で開催されました。

Vol.486(2023年4月)より
一部修正

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